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2-8 ランクアップ2

 ランクアップしたピートハイプラスターを確認してからサエラに返した。


「緑が5つ~。黄緑色が7つ~」


 緑色はSSランクの色で、黄緑色はHSランクの色だ。


「SSランクになったのは覚醒させた魔石だけなんだね」


「ああ、武器がランクアップしても、覚醒させていない魔石のランクは変わらねぇ。でも、後で覚醒させることは可能だ」


「後で覚醒させるときの魔石のランクはどうなるの?」


「さっきと同じだ。未覚醒の魔石のランクより1つ上の、同種類の魔石が20個だ。例えば、そいつだったら、ミラージュアボイドがHSだろ。ってことは、ミラージュアボイドの魔石SSを20個消費すれば、ミラージュアボイドの魔石はSSにランクアップする」


「なるほど~」



「ステを確認してみろ」


 俺に言われて、サエラはステータスウインドウを呼び出し自分のステータスを確認する。


「あれ~? HITとDOGが1725も上がってる。何で、何で~??」


 HSランクのステ上昇量は1075だ。SSなら2300。ということは、HSランクの魔石がSSランクの魔石になると、2300-1075=1225上昇するはずだ。だから、サエラは首をひねっている。


「そりゃ、そのままランクだけ上がるんだったら、金のかかるランクアップなんて誰もしねえだろ」


「それもそうだよね」


「覚醒させた魔石のステータスは、3ランク下の魔石と同じ分だけ上昇するんだ。これを『ランクアップボーナス』という。覚醒後のランクがSSだったら、Sと同じ分だけ、つまりランクアップボーナスは500だ」


「500も……それはすごい……」


「しかも、ランクアップボーナスは累積する」


 そのため元いた世界では、廃人はメイン武器をHNで作成し、ランクアップさせてHUにしていた。低いランクのランクアップボーナスなんて、内蔵魔石に比べたら雀の涙みたいな上昇量だが、廃人たちはそこまでこだわっていた。ほんのわずかであっても、強くなるためには金を惜しまない。それが廃人というもんだ。



「当然だが、ステータスが上昇しない魔石にはランクアップボーナスはないぞ」


「属性魔石やスキル魔石がそうだね」


「ああ。そいつらは内蔵魔石のランクが上がるくらいしか恩恵はねえ。覚醒は後回しにしておくのが普通だな」


「ラグナエンドやマインドアイなんて、いつ覚醒できるのかなぁ……」


「そいつらは諦めろ。貴重すぎる」


「諦めたくないなぁ……」


「サエラちゃん、覚醒させるまで冒険頑張って」


 コプアさんがサエラを励ます。


「ババアどころかスケルトンになるくらい冒険やっても、見つからねえと思うけどな」


 マインドアイやラグナエンドなんて課金ガチャでしか手に入らねえから、この世界じゃ10個どころか、1個も魔石が集まらないだろう。



「そうだ、それで思い出した。サエラ、疑問に思ったんだが……」


「なぁに?」


「さっき確認したときに思ったんだけどさぁ、これHN武器からランクアップしてるぞ」


「そっかー、ピーハイってランクアップしてたんだー。知らなかったー」


 サエラは他人事のように素直に驚いている。


「お前ランクアップはやったことがないって言ってたよな」


「うん。私が初めてもらったときからHITやDOGの上げ幅は変わんないし、間違いないよ。きっとご先祖様がやったんだよ」



「1つ気になったんだけどよぉ。全部の内蔵魔石がNから覚醒しているだろ。ラグナエンドNってどうやって覚醒させたんだ……?」


 ラグナエンドのNというのは、課金ガチャでもレアリティの問題から存在しなかった。最低でもHNだった。つまりNからラグナエンドは覚醒できない。


「んー。よく分かんないけど。スキルだし、気にしても仕方ないんじゃないかなー」


 相変わらず能天気なサエラ。でも、まぁ、こいつの言う通りだ。大切なのは今だ。



 それから、サエラはピートハイプラスターを手に取ったり、ウインドウを開いてステータスを確認したりしていた。かわいい服やアクセサリーを見るときみたいに、顔から嬉しさがこぼれ落ちている。


「そんなにすごくなったの?」


 コプアさんが質問する。


「うんっ! すごい剣がと~~ってもすごくなったの~」


「やっぱりよく分からないんだけど、もしかして特選騎士団くらい?」


「そうだね~。特選騎士団はみんなU武器持ってたね~」


 特選騎士団……? 何者だ、そいつら? JAOにはいなかったぞ。タイランみたいな、この世界独自のキャラクターなのか?

 ま、そんなことはどうでもいいか。



「本当はHU武器にもできるんだけどな」


 俺の一言にサエラが口に手を当てて驚く。


「HU武器って、ほとんど世界一の名剣だよ! そこまですごいもの作れるんだ!」


「もちろん作れる。ただ、材料が厳しい。U魔石100個と貴重なアイテムが必要だからな」


「U魔石100個って、え~っと、1750メガだね。そこまでレイ君に迷惑かけられないよ」


 俺の手持ちの現金が20ギガ、つまり20000M。俺が必死で貯めた現金の1割弱相当を使うことになる。それに、武器屋を始めるにあたって、材料である魔石が無いのは致命的だ。


「今後何が起こるか分からねえ。今無理してHU武器にしても費用対効果は悪いと判断した。今はUで我慢してくれ」



「我慢なんかしてないよ。私はね、ピーハイを強くしてくれたことが嬉しいよ。UかHUかじゃなくて、強くしてくれたってこと自体が嬉しいんだ。レイ君は可能性を、世界を広げてくれる。次は何をしてくれるんだろうって、すっごくワクワクしてる。だから――」


 サエラがふっと笑った。桜色の唇がわずかに開き、甘い調べが紡がれる。


「私をもっとドキドキさせて、ね」


 彼女の言葉と笑顔が俺の心を強く打つ。そのことを意識すると、体中の血液が顔まで上ってくるのを感じた。そのことを悟られないように、ぷいと後ろを向く。


「見ている私までドキドキしちゃった……」


 両手で頬を抑えてコプアさんが感想を漏らす。予想通りの反応。


「コプアさんも武器を作ってもらったらどうかな~。もっとドキドキするよ~」


「何でコプアさんに武器を作らなきゃいけねーんだよ!」


 大声でサエラにつっこむ。


「うわっ! びっくりしたぁ~。大声ださないでよぉ~。心臓がドキドキしちゃったよ~」


 本気で驚くサエラ。俺が受けた驚きはこんなもんじゃねーぞ。


「これは見ていても、ドキドキしないかな」


「とにかく、武器を1つランクアップさせたぐらいで大袈裟なんだよ。そいつだけじゃ全然足りねえ。今から汎用U武器を作ってやる」


「えっ、さらにプレゼント!? 私、こういうほうがドキドキする」


 相変わらずドキドキしっぱなしのコプアさん。


「そんなにドキドキしていたら、心臓発作になっちまうぞ」



 こうして、俺はサエラにU武器を作った。

 この世界を攻略するために必要だから作ったのであって、他に意味があったというわけではない、ということを付け加えておく。


次回は2月1日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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