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2-2 消したい過去1

 昨日サエラには、俺はゲーマーだということを話した。この世界にはゲーマーという単語が無いらしく、意味はあんまり理解できていなかった。そのときは話が流れたので、前の世界のことを詳しく話さなくて済んだ。


 今、サエラは桃色の瞳を子犬のようにキラキラ輝かせている。こいつ、そんなに俺の話が聞きたいのか……。どうやら、昨日よりも詳しい話をしなくちゃいけないみたいだ。

 まいったな。俺の話をしろと言われてもな……。何を話せばいいんだ?

 とりあえずスープでも飲みながら考えるか。そう思い、温かいスープの入ったマグカップに手を伸ばす。


 向こうの世界について話すのは、なしだ。どうせ転生の話なんかしても信じてくれねえだろうし。向こうの世界でどうやってJAOを攻略してきたかについてなら――。

 ダメだ……。JAOはしょせん異世界のゲーム。どれだけ似ていても、この世界とは違う。



 ――俺には、この世界で語れる過去が無い。



 動揺して手が震える。透明なスープに映っていた俺の顔は、大きく揺らいで、見えなくなってしまった。

 俺はここで一生、過去を隠して、過去から逃げて、過去を否定して、現在リアルを生きるのか。それって、リアルな人生だって、本当にいえるのかよ……。

 さっきまで聞こえていた周りの話し声が、急にガヤガヤというノイズに変わって、聞き取れなくなった。



「――レイ君、レイ君?」


「…………どうした?」


 少しぼうっとして反応が遅れてしまった。


「スープ飲まないのかなぁって……?」


「ああ」


 サエラに言われてスープを一気に飲み干す。スープの味は薄く、よく分からなかった。



 サエラは突然ハッとした顔になり、少し驚いたような声を上げた。


「あ~、忘れてた~。まず私のほうから自己紹介しないとね」


「そうか」


「私の名前はサエラです。趣味は寝ることで――」


 サエラは楽しそうに自分のことを語りだした。




 それからサエラは色々な話をした。寝心地が一番良いマップはどこかということ、スイーツが好きで色々なお店に食べに行っているということ、最近は寒くなってきたので起きるのがつらいということ、ひいきにしている服屋のこと、ウサギを飼いたいけどちゃんと育てられるか自信がないということ……。他にもいくつか話をしていたはずなのだが、上の空で聞いていたので忘れてしまった。

 サエラが話を始めてから、かなりの時間が経過した。スペシャルランチはとっくに食べ終えてしまっていた。



 今、サエラは何を話そうか悩んでいる最中だ。さすがにもうネタ切れか。


「う~ん……。これはもう、あの話をするしかないかなぁ……」


 しばらく思い悩んでいたサエラはそう小声で呟いた。そして、またうんうん悩み、またぶつぶつ呟く。これを数回繰り返して、ようやくサエラが意を決し話し始めた。


「今までで、一番恥ずかしかったはなしします」

次回は1月26日の12時頃に更新の予定です。




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