2-39 メマリーのマザートマト攻略5
グレムリンを倒してドロップを拾った直後、ガサガサと小さく茂みがこすれ合う音が聞こえた。
「メマリー、気を抜くんじゃねぇ!」
音が聞こえると同時に、俺は叫んだ。サエラもよく分からないという顔をしている。
Mobを全滅させて喜んでいるメマリーの後方から、何かが猛スピードで走ってきた。トマトのように赤い体のリス。トマトノーだ。
リスは全てルートという性質を持っている。ルートとは道端に落ちているアイテムを拾って食べることだ。アイテムは一瞬で食べられ消滅する。
今、キラトマ8体分のトマトが道に落ちている。トマトノーに突破されたら、せっかくのメマリーの苦労がパーになってしまう。
トマトを狙う不届き者に気づいたのか、メマリーは後ろを振り返った。すぐさまメマリーは外付け魔石を数個だけ入れ替えると、『ダッシュ!』と叫びトマトに向かって走り出す。ダッシュは走るスピードを上げるアクティブスキルだ。
しかし、トマトノーのスピードはもっと速い。あっという間にメマリーを追い越した。その瞬間、メマリーは走りながらロッドを振り上げ攻撃態勢に入る。
「それじゃあ、間に合わないよ!」
サエラの叫び虚しく、トマトノーは大ジャンプ。もうメマリーの攻撃は当たらない。
トマトノーにはこのパターンで何度もアイテムをかっさらわれている。
トマトノーはそのままトマトまでダイブ。
残念ながら、この短距離レースはトマトノーの勝ち。俺はそう確信した。サエラもきっと同じことを思っただろう。
『トマトは渡さないっ!』
メマリーは大声を上げ地面を強く蹴った。
ダッシュで勢いづいた力強い跳躍。体全体を弓なりに反らし、その反動を利用しロッドを大きく振り下ろす――。
1個目のトマトに舌鼓を打っていたトマトノーの脳天にロッドが叩きつけられた。
メマリーの渾身の一撃を受けてトマトノーがその場にぽてりと倒れる。頭に叩攻撃を受けたので、スタンしたのだ。
「メマリー、ちゃん……、頑張った……ね……うぅ……」
サエラはハンカチで目を押さえながら声を震わせた。
「ああ……。最後は自分で運を呼び込んだな」
頭に叩攻撃をしたからといってスタンするとは限らない。いやむしろ、しないのが普通だ。最後の奇跡はメマリーの諦めない心が起こしたんだ。
トマトノーは倒された後、トマトをドロップ。そのトマトには10の文字が書かれていた。
『トマト10個!』
10の文字は同じアイテムが10個という意味だ。10個拾うのは面倒だからな。
『もしかして……!』
メマリーは急いで落ちているトマトを全部拾い集めた。
『今、トマトいくつだっけ?』
メマリーの言葉を聞いた俺は手元のメモに印を打ち、黙ってサエラに手渡す。それを見たサエラの手がぷるぷると震え始めた。
サエラはすぐにメマリーとのPT通話を繋ぐ。そして、一つ深呼吸するとメモを読み上げる。
『トマト1426、フルーツトマト74。合計――、1500! おめでとう!
ノルマ達成だよ!』
サエラの言葉が喜びで爆発した。
『メマリーちゃん、おめでとう~~。こんなに早くクリアできるなんて、思わなかったよぉ~』
俺もサエラと同意見だ。
トマトのMobに慣れるまで、3日。トマトの3階に行けるようになるまで、もう1日。トマトの3階でまともに狩りをできるようになるまで、さらに1日。そこから3日かかってクリア。合計8日間。俺はそう予想していた。
だが、実際は、トマトの3階に3日目で行き、3階にもすぐ対応できた。合計5日間。
メマリーの成長っぷりは、俺の想像を遥かに超えていた。
『うぅ……わたし、わたしぃ……』
メマリーは涙で言葉にならない。それを見て、
『メ゛ヴァディーち゛ゃぁぁん~~』
サエラも大泣きだ。当の本人よりも感動しているんじゃねーか。誰だよ、メ゛ヴァディーって。
PT通話を繋いでメマリーにメッセージを伝える。
『泣いている暇はねえぞ! 5日もレべリングを中止したんだ。泣きてぇのはこっちだ、バカ野郎。すぐに戻って来い。アキ行くぞ』
本来の俺たちの目標はメマリーのレベルを82にすることだ。トマトでは1レベルしか上がらなかった。あと、16日で27レベルも上げないといけない。
メマリーはハンカチで涙をぬぐうと、
『うん! わたし、頑張るよっ!!』
いつもよりも元気に返事をした。うるさいくらいの大声で。
次回は2月27日の12時頃に更新の予定です。
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