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2-17 サエラのPR

ブクマ100件突破しました!

本作を投稿する前は、ここまでたくさんの方に読んでいただけるとは思ってもみませんでした。

これからも応援よろしくお願いいたします。

 翌日。集合時間になっても起きてこないサエラを無理矢理叩き起こし、俺たちはビニーブ峡谷で狩りをした。80代の狩場として十分かどうかを確かめるためだ。



 結論としては、80代の狩場としては合格だった。


 片道20分は正直遠いが、Mob1匹当たりの経験値が高い。

 ここの主力Mobは、オチムシャゾンビ、ローグシャドウ、ドゥームズフライの3種類だ。それぞれの経験値は、235、296、306となっている。オチムシャはともかく、湧泉洞の主力スパモンキーの経験値288と比べても高い。


 Mobの湧きもフィールドマップにしては良い。

 マップ中まんべんなく湧いており、モンハウも少なかった。80代でも問題なく狩れる(難易度は正直ぬるい)。

 今日は狩場に人の姿は無かったが、サエラがいうには、狩場としてはややメジャーだそうだ。人がいた場合の効率の落ち込み具合は未知数だが、まあ仕方がない。効率が出ないと感じたら、そのとき代わりの候補を探せばいい話だ。






 その後一週間かけて、狩場の検討を済ませ、サエラのレベルを上げた。全ての準備は整った。後は宣伝をするだけだ。


 俺たちは冒険者の酒場へと向かった。

 現在、時間は11:16。朝の狩りから帰ってきた冒険者たちが、あちこちのテーブルで早速酒盛りを始めていた。店内は、肉と酒が混じり合った匂いと、冒険者たちの男臭い熱気で充満している。同じ飲食店なのに、コプアさんの店、フォーリーブズとこうも違うのか。


「本当に大丈夫なんだな?」


「大丈夫だよ~。レイ君って心配やさんだね~」


 朝から何度もやったやりとりだ。サエラは自信満々に胸を張るが、俺の不安はぬぐえない。

 改めて店内を見回して溜息をこぼす。


「ふわふわのぽえぽえのお前と話が合うやつなんて、この中にいるわけねーだろ……」


 移動工房レンタルサービスのターゲットはトップ冒険者だが、異世界に来たばかりの俺にそんなつては無い。

 だが、サエラにはトップ冒険者の知り合いがたくさんいるという。だから、最も多く冒険者が集まるこの酒場で、レンタルサービスの勧誘をすることにした。


「トップ冒険者って数が少ないから大体知り合いだよー」


 そう言ってサエラは店内を見回すと、1つのテーブルを指差した。


「あ、知り合い発見ー。それじゃあ、レイ君、私勧誘してくるよ。しばらくかかると思うから、その辺を散歩してたらいいよ。できたら連絡するねー」


 サエラは手を振りながら、そのテーブルへと向かって行った。そして、3人組の冒険者と楽しそうに話を始めだす。どうやら本当に知り合いだったようだ。

 まぁ、相手が知り合いだったら、俺がいないほうが話しやすいだろうな。俺もどちらかというと人見知りするほうだから、そのほうが気が楽だ。レンタルサービスについての資料はサエラに渡したし、大丈夫だろ。途中で寝たら別だけど。



 酒場を去ろうとして、入り口近くの掲示板が目に留まる。

 そういえば、貼り紙で宣伝をしていたのを忘れていた。

 検索をかけない限り、貼り紙の投稿は新着順に表示される。新着投稿がたくさんあれば、後ろに回されてしまい、目に触れる機会が減ってしまう。だから定期的に更新しなければならない。


 貼り紙をダウンロードする。その内容を見て絶句した。

 タイラン商会の詐欺セールの宣伝でびっしり埋まっている。10分に1回宣伝が投稿されている。これじゃほとんどスパムじゃねぇか……。絶対他の利用者から苦情が来るぞ、これ。

 おそらく一週間前からやっているな。そりゃ、客来ねーよ。せこいまねしやがって。


 今まで客が一人も来なかった理由は判明した。後は、サエラが客をとってくれば勝ちだ。

 貼り紙ウインドウを閉じ、俺は酒場から立ち去った。






 サエラが勧誘をしている間、JAOのデータ作りをしていた。サエラと別れて40分が経ったが、連絡はまだない。ま、あいつにも色々あるんだろう。俺は俺の仕事をやるだけだ。


 データを書いていると、メッセージの着信音が鳴った。サエラからだ。「レンタルできたよ」とのメッセージと、かわいい猫のスタンプ。俺は「すぐ行く」とだけ返して、急いで酒場へと向かった。




 俺が酒場のドアを開けるなり、サエラが大きく手を振って出迎えてくれた。恥ずかしいからやめろ、そういうの。


 サエラたちが座っているテーブル席に行くと、サエラが興奮した様子で話しかけてきた。


「レンタルうまくいったよ!」


「本当かよ!」


 俺にも興奮がうつった。


「で、どいつなんだ?」


 席に座っているのはサエラを除いて3人。若くてイケメンな剣士風の男。頬に大きな傷のある盗賊風のおっさん。黒色の皮鎧を着たスキンヘッドのおっさん。


「んーとねぇー」


 サエラはウインドウを操作して画像データを呼び出した。


「このネコちゃん、2週間レンタルしていいって!」


「お前がレンタルしてどーすんだよっ!」


 全力でつっこんだ。



「それで、移動工房の宣伝はしたのかよ?」


「うん、まだだよ」


 にっこり笑うサエラ。無邪気な微笑みには、悪気が全く含まれていない。それがまたイラッとさせる。


「いったい、いつまで世間話してんだよ。さっさと今話せ」


「う~。わかったよぉ。レイ君はせっかちなんだから」


 てめぇが、すっとろいんだよ!


「えっとぉ……」


 サエラは何かを言おうとして口をもごもごさせている。俺と3人の視線がサエラに集中する。


「あのぉ…………」


「………………」


「あぁ…………」


「………………」


「…………何を言うんだっけ?」


 サエラの言葉に、俺と3人はずっこけた。


「移動工房の宣伝だよ! 宣伝!」


「それは分かってるよぉ~。ただね、私はあんまり頭が良くないから、難しいことを言おうとすると、頭が真っ白になっちゃうんだよ」


「あぁ!? よくそれで宣伝かってでたな」


「ん~。レイ君の役に立ちたいなぁって」


 それって無能な働き者ってやつじゃねーか。



「ちょっと席替われ」


 サエラの席に座ると、アプリを開いて文書を急いで作成。サエラにデータを渡した。


「書いてある通りに読め」


 原稿を読ませるだけの宣伝なんて、店長みたいで嫌なんだが、出来ないものは仕方ねえ。


「うん、分かったよ。移動工房は武器のレンタルサービスを始めました。使う武器は、最大レアリティの魔石を12個フルで組み入れたもののみ。今までとはちが……zz……zzz…………」


「寝るんじゃねえよ!」


 俺のつっこみに、イケメンが苦笑いを浮かべながらサエラのフォローをする。


「いやー、サエラちゃん、よく持ったほうじゃないかなぁ……」


 結局、サエラは全く宣伝できなかった。のしをつけて店長へ送ってやろうか。

次回は2月8日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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