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9-44 Finalステージ攻略(第4PTパート)

前回は評価をいただきました。ありがとうございます!

これからも応援よろしくお願いします。



今回は3人称ツフユ視点で話が進みます。

「本当にできるんですかぁ~」


 頼りなさそうな男がぼやく。

 男の名前はチェーデット。

 世界大主教の若い司祭で、ツフユの部下だ。


 くだらない愚痴にツフユはそっけなく言い捨てる。


「神にでも祈っとけ」



 ツフユたち第4PTがFinalステージに突入してから、もうすぐ1時間20分が経過しようとしている。

 進めども進めども他のPTと合流出来ない。

 加えて、大規模なゾンビの集団と出くわしてしまった。

 状況は悪くなるばかり。


 これらの問題を打開するために、PTリーダーのヒナツは1つの作戦を思いついた。今はその準備中だ。

 だが、その作戦は難易度が高い奇策。

 チェーデットが不安に思うのも無理はない。



「できるよ!」



 チェーデットとツフユのやり取りを聞いていたヒナツが、声を張り上げ立ち上がる。


「アタシたち6人が力を合わせれば、作戦は成功するって!」


 チェーデットがか細い声で溜息をつく。


「でも~、たった6人でこんな大掛かりなこと……」


「あんたは何も分かっちゃいない」


 ヒナツの一言にビミョーな沈黙が流れる。


「それ、あたしの真似だろ。全然似てねーし」


 ツフユの指摘にチェーデットもうなずく。


「う、うるさい! 沈んだ空気を変えようとギャグを入れてみたんだよ!」


「沈んだ空気が白けた空気になっただけだ、バカ」


「あんたは何も分かっちゃいない」


「だから、似てねえって言ってんだろ!」


 姉妹のくだらない言い争いに、チェーデットがくすくすと笑いを漏らす。

 チェーデットの緊張がほぐれたのはよかった。

 ただし、部下に笑われたのはしゃくだ。『後でたっぷりなじってやるか』とツフユは思った。



 ヒナツが話を続ける。


「にっくきタイランのやつがこう言ってたよね。『23人の力を合わせれば、どんなステージでも上手くいく』って」


「そんなこと言われても、僕たちは6人しかいないんだ……」


「6人の力じゃ、不安?」


 ヒナツがチェーデットに尋ねる。


「レイドに参加するメンバーを募集したとき、アリスがこう言ったんだ。『レイドに挑戦するには冒険者なんかじゃ経験不足。レイドに挑戦しても死ぬだけ』って。――でも」


 ヒナツがメンバー全員の顔を見回した。


「今、アタシたちは、Finalステージに立っている! 」


 ここはFinalステージ。途中で死んだ者、引き返した者には決して到達できない場所。


「レイから冒険の技術、装備、――そして、楽しさを教えてもらった。1人1人のメンバーがレイドで戦う強さを手に入れたから、ここまで来ることができたんだ」


 ヒナツがさらに熱っぽく語る。


「アタシたち6人は強い! 6人の力を見せてやろう!」


「そうです、チェーデットさん。第4PTには、この場に居ないニーネを含めて、我々ハイギルド暁光の剣のメンバーが3人もいるのです。できないはずがありませんよ」


 暁光のアタッカーがちょび髭を指で整えながら、ヒナツの言葉を肯定した。



 このやり取りを聞いて、ツフユは感じた。


(こいつら、立派に成長したな……)


 ヒナツはずっと自分が護ってきた。

 ヒナツじゃ厳しい現実に立ち向かえなかった。

 戦えていなかったのはヒナツだけじゃない。

 この世界の人々がそうだ。そうだった。


 だけど、ヒナツが倒立前転宙返りを決めた、あの夜。

 護られていたヒナツ自身が「全てを護る」と誓った。


 そして現在。ヒナツだけでなく他の冒険者まで困難に立ち向かおうとしている。


(この流れなら、きっと次の試練も、いや、その先だって……!)


