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2-11 価格設定3

本日の更新は2-11と2-12になります。2-12は22時頃に更新の予定です。


「問題はいくらで売るかだな……」


 前の世界では、市場の相場を参考にすればよいから値段設定で悩むことは少ない。

 この世界では、ぼったくり値段のタイラン製の粗悪品ばかり売られている。相場を調べても参考にならない。


 そうだ、Mob産が貴重品扱いされているって、サエラが昨日言ってたよな。

 Mob産はこっちの世界じゃ高級品扱いされているんだよな。これを基準に値段を決めるか。

 でも、Mob産ってことは、価格に入手難易度も考慮されているのかもしれない。本当にMob産を基準にしていいのか……?



 そう思っていたら、コプアさんがアドバイスをくれた。


「材料代を基にして販売価格を決めたら?」


「どういうことだ?」


「私もやってるんだけど、販売価格に対する材料代の割合を決めておくの。例えば……」


 そう言って、コプアさんはキッチンを離れ俺たちの席までやって来る。


「はい、サエラちゃん。フレンチトースト」


 厚切りトーストは卵がたっぷりと染み込んで黄色くなっており、表面には茶色い焼き色がついている。フレンチトーストというよりカステラだ。トーストの上にはバニラアイス。横には色鮮やかなフルーツが添えられている。

 女が好きそうな、かわいい見た目をしている。俺のオカンが昔焼いてくれたシンプルなやつとは大違い。


「そのフレンチトーストを作るのに、厚切りトースト1/2枚、おいしい卵1個、ミルク1/2本、砂糖3振り、バニラエッセンス1振り、バター1/20個、苺2個、キウイフルーツ1/8個、オレンジ1/10個、バニラアイス1/3個必要なんだけど」


 そう言って、コプアさんは電卓のアプリを呼び出して操作する。


「それぞれ、20マネ、35マネ、25マネ、3マネ、28マネ、20マネ、50マネ、10マネ、8マネ、40マネ、合計239マネ、材料代がかかってるの」


「細かいとほろまで、もぐもぐ、おぼえてふんだ~」


 サエラがフレンチトーストを口いっぱい頬張りながら驚く。


「食べ物は、材料代が提供価格の3割になるように計算しているの。239を0.3で割り戻すと――、796.666……マネ。きれのいい数字になるように、800マネにしてる」


 メニューを開いて値段を確認。800マネだった。


「こういう感じで、全てのメニューの値段を決めてるの。食べ物の材料代は3割を目標に、飲み物の材料代は2割を目標にしてる」



 コプアさんの話を聞いて1つの言葉を思い出した。


「材料代の割合は『原価率』っていうんだ」


「そんな言葉があるの?」


 コプアさんが俺に聞いてきた。


「ああ。向こうの世界で教えてもらった」


 商業学校に通っていたから会計の勉強をしていた。簿記か財務会計の授業で教わった。

 原価率は(原価)÷(売価)で計算される。授業では原価率を使って売上原価とか期末商品棚卸高というものを計算していた。


「向こうの世界ってすごいんだね~。色んなマップを攻略してるし、謎の言葉もあるし」


 サエラがフレンチトーストをナイフで切りながら感想を言った。


「まあ、文明は比べものにならないくらい複雑で発展していたよ」


「それでレイ君もすごいわけだ~。パクッ。モグモグ……」


「俺がすごいわけじゃねーよ。特に勉強のほうはな」


 原価率だって、今みたいに商品の値段を決めるために使われたわけじゃない。何が何やら訳が分からないパズルみたいな問題を解くのに使われた。だから、全く興味が持てなかった。正直大嫌いだ。

 だが、こうして習ったことが、実際の経営、それもゲームそっくりの異世界で使えたことは正直驚きだ。人生、何が役に立つのか分かんねえな。ま、一度死んでいるんだけど。


「大事なのは知識や道具をどう活かすかだ。武器と一緒だよ」


 俺はコプアさんの話を聞いて感心した。商売っていうのは、ここまで考えて初めて成り立つもんなのかと。

 商業高校に通っていたとはいえ、経営というものは正直全く分からない。せいぜいバイト先の店長がパソコンとにらめっこしているのを見て、大変そうだなーと内心思うのが関の山だった。


 だが、この世界一の武器屋相手に喧嘩を売ったんだ。俺も、無い知恵を雑巾のようにぎゅうぎゅうに絞って考えなくちゃいけない。原価率くらい使いこなせないんじゃ、話にならねえよ。


「話、逸れちまったな。俺も原価率を決めるとするか」


「がんばってね」


 コプアさんは俺に励ましの言葉をかけると、お客さんの会計を済ませるために俺たちの所から離れた。




 コーヒーを一気に飲み干し電卓アプリを呼び出す。


 この世界の冒険者は、底辺、中堅冒険者、トップ冒険者に分かれている。

 底辺は60代になってもハニカムやフィールドマップでソロ狩りを続けているようなやつらだ。全く意味不明な行動をしている。理解できない以上、武器は作れない。今は置いておく。

 そうなると、中堅冒険者やトップ冒険者がターゲットに残るが、この2つは違う層なので、同時に相手するのは難しいだろう。そうなると、金払いが良さそうなトップ冒険者をターゲットに絞ったほうが良さそうだ。

 U武器以上は材料が貴重だ。今は作るべきではない。そうすると、作るのはSS武器だ。


 SS武器の成功率の平均は約55%。

 確率上は約2回に1回かもしれないが、何回も連続で失敗することはよくある。SS武器1本1本の原価は7メガを上回るのが普通だ。運悪く何連続も失敗が続いて大赤字を出してしまったら、立て直すことは厳しい。1Tなんて夢のまた夢だ。

 連続で失敗しても利益が出るくらいじゃないと、実際の経営は厳しいはず。


 こう考えると、原価率は3割が望ましい。原価率3割だったら、3本目で成功しても売価の1割は利益として確保できる。



「決めたぞ。原価率の目安は3割でいく」


「3割かぁ~。コプアさんと同じだね」


 サエラがにこにこしている。


「別にパクッたわけじゃねーよ。それぐらいじゃなきゃ、1Tは貯まらないからな。それに、全部の武器が同じ原価率ってわけにはいかねえよ」


「どういうこと?」


「武器は種類ごとに製造成功確率が違うんだ。それを考慮して武器一つ一つに原価率を設定する」


 武器は料理と違って、単純に原価に原価率を割り戻して一律に売価を決めることは良くない。

 作ったらほぼ成功する料理(難しい料理は失敗確率も高いらしい)と違って、武器の製造成功確率はずっと低い。一律に原価率を設定すると、製造成功率が低い武器は失敗のロスが大きくなり、利益が出にくくなってしまう。

 成功率が低い武器を敬遠することは、利用者に向き合った仕事とはいえねえ。金の方ばかり気にしている仕事だ。タイラン商会と同じことをやっちゃダメだ。


「各武器の原価率は後で俺が決めておく」


 さすがに武器だけで95種類あるからな。今すぐに決めるのは不可能だ。



「タイラン商会の武器って原価率ってどれくらいなんだろう?」


 サエラがふと疑問を口にした。


「確かに、ぼったくりだってずっと言ってきたけど、そうじゃなかったらなぁ……」


 電卓アプリで計算。


「人気ナンバーワンのショートソードが約10.4%だとよ」


「10%しかないんだね~。やっぱり小さいね」


「まあ、『大事なのは利益を上げる、その一点だけ』って言ったぐらいだしな。これくらいは取るだろ。思ったよりも良心的だったぐらいだ」

本日の更新は2-11と2-12になります。2-12は22時頃に更新の予定です。




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