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2-36 メマリーのマザートマト攻略3

 そわそわした様子でサエラが、隣にいる俺に話しかける。


「まだかな~。まだかな~。メマリーちゃんから連絡は来ない?」


「来てねえよ」


 このやり取りも何度目だろうか。


「もしかして、メマリーちゃん寝過ごした?」


「お前じゃあるまいし、ねーよ」


「1人でトマト行くの怖くなっちゃったとか……」


「もっとねーよ。それより、のどが渇いたから茶でもだしてくれ」


「ゴメンねー、お茶は無いよー。リンゴジュースとグレープジュ――」


「好きにしろ」


 今、俺たちはサエラの家にいる。何をしているのかというと、メマリーからのライブ配信を待っているところだ。

 JAOには、JAOでの活動をライブカメラに収めて配信する機能がある。


 メマリーにマザートマト攻略の様子を配信させ、俺たちはその様子を見守ることにした。

 昨日はマザートマトの紹介も兼ねて俺たちも同行したが、今日からはメマリー1人で攻略してもらう。俺たちが一緒にいると、メマリーが攻撃されないからだ。それじゃあ、修行にならない。



「お、メマリーから連絡が来た」


『今日こそがんばりま~す』というメッセージと、女子が好きそうなかわいいスタンプ。俺は『あいさつなんかいらねーから、配信のパスを教えろ』と返信。


 サエラがジュースと山盛りのお菓子を運んできた。朝っぱらから菓子なんて腹に入んねーよ。


「メマリーちゃん、大丈夫かなぁ~」


 サエラが心配そうな顔をしている。昨日はトロール相手にぼこぼこにされたからな。そう思うのも無理はない。


「んなもん、メマリー次第だろうが」


「それもそうだね」


 サエラもテーブルにジュースとお菓子を置いて、俺の隣に座った。



 ウインドウを操作してライブモニターを起動。メマリーから教えてもらったパスを入力。すると、黒一色の画面が切り替わり、マザートマトのメテオジャム前にいるメマリーの姿が映った。


『聞こえてますかー』


 メマリーは楽しそうに大きく手を振っている。


「聞こえてるよ~」


 サエラも画面のメマリーに向かって大きく手を振って呼びかける。配信だからメマリーには分かんねーんだけどな。


『今からマザートマトの攻略、開始しまーす』


 そう言って、メマリーはマザートマトの入口へと駆け足で走っていった。

 満面の笑みを浮かべたその顔に気負いはない。いい調子だ。リラックスできている。




 狩りを開始して2分経過。今のところ順調。だが、相手にしているのは雑魚ばかり。

 雑魚だけを狩り続けていても、目標の1500には届かない。マザートマトの最上階である3階で狩りを続けられるくらいに、メマリーは強くなる必要がある。


 奥から何かが近づいてくるのを発見。


「さあ、メマリーがどれだけ変わったか、見せてもらおうじゃねえか」


「だね」


 前方の巨木が切り倒され、視界が開けた。

 長巻を肩に担ぎ、不遜な態度でメマリーを睨んでいる。メマリーが昨日完敗した相手――トロールだ。


 メマリーとPTパーティー通話を繋ぐ。


『トロールとやれ』


『うん!』


 気合十分の声。ライブモニターには、画面に向かってピースサインをするメマリーの姿が映っていた。昨日のような、びくびくおどおどした態度ではない。


『バカ野郎。もう戦闘は始まってんぞ。外付け始めろ』


『うん!』


 俺に言われてメマリーは外付けを始める。指の動きに迷いはない。対トロールのレシピは考えてきているみたいだ。


『リベンジ、期待してんぞ』


 俺は通話を切った。



 メマリーは外付けを完了させ、両手に武器を出現させる。武器は昨日と同じく、棍。


 棍とは長柄カテゴリーの武器で、一言で言うと木の棒だ。威力は低いが、RANは2mで長柄としてはまあまあの射程がある。

 だが、トロールの長巻はRANが2.2m。射程外から攻撃をしかけるには厳しい。威力が低い点も、高DEFのトロールに対して相性が良くない。

 どうする、メマリー……?