 ツフユの胸から熱いものが込み上げてきた。

 それを隠すためにチェーデットをなじる。


「チェーデット、こっからは弱音禁止な。弱音吐くごとに、大福1個おごれ」


「え~っ、そんな無茶苦茶な」


「はい1個」


「えぇ~、これは作戦の弱音じゃないんで勘弁してください~~」




「おおっと! ニーネから通信ですぞ!」


「来たぁっ!」


 アタッカーの言葉でツフユたちは外の様子を確認する。

 ものすごい数のゾンビの集団をニーネが引き連れ逃げ回っている。

 ニーネのサブ技能はスカウト、斥候だ。

 敵から逃げるのには向いている。



 ヒナツはPT通話で指示を飛ばす。


『ニーネ、そろそろ塔の中に戻って。一応階段は破壊したけど、3階から上にはゾンビたちを行かせないでね』


『任せてよ』


 塔とは、今ヒナツが居るビルのことだ。

 10階建てであり、Finalステージのビル群の中ではわりと高い。


『アタシたちは最後の仕上げに入る。終わったら合図するから、1階から脱出して』


『あいよー』



「さてと」


 ヒナツが立ち上がった。


「最後の仕上げ、派手にいこう!」


 他のメンバーも武器を手に持ち立ち上がる。


「はぁ~めんどくせぇ~」


 ツフユも重い腰を上げ立ち上がる。


 ツフユの言葉を聞いてヒナツが意地悪い笑みを浮かべた。


「ツフユ。弱音言ったんで、アタシに大福1個ちょうだいねー」




 ツフユたちは屋上に上がった。

 ツフユの予想に反してMobが5体居る。


「まずはゴミ掃除からだな」


 そう言って、ツフユは得物を抜いた。

 魔法剣ラムダオだ。


「いきなりツフユやる気満々じゃーん」


「当たり前だ。ってわけで、さっきの大福1個あたしの物な」



 姉妹が無駄口を叩いていたら、泥の手がテレポーテーションでツフユの側に出現した。


「ヒナツ、大福の代わりにそいつをやるよ!」


 泥の手の攻撃をかわし、Mobたちが固まっている場所にツフユが魔法を放つ。


「スターダストシャワー!」


 範囲魔法で前方のMobたちが全滅。残るは泥の手だけ。

 床にも亀裂が入った。


「代わりになるわけないじゃん! ジャンプ!」


 ツフユの肩にヒナツが飛び移る。

 そこから飛び上がり、エイムの照準を泥の手に合わせる。


「デストロイキャノン!」


 極太の火炎弾は泥の手を粉砕し、そのまま床を貫いた。


「さぁ、我々も続きますぞ! マイティビート!」


 アタッカーが大剣ツーハンドソードを床に力いっぱい叩きつける。



 ツフユたちは床をひたすら殴り続けた。

 所々床に穴が空き、亀裂がどんどん大きくなっていく。


 ピシッ……ピシピシピシピシピシピシ――!


『崩れるぞーーーー!!』


 アタッカーの言葉で、一斉にヒーラーたちがエアフロートをかける。エアフロートをかければ空中を歩くことができる。


 ガラガラガラァ――!


 屋上の床が崩落した。


「「いっけえええええ!!」」


 ヒナツとアタッカーが叫ぶ。


 ツフユたちの狙いはビルの倒壊だ。

 最上階の天井を崩し、その重みで下の階を崩落させる。

 これを連鎖させることでビル全体を倒壊させる算段だ。


 階下も崩れやすいように手を加えている。

 ツフユは祈る思いで見つめる。

 そして――。



 ドゴオオオオオーーーン!!!



