9-41 Finalステージ攻略(フェーリッツパート)2
この話は3人称フェーリッツ視点で進みます。
レイたちと別れて10分弱。フェーリッツはステージで1番高いビルの屋上からマップ全体を見下ろしていた。
「ディスタントビュー」
フェーリッツのサブ技能は偵察だ。
姿を隠したり、敵地を調査したりするのに長けている。
ディスタントビューの効果でフェーリッツの視力が急上昇した。見えなかった遠くの様子がはっきりとフェーリッツの目に映る。
数分かけてマップ全域の様子を確認完了。
主要なルート。ゾンビの大群がどの辺りにいるのか。第2PTを除く各PTの所在地。ゴールの場所。全て把握できた。
アリス率いる第1PTとザディウェック率いる第3PTの位置が近い。引き合わせに行ったほうがよいか?
(いや、俺は斥候――敵地を単身で調べ上げ、味方を勝利に導くのが仕事っしょ!)
フェーリッツはマップウインドウを呼び出す。
だが、そこには何も描かれていない。
フェーリッツが遠くを見ながらマップウインドウをゆっくりとなぞると、空白だった地図に次々ルートが浮かび上がっていく。
(焦るな、焦るな……。冒険は情報が命。まずはマッピングを完了させろ)
全レイドメンバー24人を最速で繋げる。
それがフェーリッツに与えられた使命、フェーリッツの生き甲斐。
10分弱でマッピング完了。
マップデータを各PTに渡せば、後は自分でゴールを目指すことができるようになる。
(さてさて、みんな今どうしてる?)
改めてマップ全域を確認。
ヒナツ率いる第4PTはゴールからも、ここからも遠い。第4PTの接触、救援は残念ながら後回しだ。
ガンザス率いる第2PTは相変わらず姿が見えない。慎重なガンザスのことだ。きっと慎重に籠城しているのだろう。
第1PTはフェーリッツの居るビルから遠くない建物で籠城中だ。
(第3PTは――って、ヤバいっしょ、これ!)
わずか10分で第3PTの状況はひどく悪化していた。
彼らはゾンビの大群と交戦中。
その数、なんと30以上。
しかも、メインタンクがHIT不足で機能していないから、本来アタッカーの別メンバーがメインタンクを張っている。
こんな調子では、戦線が崩壊して押し込まれてしまう。
第3PTを救援しないといけない。
だが、どうやって?
第1PTを救援に向かわせるか?
いや、それでは間に合わない。
10分前よりも2つのPTの距離は離れてしまった。
悠長に助けを求める時間はない。
だとすれば、答えは1つ。
(俺がやらなきゃ、誰がやるのさ!)
データはそろった。
後は自分の足で活路を切り開く。
「スカイウォーク!」
スカイウォークを使用すれば空中を歩くことができる。
「急げ!」
空を駆けるフェーリッツ。
空中を走れば目標まで最短距離で行ける。
第3PTが戦っている場所まで一直線に向か――――うことなく、反対方向に走る。
フェーリッツが地上に降り立つ。
そこにはゾンビの集団がたむろしていた。
その数40以上。
たった一人で立ち向かえる数ではない。
「どーも、これは俺からの挨拶さ!」
フェーリッツはククリという短剣で、1体のゾンビの肩をすれ違いざまに斬りつけた。
フェーリッツの一撃が戦闘開始の合図となる。
ゾンビたちが一斉にフェーリッツに向き直り睨みつけた。
「あ゛ぁ~~~。あ゛ぁ~~~」
大勢のゾンビの爪が何度もフェーリッツを襲う。
フェーリッツはDOGが足りていない。
爪攻撃が20%エリアの空間に命中するたび、フェーリッツのHPバーが削れていく。
しかし巧みなボディコントロールで、ゾンビたちに指一本触れさせない。
ゾンビが1体、また1体わらわらとやって来る。
狙い通りの展開にフェーリッツの口から笑みがこぼれる。
「さあ、鬼ごっこの始まりだ!」
フェーリッツは後ろに跳び、ゾンビの集団から離れた。
フェーリッツとの戦闘でゾンビのヘイトはフェーリッツに向いている。ゾンビたちは唸り声を上げてフェーリッツに向かっていった。
フェーリッツは10分以上鬼ごっこを続けている。
「ヘイ! こっちだ、こっち!」
フェーリッツは逃げながら、拾った石をゾンビの集団に向かって投げつける。攻撃をしかけることで、ヘイトが下がるのを防ぐためだ。
フェーリッツは完全に逃げて撒くことはしない。
距離が離れたら、足を止め投石。
距離が近づいたら、また逃げる。
これの繰り返し。
ゾンビの集団からつかず離れず鬼ごっこをしている間にも、行く手にいたゾンビも次々と鬼ごっこに参戦する。
(どんどん来い! どんどん集まれ! 俺だけを狙え!)