 メマリーは棍をやや斜め上に構えながら、トロールに向かって走る。突っ込んでくるメマリーに対して、トロールは長巻を掲げて斬り下ろ――


 ガキン!


 メマリーの頭上で、長巻の刀身と棍が激突。トロールの攻撃をブロックした。

 高威力のトロールの攻撃を受けてはHPが持たない。それなら、武器でブロックするのがいいと判断したのだろう。棍は長いから、下手くそでもブロックしやすいと思ったのかもしれない。



「悪手だよ!」


 隣に座っていたサエラが立ち上がって大声を出した。俺は腕を組んだまま黙って画面を見つめる。


 メマリーはトロールの力強い攻撃を弾き返したことで、大きくよろけてしまった。その隙にトロールは少し後退。残念ながら仕切り直しだ。


 サエラの言葉はもっともだ。

 トロールのほうがメマリーより力は強い。押し合いで不利になるのは、メマリーだ。



「いいじゃねぇか」


 俺は画面を見つめながらサエラに話しかけた。


「どうして? パワーのある相手に打ち合いなんて、危険だよ」


「トロールのstrはボーナス2か3だろう。ボーナス1のメマリーとそれほど差はねえよ」


 strが11の倍数ごとに、力は強くなる。ステータスから考えて、トロールのstrは40もないだろう。武器の重さを考慮しても、メマリーを完全に押し込めるほどのパワーはない。

 押し込まれなければ、戦いに有利なのは動きの速いメマリーのほうだ。



「トロールなんて雑魚、倒す方法なんざ、ごまんとあるだろ」


 いくらレベルに見合わない強さだからといっても、しょせんはRランク。HRランクの魔石をふんだんに外付けすれば、簡単に倒すことができる。


「うん」


「俺は、HR防御を填めまくって長巻を折る作戦を採ると思っていたんだ」


 JAOでは、防御は最大の攻撃だ。長巻のDRAは1800しかない。防御HRをたくさん外付けすれば、長巻なんざあっさり折れる。そうなれば、トロールを守る武器は何も無い。殴り放題だ。


「でも、あいつはそんな楽な戦法に流されなかった。自分の頭で考えて、泥臭く正面から打ち合うことを選んだ。俺はその姿勢を買う」


 メマリーの作戦は定石、最良なんてものからは程遠い。だがこれは、誰に教えられたものでもなく、他人のアイデアをパクったものでもない。メマリーが自分で考え出したものだ。

 目標をクリアするために、ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ねる。それこそ、ゲームが上手くなるのに一番必要なことだ。


「それに――、メマリーの顔をよく見てみろ」


 叩きつけられた長巻の刀身を、メマリーは棍の真ん中で受け止めた。WEI6000の重い一撃。歯を食いしばり、踏ん張るメマリー。猛烈な攻撃を繰り出す鬼に、一歩も怯んでいない。彼女の瞳の中の火は、消えちゃあいない。

 メマリーは絶対に強くなる。


「そうだね」


 サエラは再びソファーに腰を下ろした。



 戦闘開始から30秒以上経過。まだ、メマリーとトロールは打ち合っている。メマリーのHPはまだ余裕だ。とはいえ、パワフルな長巻による攻撃の前になかなか近づけないでいた。


 トロールがメマリーの腹を斬った。上振れしたのか、今までよりも大きなダメージ。


「痛ぁぁぁ!」


 メマリーの顔が苦痛に歪む。

 トロールが腰をぐっとひねって反らし、長巻を振り上げようとする。さらに追撃をかます気だ! よけろ!


「負けないもん!」


 メマリーは長巻の先端をキッと見据えたまま、右足をドンと突き出し、


 バシン!!


