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2-16 レンタルサービス開始2

「私がご飯を食べている間に、いろんなことを決めたんだね~」


 サエラが感心して俺を見る。


「いや……、実はまだ決まっていないことが1つだけある」


「私でよければ相談に乗るよ。何でも言ってね」


 サエラがほわっとした笑顔で俺に語りかける。


「私も相談に乗るよ」


 コプアさんがカウンターの奥から飛び出してきた。


「いや、今回は冒険者じゃないと無理な相談だ」


「ガーン!」


 俺の言葉にショックを受けてコプアさんがカウンターの奥へと帰っていった。



「狩場が決まんねえんだ」


「狩場を限定しちゃうの?」


「ああ。そのほうが都合がいいからな」


 たくさんの狩場対策武器を用意したところで、あまり意味はない。大半のプレーヤーはうまい狩場、それも一番うまいところに行きたがるからだ。狩場は各レベル帯に応じて1つ決めれば十分だといえる。


「3つ狩場を検討しているんだ。80代の冒険者用、90代の冒険者用、そして養殖用」


「養殖?」


「後で説明する。最初に聞いておくが、この世界はレベルカンストしているやつがほとんどいねえんだろ? それでもって、レベルカンストはすげぇ冒険者の証なんだろ?」


 俺の質問にサエラが首を縦に振る。


「だから、レべリング、つまり経験値稼ぎの狩りをプロデュースすることにした」


 サエラと最初に狩りをしたとき、サエラは経験値を稼げる狩場を指定してきた。きっと同じように、経験値を稼ぎたいと思っているやつは大勢いるはずだ。



「メイン対象は、まだレベルカンストしていない、やる気のある冒険者」


「ということはトップ冒険者だね」


 この世界の冒険者はトップ冒険者、中堅冒険者、底辺(一般冒険者)の3つに分かれている。サエラの話を聞く限り、中堅冒険者と底辺はやる気が無さそうだ。プロデュースし甲斐が無い。やる気のないやつが経験値を上げにくるとも思えねえ。


「ほぼほぼ正解ってとこだな」


「どういうこと?」


「トップ冒険者のメインレベル帯である90代の狩場は必要だ。それだけじゃなく、80代の狩場も用意する。きっと、スタートが遅れたり要領が悪かったりして、80代で足踏みしているやつだっていると思う」


「なるほどー。そういう人たちにとっては、レンタルサービスはチャンスだよね」


「ああ。タイランの武器を使ってトップ冒険者になれなかったやつらを引き上げて、ビジネスチャンスを掴み取る」


 もちろん、俺の武器が全ての人にとって力になるとまでは、俺だって考えちゃいない。現に、底辺なんかは完全切り捨てだ。

 タイランが生み出した悪夢のような状況から抜け出したい。そう願っている人が少しでもいるのなら、――俺はそんな人たちの力になりてぇ。



「おっと、養殖の説明、忘れてた。養殖っていうのはなぁ、低レベルの冒険者が高レベルの冒険者に手伝ってもらい、身の丈に合っていないレベルの狩場でレベルを上げることだ」


 養殖はパワーレベリングと呼ばれることもある。

 単に護衛や支援をしてもらうだけでなく、狩り自体も超簡単だ。狩りと呼べるものなのかも、正直疑問。むしろ作業と呼んでもいい。ゲームによっては、ぼうっと座っているだけでもいいものまである。ここまでくると作業ですらねえ。



「90代と養殖の狩場は決まっている。90代は湧泉洞だ。1匹当たりの経験値もうまいし、湧きもいい。問題ないだろ」


 俺の言葉にサエラもうなずいた。


「養殖の狩場は『アキ海中社殿』の砂浜だ。そこでアキオイスターというMobを狩る」


 アキ海中社殿というのは、ぶっちゃけ厳島神社をモデルにしたダンジョンだ。ダンジョンのランクはSS。回廊、砂浜、本社の3つのエリアから構成されている。養殖に適した場所は砂浜だ。

 アキオイスターがあまりに経験値効率が高いため、JAOで最も養殖に適したマップとして名を馳せた。

 アキオイスターは文字通り牡蠣カキのMobだ。広島では牡蠣養殖が盛んらしく、それになぞらえてカキ養殖と呼ばれている。



「で、80代の狩場が決まらねえ」


 向こうの世界では、80代まではメインストーリーのクエストをこなすだけで、レベルは問題なく上がっていった。だから、このレベル帯の良い狩場なんて研究されていなかったのだ。


「70代くらいのPTが狩りをしているマップで、1匹あたりの経験値効率が高く、湧きもそこそこで、混んでいない所はねえか?」


 俺の質問に、サエラは人差し指をこめかみに当てながら「う~ん」とうなって考える。しばらく考えた後サエラは答えた。


「ちょっと遠いけど、『ビニーブ峡谷』なんてどうかなー?」


 サエラが告げたマップは、俺がほとんど知らないマップだった。名前くらいしか聞いたことがない。



「向こうの世界じゃ無名のマップだな。詳しく教えてくれ」


「ワーデンからワーデン山道を20分くらい歩いていくのが一番近いよ。遠いかな?」


「ちょっと遠いが、まぁ効率次第だな」


「ドゥームズフライやローグシャドウが多いから、レベル上げにはいいんじゃないかな」


 ローグシャドウはあまりよく知らねえが、そんなに強いMobではなかったはず。ドゥームズフライの経験値は高い。


「湧きはそこそこで、モンハウもほとんど無いから、狩り易くておすすめだよー」



「よし、80代の狩場はビニーブ峡谷にするか。そうと決まれば、明日下見に行くぞ。明日も、8時半にお前んの前に集合だ。明日こそ、寝坊するんじゃねーぞ!」


 サエラは2日連続で俺に叩き起こされている。こいつ、学生だったら、遅刻ばっかりで大変だっただろうな。


「8時半じゃなくて18時半だったら起きられるのに……」


「それ、日が暮れてるじゃねーか!」



 レンタルサービスについて決めたので、今日はこれで解散。

次回は2月7日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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