9-48 レイドボス、クタマ戦4
フェイズ3が始まって5分経過。
守護霊を全解放して戦ったことで、ゾンビの撃退に成功。
「レイさん、研ぎ中すみません。相談があります」
総指揮のアリスが俺にアドバイスを求めてきた。
研ぎの手を止めずに答える。
「どうした?」
「ボスのクタマを先に倒すか、騎乗獣の巨大ゾンビを先に倒すか。そろそろ先に決めないといけません」
「そうだなぁ……」
フェイズ3に入ってから、ボスのHPは大して削れていない。俺のラグナエンドが決まったぐらいだ。
HPが削れていない理由は、ボスか騎乗獣のどちらから先に倒すのかが決まっていないことだ。
どちらを殴ればいいか決まっていなければ、判断に迷いが生まれる。結果、どうしても精度の低い攻撃になってしまう。
「騎乗獣を無視してボスだけを攻撃する。普通に考えれば、これがベストの戦略です」
アリスが論点を整理する。
「ボスを倒せば騎乗獣は消滅します。タイムアタックということを考えれば、騎乗獣を倒せば、その分だけタイムロスになります」
特に、巨大ゾンビはボスよりもHPが高い。
単純計算すれば、巨大ゾンビから先に倒すのは時間が倍以上かかるということだ。
「しかし、急がば回れ。騎乗獣から先に倒したほうが、かえってタイムを縮めることができるかもしれません」
「どうしてそう思う?」
「クタマのフェイズ3以降の攻略が格段に楽になります」
アリスが理由を説明する。
「クタマは後衛のAI、つまり接近されると非常に弱い」
クタマは後衛の動きをするMobだ。魔法の判断、エイムは正確だが、身のこなしはかなり下手くそ。騎乗獣を倒せば楽に戦える、というかフェイズ2までは殴り放題だった。
「クタマは魔法の射程が長く、巨大ゾンビの上から一方的に魔法を撃ってきます。巨大ゾンビや雑魚ゾンビの攻撃をかいくぐり、クタマに攻撃を届かせるのは大変です」
現にアタッカーたちも攻めあぐねている。
俺もスクルドを憑依しないとクタマに攻撃が届かない。
「巨大ゾンビがいなけりゃ、フェイズ4や5もあっさり終わるだろうな」
フェイズ4やフェイズ5で非常に厄介な武器を使ってくる場合、巨大ゾンビの頭上に居るクタマとの戦闘は長期戦になるかもしれない。
だが簡単に接近できてしまえば、力押しであっさり決めることができる。長期戦にはまずならない。
「セオリー通りいくか、急がば回れでいくか。どちらの戦略を採り、どのようにそれを実現していけばいいのか。煮詰まっていまして……」
総指揮はレイドクエスト攻略の全責任を負っている。
このプレッシャーは総指揮を経験した人間じゃないと分からない。アリスが頭を抱えるのは当然だ。
「アリス、お前の悩みは分かった。安易なセオリーに流されずベストを求める、その姿勢。俺は評価してぇ」
「ありがとうございます」
「だけど、今回JAO運営はその解を用意していないと思うんだよな」
「どういうことですか?」
「手長足長論争って知ってるよな?」
「手長を倒すか、足長を倒すか。どっちのほうがベストな攻略法なのか意見が割れていたやつですよね」
テナガというダンジョンボスは騎乗獣アシナガに乗っている。
テナガを先に倒そうとすると、逃げ回るアシナガを追いかけながら、際限なく上がるテナガの超火力に対処しなければならない。アシナガを先に倒そうとすると、猛スピードで逃げ回るアシナガに攻撃を当てなければならない。
「掲示板で激しい議論が巻き起こったにもかかわらず、結局手長足長論争は決着がつかなかった。ゲーム攻略にはベストな解決法があるとは限らねえ」
「じゃあ、どっちでもいいってことなんですか?」
「そういう意味じゃねえ。安易なセオリーに流されたり、ましてや戦略をいい加減に決めたりしていちゃダメだってことだ。――だって、俺たちは常識を超えなきゃいけねえんだろ」
「私もみんなと一緒に常識を超えたい。だから――、レイさんの考えを聞かせてください」
アリスの声は真剣だ。
アリスの想いに俺は応えてぇ。
「戦略が見えなくなった。そういう時は――」
ピピッ!
