2-15 レンタルサービス開始1
夜7時をまわった。コプアさんはお店を閉め、サエラは夕食を食べ始める。その間も俺は電卓を叩く、メモを取る、自作のデータベースを見るの繰り返し。サエラとコプアさんの楽しげな会話も夕食のいい匂いも気にしねえ。ひたすらアイデアを煮詰め続けた。
アイデアをいったんまとめて一息ついたときに、夕食を食べ終えたサエラが俺に質問してきた。
「レイ君、どうするつもりなの? こっちも半額セールやる?」
「いや――、それよりも安い値段で、12個フルの武器を使ってもらう」
「やっぱり半額セールするしかないのかなぁ。そうしないとタイラン商会に対抗できないもんね」
「はぁ!? んなことしたら、赤字になっちまうだろ」
「え? でも、今、タイランよりも安い値段で使ってもらうって言ったよね?」
「ああ、そうだ。――移動工房は、武器レンタル&研ぎのサービスを行う」
良い武器を安く使ってもらう。店長の言葉をヒントにたどり着いた結論は、武器のレンタルだ。
レンタルだと料金が安いため気軽に利用できる。俺のオカンも、しょっちゅう近所のレンタルビデオ屋でDVDを借りていた。決して裕福とはいえない俺の家でも、レンタルだと週に4~5本も映画を見ることができる。
最大レアリティの魔石が12個組み入れられた武器を使えば、その強さを絶対に実感できる。
しかし、安さが絶対正義のこの世界では、安くなければどれだけ良い武器でも見向きもされない。
レンタルで使ってもらうことは、12個フルの魅力に気づくきっかけになるはず。
「武器レンタルって、どういうこと?」
「レンタル工房ってあるだろ、あれと同じだ。武器を貸して、金をとる」
レンタル工房というのは、使用料を払って武器を制作することができる施設だ。現在はタイラン商会が10年分予約をしているので、事実上タイラン商会の工房となっている。
「武器を貸すのは1回の狩りの間だけだ。もちろん、レンタル料は武器を買う値段よりもずっと安くする」
「レンタル料ってどれくらいにするの?」
「武器の値段の20分の1ってところだな」
JAOでは、パッチが当たってMobのデータが変わったり、もっとうまい狩場があらわれたりすれば、プレイ環境は大きく変わってしまう。環境が変われば武器を見直す必要が出てくる。環境変化前に作った武器なんかじゃ、もはやベストの武器とはいえない。
だから、環境変化が起きる前に、武器の製作費用を取り返す必要がある。環境変化は4~6か月ぐらいで起きるので、1か月で製作費用を回収できれば御の字だ。
3日に2回レンタルされると仮定すれば、1か月で20回レンタルされることになる。
これが、レンタル料が武器の値段の20分の1という根拠だ。
「なるほどー。レンタルするのは1回の狩りの間だけだから……、レンタル時間は、低ランクの狩場じゃなかったら40分ぐらいだね」
「いや、狩りの時間は1.5時間を考えてる」
「そっかー、耐久の魔石を内蔵するもんね。それくらい狩りできるのかな」
タイラン商会の武器は耐久の魔石が1つも填められていない。低ランクの狩場ならともかく、HSランクやSSランクの狩場では1時間以上の狩りを続けるのは厳しいだろう。
「いや。耐久の魔石はあえて組み込まねえ」
「えっ!」
俺の言葉にサエラが驚いた。
DRAというステータスは武器の命。JAOではDRAが0になった時、武器が消滅する。
全ての武器が消滅したら、狩りどころじゃない、命の危機だ。
それに、アクティブスキルはDRAを消費して使用する。効率を上げるにはDRAが必要だ。
「耐久の魔石填めたって、強くなったって感じしないだろ」
耐久の魔石を内蔵しても戦闘力は変わらない。DRAが5000あろうが、50しかなかろうが、武器の性能は同じ。
もちろん、アクティブスキルをたくさん使うことができるという点を考えれば、全く役に立たないことはないといえる。しかし、耐久の魔石を組み込んだところで、アクティブスキル使い放題というわけにはいかない。リキャストタイムがある以上、どうしても使用制限がかかってしまうからだ。
「あくまで12個フルの強さを宣伝するのが目的だ。耐久を組み入れないで他の魔石を組み入れたら、12個フルの強さをより実感してもらえるだろ」
「でも、1.5時間狩りするなんて……そうだ、研ぎをすればいいんだ!」
「正解。っていうか、さっき俺、研ぎサービスって言ってたんだけどな」
俺が狩りに付いて行って、ときどき武器を研いでやればDRAが0にならない。
非公平(メインPTから外れて狩りの補助を行うこと)だったら、経験値などは俺にいかないから誰も文句は言わないはずだ。
「俺が付いて行くことにはデメリットもある」
「何?」
「必ず俺も付いて行く分、利用者はどうしても少なくなる」
レンタル業者は同じ商品をいくつも取り揃えているので、たくさんの人がレンタルサービスを同時に受けられるのが普通だ。例えば、レンタルビデオ屋では同じDVDが何枚も用意されている。メジャーなタイトルの商品を1枚しか置いてないというのはあり得ない。ビジネスチャンスをみすみす逃すことになる。
だが、俺は当然1人しかいない。もし同じ時間に2件の予約が入ってしまったら、どちらかの客には諦めてもらわなければならない。
「それに、レンタルをしている間、俺は狩りにいけない」
ゲームの頃は課金ガチャで魔石がたくさん出た。しかし、こっちの世界に課金ガチャを回すアイテム、ヴァリュアブルストーン(通称『石』)はない。大量の魔石を手に入れるには、毎日ひたすら狩りをする必要がある。
研ぎに同行するということは、魔石調達の貴重な時間を犠牲にするということだ。
「それでも、俺が付いて行って研ぎをしたほうがいいと思ってる」
「うん、私もそのほうがいいと思うよ。今までと違う体験じゃないと、割に合わないなぁって思われるだけだからね」
「いつかは耐久の魔石を組み入れた武器のレンタルもやろうは考えているけど、当分先の話だろうな」
俺が同行しない、ただのレンタルは絶対必要になる。そうでなくちゃ、1Tなんて絶対稼げない。そのためにもまず12個フルの強さを広めなくちゃいけない。
「サエラ、お前にも仕事がある」
「何でもやるよ~」
「オプションで、支援兼護衛をやってもらう」
「うん、いいよ」
サエラは俺の申し出を即OKしてくれた。
サエラのステータスは正直支援向きではない。だが、支援がいるといないとでは効率は全く違う。やるからには効率は少しでも出したいのが俺のポリシーだ。
けれども、サエラの支援はあくまでオプション。サエラの支援を受けたければ、客が追加料金を払わなければならない。決めるのは客だ。
次回は2月6日の12時頃に更新の予定です。
この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。




