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1-7 スタートライン

ゲームシステムの説明が多い話です。苦手な方は流し読みしてください。後書きに簡単なまとめを記載しておきます。

『武器製造』のアイコンを見て息を呑む。ここは工房じゃねえんだぞ。何で鍛冶スキルが使用可能になってるんだ……?

 疑問半分喜び半分の気持ち。震える指でアイコンをタップする。


 すると、「炉に火の魔石を入れてください」という説明文がウインドウに表示された。

 もちろん、路地裏に炉はない。馬鹿らしいと普段なら一蹴していただろうが、今日は試さずにはいられない気持ちだった。


 火の魔石をインベントリから呼び出し、とりあえず手元に置いて様子を見ることにした。すると、魔石が消滅し小さい火が起こる。

 これ以上やると、いくら人目につかない路地裏だからといっても目立ちすぎる。騒ぎになるといけないので、いったん場所を変えることにした。






 よし、ここなら邪魔されずにすむな。

 選んだ場所は、レスターンの外に位置しているフィールドマップ『ナナン平野』にある一軒の廃屋の中だ。人に見られることもないだろうし、襲ってくるMobもいないので問題はない。

 ちなみにMobとは世間一般でいうモンスターのことだ。MMORPGではモンスターと呼ばれることはまれである。


 街でも、炉に火をつけるところまでは上手くいった。だが、ここから先の工程も上手くいくとは限らねえ。ちゃんと製造できるか確認しねえとな。


 今回の作業の目的は、武器製造が工房なしでも可能かどうかの確認だ。

 だが、作る武器はタイラン製みたいなお粗末なものじゃねえ。俺が製造するのは、本物の武器だけだ。


 小屋の隙間から入り込んでくる冷たい夜の空気が、ぴりぴりと肌を刺す。この世界でも季節は秋なのかもしれない。

 両手で頬を力いっぱい叩き、気合を注入。

 さぁ、製造開始だ!



 まず武器を作るにあたって、武器の種類を選択する必要がある。


 JAOで製造できる武器の種類は100種類。その1つ1つが異なる特性を持っている。長い武器、短い武器、威力が高くなる武器、威力が低くなる武器、壊れにくい武器、壊れやすい武器、重い武器、軽い武器……。似ているものこそあるが、細かいことまで検討すると、1つとて同じものなどない。

 武器の種類の選択は、製造するうえで極めて重要だ。



 武器は6つのカテゴリーに分類される。

 ○刀剣

 ○短剣

 ○長柄

 ○鈍器

 ○投擲

 ○杖



 それぞれの性質を大雑把にいうと、こんな感じだ。


 刀剣は、最も種類が多く34種類もある。ファンタジー小説とかのアニメの影響もあり、当然一番人気がある。威力が高めで、耐久力に優れている。他は平均的で汎用性が高いものが多い。形状的に乱戦に強い。


 短剣は、投擲以外の武器に比べて段違いで壊れやすいうえに、威力も低め。だがその分、軽く携帯性に優れているのでサブウエポンとしての需要が高い。小回りが利くので防御に優れている。


 長柄は、距離を取って攻撃できるため使い易い。初心者から上級者まで広く使われている。だが、接近されると弱い。携帯性に難があり、威力と耐久が刀剣よりもやや劣る。


 鈍器は、鞭とか十手とか掛矢とか個性的な武器が多い。威力はいまいち。


 投擲は、射程が長くダメージも大きい。しかし、使い捨てのものが多く、金がかかる。システムアシストがあるとはいえ、非常に当てづらい。


 杖は、装備すると魔法を使うことができる。武器がメインのゲームとはいえ、やはり他のゲーム同様魔法の存在は大きい。



 俺が作ることができる武器の種類は94種類。当然、全ての特性は頭に叩き込んでいる。

 その中から、俺はロングソードを選択。

 ロングソードは長さ、耐久、重量、威力、全ての点で非の打ち所がない。そのためゲームでは人気の汎用武器だった。無難といえば無難な選択だが、異世界でもきっと大活躍してくれるはずだ。



 次に、武器に内蔵する魔石を選択する。どんな魔石を内蔵するのか、その選択こそが武器屋の1番の腕の見せどころだ。



 魔石は色々な種類がある。


 その中でも、威力を表すATKアタックが上昇する【威力の魔石】。

 命中を表すHITヒットが上昇する【命中の魔石】。

 回避を表すDOGドッジが上昇する【回避の魔石】。

 防御力を表すDEFデフが上昇する【防御の魔石】。

 武器の耐久値を表すDRAデュラが上昇する【耐久の魔石】。

 以上、5種類の魔石は基本魔石と呼ばれている。



 魔石を6個から12個組み込むことで、武器の性能がその分上昇する。

 このゲームは魔石の効果が非常に大きいので、レシピは慎重に考えなければならない。レシピとは内蔵魔石の構成のことだ。

 基本魔石を中心にレシピを組むのが王道だ。他の魔石を中心に組んでしまうと、特化度合いは高くなるが、ステータスが貧弱になったり対応力が低くなったりしてしまう。色々なタイプの敵を相手にしなければいけないJAOでは、それは致命的だからだ。


 また魔石にはランクが存在する。武器と同じくN・HN・R・HR・S・HS・SS・U・HUの9種類のランクがある。ランクが高くなるほど効果は高くなる。



 今回作るロングソードのランクはSだ。タイラン商会のカタログを見ていて、この世界ではSランクの武器が1番多く売れていることが分かったからだ。

 S武器を作るには、原則HR魔石が材料になる。というわけで、魔石のランクはHRから選ぶ。


 JAOには即死級の火力を持つMobが多い。汎用武器を名乗る以上、あらゆるMobに対応することが求められる。というわけで、しっかりDEFを上げて即死を防ぐ必要がある。

