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2-18 本気の顔

(注意)胸糞展開がある話です。苦手な方は最後だけ読んでください。

 それから俺はサエラに代わってレンタルサービスの説明をした。工房以外の場所でも武器製造ができる移動工房のチートは知られていたので、話はスムーズに理解してもらえた。


「ってわけで、俺の武器を使ってくれたら、あっという間に99レベルだ。どうだ、利用してみねえか」


 だが説明を全て終えても、3人の顔は渋かった。


「残念だけど、僕は君のサービスを今のところ利用するつもりはないよ」


 スキンヘッドが申し訳なさそうに頭を下げて言った。


「俺も」


「俺もだな」


 イケメンも盗賊風の男も、俺の申し出をあっさりと断った。

 だがそれだけで、はいそうですかと、あっさり引き下がるわけにはいかねえ。



「お前ら今何レベルだ?」


「90だ」


「89」


「92だよ」


 イケメン、盗賊風の男、スキンヘッドがそれぞれ答える。


「お前らレベルカンストしたくねえのか!? しょぼい武器でちまちま狩りしたって、いつまでたってもカンストできねーぞ」


 俺の言葉に対して、スキンヘッドが困った顔をする。


「いや……、あのね……僕らもね、カンストはしたいよ。君の言い分ももっともだと思うんだ」


「だったら、どうして――」


「高いんだよ。君のサービスはものすごく高い」


 そんなことはスキンヘッドに言われなくたって、俺も分かっている。湧泉洞の狩り1時間半で1.2メガの料金。安いわけがない。9回利用すれば、タイラン製のSS武器が買える値段だ。


「そりゃそうだけどよぉ。湧泉洞ソロだったら、経験値の時給が平均47.4キロくらい出るんだぞ」


 Kとは1000のことだ。KとかMとかいう単位は、金額だけでなく経験値に使われることもある。

 時給とは一時間当たりの効率だ。経験値に使うこともあれば、獲得金額に使うこともある。


「今までの狩りでそんなに効率出たとこあるか!? もっと出そうと思ったら、それこそクエスト見つけるくらいしか手がねえだろ」


 ちなみに時給47.4K出すことができれば、計算上は90レベルから始めて約63時間でカンストすることができる。

 クエストの発生が絶対ではなく、しかもクエストの進め方も分からない。こんな世界じゃ、タイラン製のしょぼい武器で狩りをしていては、90前後の冒険者がレベルカンストするのは夢のまた夢だろう。


「時給? 効率? そんなことを考えて君は狩りをしているのかい?」


 スキンヘッドは首をかしげている。あとの2人も同じような反応だ。


 確かに、サエラもその辺りのことに対して関心がない。サエラはバカだからと思ってはいたので特に気にしていなかった。でも、それはどうやらこの世界全般にいえることらしい。

 向こうの世界では、効率は多くのプレーヤーの関心事だった。エンジョイ勢やまったり勢でさえも、少しは気にしていた。ましてやガチ勢となれば、最大効率を叩き出すために日々努力し、工夫をこらして研究していたものだ。



「大体、誰が紫石の湧泉洞ペアで攻略できたのさー。サエラちゃんでしょー。十五勇者じゃん。いくら武器が良くたって、俺たちみたいなただの冒険者じゃ、ペアはちょいと厳しいと思うぜ」


「うん。僕もそう思うよ。効果が分からないものに大金は出せない」


 イケメンの言うことにスキンヘッドがうなずいた。


「効果が分からねえって……あぁ、もう分かった! 今回だけ、時給39K、いや、40Kに届かなかったら全額返金してやる! それで、どうだ!」


 サエラとの狩りじゃ、時給43Kを切ったことはない。よっぽどの下手くそならともかく、こいつらは仮にもトップ冒険者。まず大丈夫だろう。


 しかし、3人は同時に首を横に振った。スキンヘッドが溜息をつきながら、諭すように話をする。


「あのね、そういうことじゃないんだよ。そもそも普通の冒険者じゃ、狩り自体が成立しないかもしれない。そんな博打に大金をかけることはできない。そう言いたいんだよ」


 スキンヘッドの言うことに、イケメンが背もたれにもたれながら同調する。


「そういうこと。俺たちみたいな冒険者でもペア狩りが簡単だって、確立できたら話は変わってくるけどな」



 ふざけんなよ……。

 いくら命がけだからっていったって、一言めには金、二言めには無理。こいつら、本当にトップ冒険者かよ……。サエラとじゃ冒険に対する姿勢がまるで違う。

 こいつらでトップ冒険者っていうのなら、中堅冒険者や底辺ってどんなやつらなんだよ。


 怒りと悔しさと情けなさ、それらが俺の導火線に火をつけた。拳を強く握りしめ、椅子から立ち上がる。そして、感情が爆発する。



「この世界に、本気で強くなりたい、変わりたいってやつはいねえのかよ!」



 昼飯前の酒場の生温い空気は、俺の燃え上がるような叫びにかき消された。荒い呼吸音だけが響く。

 視界に映る顔はみな呆気にとられているものばかり。本気の顔は誰一人いない。

 だめか……。落胆し、椅子に腰を下ろしかかった時、






「わたし、変わりたい!」






 強い言葉に突き動かされたように、俺はハッと振り返る。


 1人の少女が酒場の入り口に立っていた。本気の顔をして。

次回は2月9日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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