『研ぎが完了しました』というメッセージウインドウが出現した。
研いでいたステッキを砥石から離す。
「自分の武器を、可能性を信じ抜け」
ステッキを持ち主のサエラに渡す。
「サエラ、カタログを3冊出してくれ」
「うん、分かった~」
サエラからカタログを受け取り、武器一覧を表示する。
「アリス、サエラ。急いで探すぞ、クタマ戦を最も有利に進める武器と戦略を!」
俺が今回のレイド対決のためにメンバーに用意した武器は、汎用性が高いものばかり。事前情報がない以上どんなMobにも対応できる必要があったからだ。
だが、しょせんは汎用武器。
一点突破する力は特化武器には敵わない。
だが、俺の武器屋で販売している商品の中には特定の状況に強い特化武器もある。そいつの力を借りてぇ。
「こいつは――」
ある武器を目にした時、頭の中の計算がさらに加速する。
そして1つの戦略にたどり着いた。
「最適解、見つけたぜ」
アリスとサエラに武器を見せる。
「ここから先は総指揮の仕事だ。後はよろしく」
アリスが俺に頭を下げて礼を言う。
「手伝っていただいてありがとうございました。では――」
アリスが大きく息を吸い、そして大声で指示を飛ばす。
「レイさん、サエラさん、ガンザスさん、ジーフェンさん、ハンガーディさん、移動武器屋から武器を購入してください。クタマを無力化、そして撃破します!」
「行くぞ!」
アリスの立てた作戦に従って、俺たち5人のアタッカーがクタマに近づく。アリスにエアフロートをかけてもらったので空中を移動できる。
メマリーがタゲをしっかり取ってくれている。
攻撃のチャンス。
アタッカー5人がクタマをぐるっと取り囲んだ。
「雑魚が何人取り囲もうとも、全員寝かせて無力化してしまえばいいのだ」
ロッドを軽く振り、余裕綽綽の態度のクタマ。
クタマと俺たちの距離は6m程度。
普通なら魔法と投擲以外の攻撃は届かない。
「こっちは1か月も準備してきたんだ。簡単に寝てたまるかよ」
ウインドウを操作し武器を装備。
JAOで最も長い武器――パイクが出現する。
「……!」
突然現れた異様な槍に、狐女の目がくわっと開く。
「無力化すんのは手前ぇだ、狐ぇ! アーマーブレイク!」
逃げる間もなく、あっさりとクタマはパイクに貫かれた。
強烈な突き攻撃を受け、クタマがぐらりとよろめく。
「おのれ……スリー――グワーッ!」
四方八方から迫る槍の嵐に、クタマは魔法を撃つことさえできない。
さっきのアーマーブレイクで防低にかかっているから、ダメージもどんどん入っていく。
俺が用意したパイクのレシピだ。
武器:HUパイク(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
内蔵魔石:威力の魔石U×3
命中の魔石U×2
回避の魔石U×2
防御の魔石U×2
耐久の魔石U×1
滅コボルトの魔石HS×1
耐コボルトの魔石HS×1
パイクとは、長さが6.5mもする槍だ。
遠くから攻撃を当てることができる。
パイク発明当時全盛を誇っていた騎兵を圧倒したり、火器が発明されてもなお使われ続けたりするなど、史実でも長さに物をいわせて大活躍していた。
クタマをパイクで突きながら、サエラが話しかけてきた。
「まさかコボルトファランクス特化パイクを使うなんて思わなかったよー」
今使っているパイクは、ルシファー討伐クエストで使ったものだ。だから、滅コボルトの魔石や耐コボルトの魔石が内蔵されている。もちろん、その2つの魔石はクタマに対して何の役にも立たない。
「まぁ、このパイクはクタマを倒すのにベストじゃねーな」
死に魔石が2つもあるし、威力だっていまいちだ。
「だけど、パイクはクタマを抑えるのにはベターな武器だ」
しょせんクタマは後衛。クタマを自由に殴れるのなら、連打連打でクタマの動きを封じることができる。
だが、クタマに近づくことは難しい。
巨大ゾンビの拳、クタマの魔法、襲い来るゾンビの集団をかいくぐり、初めて攻撃を届かせることができる。少しでも遠くからこちらの攻撃が届くのなら、それに越したことはない。
そこでクタマ特化武器としてパイクを選択。
それに、パイクは長柄カテゴリーの武器の中でもWDLが小さいほうだ。相手の動きを止めるのに非常に向いている。
「だけど、ベターを束ねればベストになる。このレイド対決、俺たちはいつだってそうやって戦ってきた」
このレイド対決に協力してくれた冒険者たちは、俺やサエラよりも力が足りなかった。今でもそうだ。
でもゲームってのは、そういうもんだ。
足りない戦力を強化し組み合わせれば、絶対に倒せなさそうな強敵でも撃破できる。
だから、ゲームは面白ぇ!
「五月蝿い、五月蝿いのだ!」
パイクで蜂の巣になっているクタマは反撃できない。
雑魚ゾンビはタンクやアリスたちが抑えている。
巨大ゾンビの攻撃にさえ気を配れば十分だ。
「もうクタマは怖くねえ! この調子で一気に行くぞ! ピアース!」
俺の号令で、アタッカーたちが一斉にクタマを串刺しにした。
パイクによるクタマ無力化に成功した俺たちは、あっさりとフェイズ3とフェイズ4を突破。
レイド対決最終局面、フェイズ5に突入する。
次回は8月23日の12時頃に更新の予定です。
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今回のレイドダンジョンは拙作『将来魔王になって夢の国でハーレムを目指す』とのコラボです。
こちらも読んでいただいたら嬉しいです。
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参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n2551dl/




