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2-3 消したい過去2

 サエラの頬がもう薄い桃色に染まっている。


「これはね~、まだ私が駆け出しのころの話なんだけど。ククリクの森にどんぐりを採りに行ったんだ~。どんぐりって道にも落ちてるけど、木の上のほうがたくさんなってるでしょ」


「ああ」


「それでね~、木の枝から枝へ跳び移って採取していたんだけど、上からゴブリンが私のいる枝に落ちてきたの。まだ私弱かったから、慌てて他の枝に飛び移って逃げたの」


「そうか」


「でもね、ちゃんと落ち着いて跳ばなかったから、着地に失敗して別の枝に引っかかっちゃった」


「そうか」


「でもね、場所がね、とっても悪かったんだ。スカートの裾に引っかかって、宙ぶらりんになっちゃった……。つまり、あれ……あれなの……。あれが下から丸見えに……」


 サエラの顔色はだんだん赤みがまし、声も消えそうなほどにしおらしくなってくる。


 スカートから引っかかって丸見えってことは、まさか……パン――。

 いや違う。JAOはエロゲじゃねえ。女性キャラはスパッツより下が晒されることはない仕様となっている。

 でも、ここは異世界。下だってある。男は確認済みだ。でも、でも、でも……。


「困っていたら、知り合いのメリヴェロ君が来て、恥ずかしい姿を見られちゃったの……」


 そ、それは恥ずかしい。スパッツでも俺は目を覆うだろうな。


「このことは私とメリヴェロ君だけの秘密。はい、もうおしまい!」


「俺に話してるじゃねーか!」


 あまりに恥ずかしい話に慌ててしまったのか、思わず大声でつっこんじまった。


「あ、そっかー。じゃあ~、3人の秘密に変えとくね。絶対秘密だよ」


「勝手に俺を巻き込むんじゃねーよ。大体、人がたくさんいる場所でする話じゃねーだろ」


 現在は15時を回っている。店内は午後の休憩を楽しむ人で満席だ。


「誰も聞いてないと思うよー。ね、コプアさん」


 サエラがカウンター越しのコプアさんに話しかけた。


「そうそう。恥ずかしい話をしても大丈夫」


 ……やっぱ聞いているやつがいたか。



「だけどよぉ、こんな恥ずかしい話をするやつがあるか。聞いてる俺だって恥ずかしいよ。お前だって、こんな過去消してしまいてぇだろ」


 サエラも好き好んでこんな話をしたわけじゃないはずだ。話す前は悩んでいたし、顔を真っ赤にして話をしていたし。


 だが、サエラの返答は意外なものだった。


「そんなことないよ」


「え?」


「もちろん、思い出すだけでも恥ずかしい失敗なんだけど。私の過去だから、消したくなんかないよ」


「どういうことだよ……?」


「過去があるから、現在いまの私がいる。そう思うんだ」


 サエラの言葉を聞いた時、目の前がパッと明るくなった気がした。

 異世界に転生しようが、俺は俺。レイ=サウスは南礼と同一人物なんだ。

 誰に何を言われようが、笑われようが、頭がおかしいやつだと思われようが、俺が俺だという事実をひっくり返すことはできない。



「それにね、消したい過去なんて私には無いよ。恥ずかしい過去も、今こうして役に立ったんだから」


「役に立った?」


 俺が首をかしげると、サエラはくすっと笑った。


「レイ君、さっきまで私の話を聞いても、『ああ』・『そうか』・『へぇ~』しか言ってくれなかったんだよ。レイ君の言葉が聞けて、私は嬉しいな」


 ……そんな反応をしていたのか。自分では全く気付かなかった。

 さっきまでの俺は過去が無い自分が怖くて、虚しくて……。目の前の現在リアルからも目を背けていたんだ。

 でも、過去から逃げたって何も始まらない。南礼としての過去があったから、現在いまのレイ=サウスがいる。サエラはそれを教えてくれた。



 サエラに大事なことを教えてもらったんだ。今度は俺がサエラに話さなくちゃいけねえ。


「――――分かった。そんなに聞きてぇって言うんだったら、俺の話もしてやるよ。訳分かんねえ話かもしれねえけど、途中で寝るんじゃねえぞ」


「む~、寝ないよ~。だって、レイ君のお話、昨日からずっと聞きたかったんだもん」


「じゃあ、俺の話をするぞ」


 俺は固く閉ざした口を開けることにした。

次回は1月27日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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