9-46 レイドボス、クタマ戦2
すぐにアリスは指示を飛ばし、第3PTに巨大ゾンビを攻撃させた。
ダメージを見てアリスが結論を下す。
「皆さん、聞いてください。巨大ゾンビのHPは推定400M――現在のクタマの残りHPよりもはるかに多いです」
400M、つまり4億だ。
「俺の計算も同じだな」
俺たちの予想を聞いてレイドメンバーの多くが困惑する。
「おいおい嘘だろ! ここからはずっとボスは騎乗獣に乗ったままってことかよ!?」
クタマは後衛の動きをするMobだ。魔法の判断とエイムは正確だが、身のこなしはかなり下手くそ。騎乗獣を倒せば楽に戦える、というかフェイズ2までは殴り放題だった。
一方、巨大ゾンビはどう見ても殴ってくるし、クタマは巨大ゾンビの頭上に居る。フェイズ2に比べて格段戦いづらくなってしまった。
アタッカーが愚痴をこぼすのも無理はない。
「ボスだけを狙うのか、騎乗獣から先に仕留めるのか――それはもう少し情報を集めてから判断します」
アリスの言う通りだ。
まだフェイズ3は始まったばかり。
巨大ゾンビの情報は何も分かっていない。
ゴゴゴゴゴ……
南から大きな音が聞こえてくる。開門の音だ。
このステージでは東西南北の門が開く度、大量のゾンビが追加されるのだ。
「ちっ、早ぇんだよ!」
さっき南門が開いてから、まだ3分ちょいしか経ってねえよ。くそっ!
すぐさまアリスが通信を始める。
『第4PT、西門が終わり次第、至急南門に急行してください!』
アリスが焦る気持ちも分かる。
俺たちは東門のゾンビをまだ処理できていない。
かといって、他のPTを遊撃に行かせることはできない。
こいつは厳しい状況になってきた。
アリスの指示で第2PTと第3PTの位置をスイッチ。
ここから本格的なバトルをするぞと思った矢先――第2PTリーダー、ガンザスが叫んだ。
「気をつけて! 巨大ゾンビが詠唱を開始した!」
巨大ゾンビの足元に魔法陣が出現。
Mobが魔法を撃つ時はエイムの代わりに詠唱を行う。
広範囲魔法は特に詠唱が長い。
サエラが巨大ゾンビの頭を見上げて声を上げる。
「クタマも詠唱してるよ!」
ボスと騎乗獣のW詠唱。
このピンチでもアリスは冷静だ。
「Aの重ね掛けでしょう。第2PTのタンク以外は自陣に来てください。サンクチュアリ」
サンクチュアリは光のドームを展開する魔法。その防御障壁はクタマのお得意のデバフをシャットアウトできる。
「俺の予想は違うな」
「レイさん、デバフとはいえ危険です!」
アリスの制止を振り切り、俺は光のドームから飛び出した。
確かにクタマはAと呼ばれる広範囲状態異常を多用してきた。今回もそうすると思うのが普通だろう。
だが、今Aを撃ったところで、サンクチュアリやハイディング、リフレクトミラーで防がれてしまう。効果は薄い。
それに敵の立場で考えれば、手の内がバレていない今こそ奇襲のチャンス。Aの重ね掛けなんてビミョーな手、打つはずがない。
「私も手伝う!」
俺に続いてサエラも飛び出していった。
さすが俺の相棒。頼もしい援軍だ。
俺の予想が正しければ――戦線は崩壊。
少なくとも避けタンクのプレイデルは死ぬ。
そんなこと、させねぇよ!