 全ての階が潰れ、ビルは完全に瓦礫と化した。


『うまくいったぜ~~!』


 ニーネからの通信だ。下を見たら、ニーネがこちらに手を振っているのが見えた。

 作戦成功ミッションコンプリートだ。




「スターダストシャワー」


 ヒナツが瓦礫に埋もれているゾンビを範囲魔法で一掃。腕だけ地上に出ていたゾンビは断末魔の悲鳴を上げて塵に変わった。


「ふぅ、出てきそうなゾンビは大体片付けたかな」


 一仕事終えたヒナツがFP回復用のクリームバナナを食べる。

 チェーデットがヒナツとツフユに話しかけた。


「すごいです。塔を壊し、ものすごい数のゾンビの集団を、瓦礫の下に生き埋めにして無力化するなんて。さすがヒナツ権宮司です」


「まーね。塔崩しは大変だったけど、50体以上のゾンビを相手にするよりかはましだったでしょ」


 ツフユたちが立っている瓦礫の下にはまだたくさんのゾンビが埋まっている。

 武器による攻撃ではないためゲームの仕様上死んではいない。それでも、瓦礫の山を押しのけて顔を出すことは当分不可能だろう。


 チェーデットが遠くを見て呟く。


「後は塔崩しに気づいた他のPTが、ここにやって来られるかどうかですね……」


 ヒナツが楽しそうに笑い飛ばす。


「気づくよ。他のPTが遠くに居たとしても、デカい塔は目立つ。たとえ見えなくても、あの轟音は気づくでしょ」


 ビル崩しの意義は2つあった。

 1つは、ゾンビの集団を生き埋めにして無力化すること。

 もう1つは、自分たちがこの付近に居ると知らせること。


(ほんと、よく考えるよな……)


 ツフユは感心した。

 自分には思いつかない。いや、ヒナツでなければ思いつかないド派手な作戦だった。

 みんなをグイグイ引っ張っていく妹を頼もしく覚えるとともに、ほんのちょっぴり嫉妬した。



 ヒナツが突然頭を抱える。


「でも、この塔崩しの大活躍。アタシたち以外誰も見てないんだよね! あ~、こんなことなら、レイだけじゃなく、アタシも配信しとけばよかった!」



「お~い!」



 フェーリッツが手を振ってやって来た。

 Finalステージに突入後初めて他PTのメンバーが姿を見せたことに、ツフユはほっと胸を撫で下ろす。


「塔崩しの効果、早速てきめんですね」


「チェーデット、それはいくらなんでも早すぎだ。塔を崩壊させてから、まだ2、3分くらいしか経ってないだろ」


 きっとビルを崩す前から、自分たちの居る場所を目指していたのだろう。


 ツフユの言葉にヒナツが膝を叩く。


「それじゃあ、レイたち第1PTが近くに居るってことじゃん。アタシの塔崩し、配信されたってこと!?」


 フェーリッツとレイは同じ第1PTのメンバー。

 レイがビル崩しの様子をカメラに収めている可能性大だ。


 ヒナツが興奮した様子でフェーリッツに駆け寄った。残りのメンバーもフェーリッツの元へ向かう。


「ねぇ、レイは!? アタシたちの大活躍、配信してくれた?」


 ヒナツの言葉にフェーリッツが渋い顔に変わる。


「活躍を配信って――、それはこっちの台詞だし。単身で活動してたから、俺の超活躍だって目撃者がゼロなんだぜ!」


「あ゛~、もったいなぁ~い!」


「配信も目撃者も別にいらないでしょ」


 残念がる2人にツフユは言った。


「あたしたちの冒険は、これからいくらでも話して聞かせればいい。――伝える人がいる限り、想い出は人々の心に残るんだ」




 その後、第4PTはフェーリッツに先導されてゴールにたどり着いた。

 フェーリッツの活躍により、全PTがゴールに到着。

 ここまでのタイムは6時間28分35秒。


 いよいよ地獄のレイドボス戦が幕を開ける。

次回は7月26日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。






今回のレイドダンジョンは拙作『将来魔王になって夢の国でハーレムを目指す』とのコラボです。

こちらも読んでいただいたら嬉しいです。

作者ページから飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n2551dl/

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