9-42 Finalステージ攻略(第2PTパート)1
今回(9-42)から9-43までは3人称メマリー視点で話が進みます。
Finalステージ突入してから、わずか7分。
第2PTは窮地に追い込まれていた。
「くらえっ!」
第2PTリーダー、ガンザスが眉尖刀を振るってゾンビたちをなぎ倒す。
眉尖刀とは中国式薙刀のことだ。
眉尖刀は薙刀よりもはるかに大きい。
「はぁ……はぁ……キリがないね……」
ゾンビは簡単に倒れない。
ガンザスが休む間もなくゾンビたちは前進を続ける。
「俺、こんなにも抱えられないって!」
避けタンクがたまらず叫んだ。
彼が抱えているMobは6体。
避けタンクは囲まれると極めて脆い。
キャパシティを超えている。
「ゾンビが邪魔だよぉ~~!」
メマリーが懸命にマンプルの刃をゾンビに突き立てるが、ダメージエフェクトは出なかった。
メマリーのHITとゾンビのDOGはほぼ同値。ヒットエリアの補正があるため、手元が狂えば回避になってしまう。
「この一撃、癖になるわよ~♡」
ゾンビの群れに交じっていたサキュバスが前に躍り出て、避けタンクに鞭を振るう。
「しまった!」
迫るゾンビに気を取られていた彼は、不意の攻撃に体が対応できなかった。ショートソードが鞭に搦めとられてしまった。
何もできなくなった避けタンクにゾンビが迫る。
「ヒーラー、デバフでゾンビを止めてください!」
ガンザスの指示で後衛たちは魔法を撃って応戦する。
しかし、それらは全て回避に終わった。
「あ゛ぁ~~~。あ゛ぁ~~~」
攻撃されたことでゾンビのタゲが後衛に移った。
ゾンビたちは後衛に向かって行く。
「いやぁーーーーー!!」
ヒーラーの1人アディナがパニックになって叫ぶ。
彼女はUダンジョン攻略隊のメンバー。
中堅冒険者上がりのため、生死ギリギリの戦いには弱い。
(死なせないもん!)
メマリーは挑発スキル、プロボックを連打。
挑発されたゾンビたちはメマリーに向かっていく。
だが、プロボックの効果はわずか10秒。
それが過ぎたら、また後衛が襲われる。
「ガンザスさん! アディナさんを助けて!」
「ムーンエッジ! ムーンエッジ!」
ガンザスがスキルを連続使用。
ゾンビたちは砕け散った。
その後、避けタンクが復帰。
何とかこの窮地を乗り切ることができた。
戦いが終わってガンザスが深刻な面持ちで話す。
「さっきは何とか、しのいだけど……僕たちは火力が低い。次あの規模のモンハウに出くわしたら耐えられないかもしれない。ここからは慎重に進むべきだよ」
第2PTのメンバーはタンクが中心だ。
しかも、アタッカーの一人はHIT不足。
ダメージソースはガンザスの眉尖刀だけだった。
「俺、避けタンクなんで、もうあんなモンハウはごめんだね」
「ああ」
ガンザスの言葉に他のPTメンバーも同調する。
「建物にこもって救援を待とう」
ガンザスの提案にメマリーは反対する。
「えっ!? それで本当に合流できるの? それに、この戦いはタイムアタックだよ。早くクリアしなきゃいけないんだよ」
レイの間近にいたメマリーは、彼のレイドRTA対決に対する並々ならぬ思いを知っている。
消極的なプレイでは何も変わらないことも知っている。
ガンザスの固い顔がさらにこわばる。
「でもね……メマリーさん。僕や君と違って戦えない人もいるんだよ……」
その目線の先には後衛たちがいた。
「ウチ、魔法を撃っても全然当たらなかった……。やっぱり元中堅なんかじゃダメなんだ……」
いつも元気なアディナの震える声。
ゾンビに襲われて命の危機を感じたのだろう。
死ぬのが怖いという気持ちは、死の最前線で戦うメインタンクのメマリーだからこそ、よく分かる。
「メマリーちゃん、俺もキツイ」
「ああ。俺もガンザスに賛成だ」
他の人も賛成に回ったので、メマリーはこれ以上何も言えなかった。
第2PTが廃商店に逃げ込んで30分以上が経過した。
ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……
だだっ広い部屋に呼吸音だけが響く。
一向に誰も助けに来てくれない。
このままでいいのだろうか。
でも、外に出たらやられる。
そもそも、ここが襲撃されたら……。
口には出さないものの、きっとメマリー以外の全員が同じ気持ちなのだろう。顔を見れば分かる。
外で強い風が吹き、ガタガタの窓枠が揺れた。
「ひぃっ!」
「風だ」
「あ……すいません……」
特にひどいのはアディナだ。
すっかり怯えきってしまっている。
今みたいにわずかな物音にも過敏になっている。
彼女はこんな大きな舞台に上がるのは初めてだ。
しかも死にかけた。
心が折れるのも無理はない。
(でも、それじゃあ何も変わらないんだよ……)
メマリーが立ち上がった。
ピンチの時でも先頭に立って敵に立ち向かうのがタンクの務め。
「アディナさん!」
「は、はい……」
「釣りが趣味なんですよね。わたしに釣りのお話聞かせてください!」
「え、急に何さ……?」
「教えてほしいの~。わたしも釣ったお魚、ママに料理してもらいたいんだー」
なるべく明るくふるまうメマリー。
アディナ、いや全員の過度な緊張を取る。
それが今のメマリーの仕事だ。
メマリーの明るさに緊張が和らいだのか、アディナの顔がふっとほころんだ。
「んー、釣りの道は厳しいよー。それでもいいのならー、ウチが教えてやらなくてもーないなー」
「やるやる!」
「まずは釣り餌に触るところからかなー」
「それなら大丈夫だもん!」
「釣り餌はゴカイやイトミミズ――」
「うそぉ~、気持ち悪いよぉ~」
ガンザスも会話に参加する。
「それならルアーフィッシングとか、どうだろう。僕もたまに遊んでるよ」
「……ルアーは釣り技能ない人には難しくありません?」
「遊ぶだけなら十分さ。僕だってサブ技能は釣り技能じゃないしね」
みんなの緊張が少し解けた。
この調子で気持ちを上向きにしていけば、また外に打って出ることができる。
次回は7月12日の12時頃に更新の予定です。
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今回のレイドダンジョンは拙作『将来魔王になって夢の国でハーレムを目指す』とのコラボです。
こちらも読んでいただいたら嬉しいです。
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