ゾンビは【リンク】という行動パターンを持っている。
リンクMobは交戦中に仲間を次々呼び寄せるのだ。
そして、リンクの波及効果は交戦している同じ種類のMobの数で決まる。つまり、戦っているゾンビの数が多いほど、ゾンビを呼び寄せる範囲は広くなり、呼び寄せる効果も強くなる。
いつしかフェーリッツを追いかけているゾンビの数は100をも超えていた。
またしても進む先にゾンビの集団が。その数16体。
今までは行く手を阻むゾンビの一団から逃げ回りながら、タゲを取ることで後続の集団にまとめていた。
だが、ここは裏路地。ゾンビをいなすスペースなど無い。
「ここで終わりだな……」
そう言ってフェーリッツは足を止めた。
「あ゛ぁ~~~。あ゛ぁ~~~」
前方からは、唸り声を上げゾンビの集団が襲いかかる。
後方からは、ゾンビの大群が押し寄せる。
誰がどう見ても絶体絶命の状況。
それでも、フェーリッツは余裕の態度を崩さない。
「こんなに追っかけてくるなんて、モテるイケメンはつらいねぇ――」
フェーリッツは不敵に笑った。
「でも、そろそろお別れの時間っしょ!」
スキル発動。
「スカイウォーク! ダッシュ!」
2つのスキルを発動させて、フェーリッツはビルの壁面を猛スピードで駆け上がる。
フェーリッツはやみくもに鬼ごっこをしていたわけではない。
各地に散らばるゾンビの集団を回っていたのだ。
これだけの数が1か所に集まれば、他の場所ではゾンビの密度も薄くなる。
最初にビルの屋上から確認した段階で鬼ごっこのルートは決めていた。
路地裏に入り込んだもの当然わざとだ。
最後はここでゾンビの集団を切り離すつもりだった。
あっという間にビルの屋上に到着。
第3PTと第1PTの位置と状況を再確認。
どちらも無事だ。
第3PTの居る場所はここからそれほど遠くない。
空中を走れば2、3分で着く。
状況確認完了。さぁ、第3PTの元に向かうか。
そう思った時、2体の女悪魔Mobが屋上に降り立った。
相手はサキュバス。非レイドの雑魚。
フェーリッツの敵ではない。
(魔法をかわして、サクッと殺るか。……って、何だ?)
幾重にも重なる地鳴りのような唸り声が聞こえてきた。
ここは屋上だ。飛行Mobのサキュバスしか追ってこれないはず――。
(おいおい、嘘だろ……!)
フェーリッツは目を疑った。
なんと、撒いてきたはずのゾンビたちが空を闊歩しているではないか!
今までいくつものダンジョンを冒険してきたフェーリッツであるが、空を歩くゾンビを見たのは初めての経験だった。
あっという間に屋上がゾンビの集団に呑み込まれていく。
自分の理解を超えた光景にフェーリッツの心臓が跳ねた。
(すげぇ……! 空飛ぶゾンビに囲まれるなんて冒険、想像したこともねーよ!)
フェーリッツの眼と心が燃える。
そして、レイ=サウスが作ってくれたジャンビーヤをぐっと握りしめる。
(こんな弾けるような冒険に連れて行ってくれた、レイさん。それと、俺の挑戦に乗ってくれた仲間たちにマジ感謝だぜ……)
尊敬するレイさんの武器でレイドクエストに挑みたい。
そんな無謀な自分の夢は叶えてもらった。
今度は自分が仲間の夢を叶える番だ!
「どんな死地でも、俺は仲間の元に生きて戻る! ユニークスキル――【タイムファンタジスタ】!」
屋上を埋め尽くさんばかりの数のゾンビがフェーリッツ1人を襲う。いかにゾンビの火力が低かろうとも、この数に襲われたら命は一瞬で砕け散る。しかし――、
フェーリッツ目がけてゾンビたちが襲い掛かる。
その隙に、一人の天才がゾンビの集団を華麗に駆け抜けた。
フェーリッツのユニークスキル【タイムファンタジスタ】。
30秒の幻影を見せるスキル。
幻影を見せるアクティブスキル【ミラージュアボイド】と違い、成功率は100%であり、効果時間もはるかに長く、任意のタイミングで発動させることができる。
フェーリッツが囲みを抜けても、Mobたちは気づかず幻影を攻撃し続けている。
ミラージュアボイドだったら逃げられなかっただろう。
そのままフェーリッツはゾンビの集団に構うことなく、仲間の元に一直線で駆け抜けていった。
「待たせたな!」
第3PTの元にフェーリッツが到着した。
「うおーーっ! 救援が来たぞおー」
「やったぁ~~!」
強者ぞろいの第3PTであるが、連戦に次ぐ連戦で疲労の色を隠せない。
フェーリッツは第3PTに連絡を伝える。
「マッピングも終わったし、ゴールも分かったっす。各PTがバラバラに動いてちゃ、Finalステージは攻略できねえ。ここから少し離れた建物の中に第1PTが待機しているっす。まずは合流しよう。俺が先導するぜ」
第3PTのサブリーダーがフェーリッツに注意をする。
「慎重に進みましょう。この付近にはゾンビ30人以上の集団があります。僕たちは何とか逃げ切りましたが……」
フェーリッツは胸を張って言った。
「そいつらは俺が何とかしたっす!」
「ええっ!?」
ゾンビはリンクMob。
数が多い集団に引き寄せられる性質がある。
第3PTを襲った集団は、途中でフェーリッツが作ったゾンビの大集団に合流したのだ。
もちろん、こうなることも計算済み。
「ゾンビ30人なんて怖くねーよ――だって、それぐらい居たほうが冒険は楽しいからね!」
次回は7月5日の12時頃に更新の予定です。
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今回のレイドダンジョンは拙作『将来魔王になって夢の国でハーレムを目指す』とのコラボです。
こちらも読んでいただいたら嬉しいです。
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参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n2551dl/