 棍で長巻の先端を強く打ちつけた。


 刀身の軌道が最高点に達する前に小突かれたことでバランスを失ったのか、トロールが腕をわずかに引いた。



 チャンスだ! 今まではトロールがぶん回す長巻に押されていたが、ようやくメマリーがわずかに押し返すことができた。これでトロールに大きな隙ができる。


 ブロックによりメマリーとトロールにディレイが発生。先に解けたのは、もちろんメマリー。WDLの大きな長巻と小さな棍、勝負にならねえ。


「走れ!」

「走って!」


 俺とサエラが同時に叫んだ。長柄は自分の間合いでは最強だが、接近されると弱い。接近できたら、勝負はもらったも同然。


 ディレイから解けたメマリーは、全力でトロールの懐めがけて走り込む。

 トロールが動き出した。だが、トロールは体勢を崩している。不安定な姿勢ではもう止められない――。

 ついに、メマリーはトロールの懐に潜り込むことに成功した。



『ウ、ウォォォーー!』


 悔しげな咆哮を上げて逃げようとするが、動きが非常に遅いトロールは、もはや逃げられない。


「もう逃がさないんだから!」


 メマリーは棍からグラディウスに装備変更。そして、グラディウスでトロールの胸を刺す。


「グフゥゥ――」


 トロールは嗤っている。トロールは高DEFで高HP。メマリーの貧弱な1撃などではたおれるわけがない。



 昨日までのメマリーならまた泣いているだろう。けれども、今のメマリーは涙を流していない。


「諦めなければ――」


 逃げるトロールに張り付き、固い石肌にグラディウスを何度も突き刺す。


「想いは絶対――」


 剣を突き立てるたびに、少しずつではあるが、確実にトロールのHPバーが削れていく。


「叶うんだから!!」


 繰り返すこと11回。ついに、トロールの巨体がぐらつき、前方に倒れて爆散した。


「これで、メマリーは一つ変われたな」


「だね」


 俺とサエラはふっと笑うと、ジュースの入ったグラスで小さく乾杯した。




『見てた~、わたし、やったよ~』


 カメラに向かって屈託ない笑顔で大きく手を振るメマリー。

 それを見た俺はPT通話を繋ぎ、メマリーと会話する


『何だ、あの無様な戦闘はよぉ! 話にならねえ!』


『ご、ごめんなさいっ!』


『トロールみたいな木偶の坊相手に、懐に潜り込むまで何分かかってんだ! モーション避けができてねえ!』


『ご、ごめんなさいっ!』


『長巻の特徴、ちゃんと調べたのか! 全然理解していねえ戦い方だったぞ!』



 俺が小言を言っている横で、サエラはポップコーンを頬張りながら、キーボードのアプリを叩いている。


「そぉ~しんっふぉ。むしゃむしゃ――」


 サエラはメッセージを送信し終えると、キーボードのアプリを閉じ、再びジュースを飲み始める。

 数秒後、メマリーが何かに気づいてウインドウを操作する。表示されたものを見て、メマリーはくりくりとした目をこちらに向けた。


『レイさん、褒めてくれて、わたし、嬉しいっ!』


『はぁ!? 今の話聞いてたのかぁ!? 全っっ然、褒めてねーよ!』


「さっきまで、メマリーちゃんのこと~、すっごく褒めてたよ~」


 鼻歌を口ずさむように、サエラは楽しそうに話した。


『さては、サエラ、お前、メマリーに俺が褒めたこと教えただろ! って、しまった、誤爆した!』


 PT通話がオンのままだった。当然、この会話はメマリーに聞こえている。

 あ~、もう~、くっそぉ~!!


『じゃあ、今度はレイさんにもっと褒められるように、がんばるっ!』


 メマリーは満面の笑みを浮かべ、くるっとその場でターン。そして、そのまま森の向こうへと駆け出して行った。

次回は2月24日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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