 それに、どんなタイプのステ振りであっても、DEFがあれば狩りは安定するし安心できる。

 そこで防御の魔石HR×4を選択。



 次に、威力の魔石の個数を決める。

 JAOではMobのHPは全般的に低く設定されている。1回攻撃を当てただけで倒せるMobが多い。逆にいえば、1確(1回で敵を倒すこと)することが望まれる。コンピューターゲームと違ってVRMMOである以上、動きが遅いMobはともかく、1回攻撃を当てることは大変だからだ。だから、火力はなるべくあったほうがいい。

 それに、ロングソードは火力が上がりやすい武器だ。威力を上げることが性能をフルに活かすことになる。

 よって威力の魔石HR×5を選択。


 耐久の魔石はHRランク以下のものは効果が薄いので、選択しない。ロングソード自体DRAが高いので耐久の魔石なしでも大丈夫だろう。

 回避の魔石は、1つ組み込んで安定性を上げるかどうか迷ったが、汎用性という点で他の基本魔石に劣るので、選択しない。

 後の3つは命中の魔石HRにした。タゲ取り(敵の引きつけ)をするにしても、メイン火力をするにしても、当たらなければ意味がないからだ。



 今回作ったロングソードのレシピはこうだ。


 種類:ロングソード

 ランク:S

 内蔵魔石:威力の魔石HR×5

 防御の魔石HR×4

 命中の魔石HR×3


 かなりの鉄板レシピだ。面白みには欠ける。だからこそ、性能には自信がある。



 火起こしから始まる武器製造は問題なく進んでいった。

 熱された金属塊を何度も金鎚で叩く。金属塊を叩くたび、キーンという澄み切った高い金属音が辺りに響く。


 リズミカルに響く心地良い音を聞きながら、胸躍る期待を感じた。

 このまま上手くいけば、俺は工房なしでも武器製造できることになる。そうすれば、この世界で鍛冶屋として生きることができる。


 ──だが万一、武器製造が最後まで上手くいかなかったら、やっぱり鍛冶屋になることはできないということだ。俺のやりたいことは叶わなくなる。この異世界で朽ちてゆくだけの未来が待っているだろう。


 ──いや、今は期待も不安も考えないようにしよう。目の前の金属塊に集中だ。

 ゲームでも仕事でも、目の前のやるべき事に集中しないやつは失敗する。それは色々な人に教えられたし、実体験からも学んだ。

 気合を入れ直し、今度は無心で鎚を振るい始めた。



 武器製造は滞りなく進み、いよいよ最後の工程、熱した刀身を冷却する作業だ。これが無事終了すれば、武器は完成する。

 水の魔石を使用して水を出す。本来は工房に備え付けられている水槽に水を入れるのだが、まるでそこに水槽が存在しているかのように、水が何もない空間にこぼれずに集まった。

 後は熱された刀身を水槽に浸けるだけだ。ゲームだから、難しいコツとかは必要ない。

 思い切って一気に、刀身を水槽にドブンと浸ける。


 成功なら刀身が水中で黄色に輝く。

 祈るような気持ちで瞬きもせずに見つめ続けた。



 そして刀身から、目がくらむほどまばゆい、黄色の光が放たれた。

 慌てて水槽から引き上げると、出てきたのは完成したロングソードだった。

 それはついさっきまで存在していなかったということを示すように、小屋の隙間から差し込む月の光を反射して、一点の曇りもなく輝いている。


 手に持ったロングソードの感触を確かめる。ゲームだからずっしりとまではいかないまでも、十分な重さが感じられる。

 今度は頬をつねって確かめるまでもねえ。これは現実だ。


 武器製造は成功したんだ!



 そのことを意識した時、心臓がビクンと大きく跳ね、体中に電流のように強烈な感情が駆け巡る。

 1年7ヶ月、ようやく、ようやく、ようやく、ようやく、ようやく、スタートラインに立てたんだ!

 この世界でもナンバーワン武器屋を目指すことができるんだ!

 俺の冒険が、今、ここから始まるんだ!


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~!!」


 焦り、不満、失望、後悔、全て吐き出し、腹の底から歓喜の雄叫びを上げた。声がかれるまで叫び続けた。



 この瞬間とき──、俺の第2の人生が産声を上げた。


◇今回のJAOのシステム説明まとめ1


武器は以下の6つのカテゴリーに分類されます。

○刀剣

○短剣

○長柄

○鈍器

○投擲

○杖



◇今回のJAOのシステム説明まとめ2


魔石を製造時に組み込むことで、武器の性能がその分上昇します。



◇今回のJAOのシステム説明まとめ3


魔石は色々な種類がありますが、


威力を表すATKアタックが上昇する【威力の魔石】。

命中を表すHITヒットが上昇する【命中の魔石】。

回避を表すDOGドッジが上昇する【回避の魔石】。

防御力を表すDEFデフが上昇する【防御の魔石】。

武器の耐久値を表すDRAデュラが上昇する【耐久の魔石】。

以上、5種類の魔石は基本魔石と呼ばれています。




拙作を評価していただき、ありがとうございました。大変嬉しく思っております。


この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々な武器の設定を見て、ザナドゥとかハイドライドとか思い出しました。職人主体のお話、楽しみにしています。
2020/02/02 22:35 退会済み
管理
[一言] ゲームと現実の区別が出来てない主人公(笑)ゲームできねー異世界転生した意味がねーって悪い意味でうける。
感想一覧
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