クタマと巨大ゾンビの詠唱が同時に完了した。
「サモンスレイブ」
「う゛~あ゛ぁ~~~~~!!」
巨大ゾンビの足元にゾンビが出現。
その数なんと、合計22体。
歴戦のタンクたちでもすぐには止められない。
このままじゃゾンビの集団に押しつぶされる。
だけど――、
「ゾンビの召喚は予想済みだぁっ! スターダストシャワー!!」
ゾンビの出現と同時に炎の雨を降らせる。
6体のゾンビが消し飛んだ。
だが、まだ16体のゾンビは健在だ。
メインタンクのメマリーがすぐに対応しようとする。
「ウォークラ――」
「やらせんよ」
「――zzz……」
クタマのスリープが命中し、メマリーは眠った。
巨大ゾンビが身を屈める。
俺たちとの距離が近くなった分、より攻撃的な姿勢。
「ふむ。誰を殺そうか」
頭上の狐女がニタニタ笑っている。
「僕が相手だっ!」
メマリーをかばうべく、ガンザスが巨大ゾンビに攻撃。この攻撃は命中した。
「不要な攻撃は命とりなのだ」
巨大ゾンビの拳がガンザスを襲う。
「――!!」
圧倒的な質量の前にガンザスは吹き飛ばされた。
威力もすさまじい。たった一撃で瀕死だ。
ゾンビたちが唸り声を上げガンザスの元へと向かう。
「ガンザスさん!」
「死なせねえよっ!」
サエラとプレイデルがゾンビの集団の前に立ち塞がる。
揉みくちゃにされ、傷つきながらもゾンビたちのHPを減らしていく2人。
2人はagi型。囲まれると非常に弱い。
それでも、仲間を死なせないと懸命に戦う。
「レイさん、スタシャワ撃ってくれよ!」
ショートソードを振り回しながら、プレイデルが叫ぶ。
イケメンの彼も今日だけは顔がくしゃくしゃだ。
ガンザスは仲間であり、親友であり、絶対的なリーダー。
必死になるのは当然だ。
「俺を信じて戦ってくれ、プレイデル」
スタシャワは撃てない。
リキャストタイムに入ってしまったからだ。
だが、手はある。
「どけよっ!」
プレイデルの攻撃が数体のゾンビを吹き飛ばした。
ゾンビたちのHPは結構減っている。
今がチャンスだ!
短剣クリスの剣先をゾンビたちに向け、魔法を発射。
「ホーミングバブル!」
いくつもの火球がゾンビたち目掛けて飛ぶ。
ホーミングバブルは、誘爆するため大勢の敵を一掃するのに向いている。半面威力は低い。
考えなしに撃ってもゾンビを殺せないし、ゾンビたちのヘイトが俺に向くだけ。不利になってしまう。
そこでゾンビを一掃すべく、2人がゾンビたちのHPを減らすタイミングを待っていたのだ。
このまま何もなければ、ゾンビの半分は倒せる――
「サークルヒール」
きらめく光がゾンビたちを包む。
クタマの魔法でゾンビたちのHPは満タンになった。
遅れてホーミングバブルが命中。
塵になったゾンビは1体もいない。
「ガンザス、死ぬのか……」
プレイデルが絶望する。
そこに――
「不正解。死ぬのはお前なのだ」
岩のような巨拳がプレイデルに迫る。
だけど、この展開は想定済みなんだよぉ!
「アームズブロックッッ!」
短剣クリスで巨拳を受け止めた。
これはルシファーを殺した『神殺しのクリス』。
ブロックも最強だ。
巨拳を受けた衝撃で吹き飛ばされたが、しっかり受身を取った。
そして、一言。
「不正解はお前だよ」
「何を言っているのだ……?」
「プレイデルは無事。ガンザスも無事。もちろん、俺も無事。誰も死んじゃいねーよ」
「くっくっく……」
突然口元を抑え笑い出すクタマ。
口を隠しても邪悪さは全然隠せていない。
「何がおかしい」
「実は金髪の女がゾンビにやられていたのだ。視野が狭すぎて気づかなかったかな?」
「だからぁー、不正解っつっただろー」
「やられたのはミラージュアボイドの幻覚でーす」
サエラならガンザスの隣でピースしている。
ゾンビとの交戦後ガンザスを回復してくれていたのだ。
「……!!」
ミラージュアボイドは幻覚を発生させ、相手を引きつけるスキルだ。
被弾がトリガーなので使いにくい。
でも、ゾンビがこれだけいるんだ。
発動するに決まっている。
「それがどうした。今度こそ葬ってやるのだ!」
巨大ゾンビが立ち上がり、プレイデルに向かって拳を振り下ろそうとする。
「ウォークライ!」
巨大ゾンビの視線がプレイデルから一人の少女に移る。
「メインタンクのメマリー、ふっかーーーつ、だもん!」
俺たちがクタマやゾンビと遊んでいる間、第2PTのメンバーがメマリー復帰に動いてくれていたのだ。
「まだゾンビたちは16体も残っているのだ。こいつらを同時に相手して、陣形が維持できるわけがな――」
「スターダストシャワー」
「スターダストシャワー」
「スターダストシャワー」
スタシャワ連打をくらってゾンビの半分以上が消滅した。
「これで私たちのほうが数でも優位に立ちましたね」
別に第2PTだけで戦っているわけじゃない。
アリスたちも戦っている。
裏でアリスたちは第1PTと第3PTの支援などをしていた。準備は万端だ。
「さぁ、仕切り直しといこうじゃねーか!」
次回は8月9日の12時頃に更新の予定です。
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今回のレイドダンジョンは拙作『将来魔王になって夢の国でハーレムを目指す』とのコラボです。
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作者ページから飛ぶことができます。
参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n2551dl/




