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9-33 1stボス、王洪戦

 現在フェイズ1が始まって12分が経とうとしている。

 1stボス、王洪のHPは既に4割を切っている。

 余裕の展開だ。

 このまま力押しでも進めることはできるだろう。

 だが……。



「そろそろ3分です。皆さん準備してください」


 アリスが指示を出す。


「レイさん、皆さんの武器のDRAは大丈夫ですか?」


「問題ない」


 俺はずっと研ぎに専念している。

「武器が折れそうだ」なんて誰にも言わせねえよ。


 タイマーを見ているアリスがカウントを始める。


「5、4、3、2、1……0!」


 アリスの0カウントと同時に、モニターからクリフトンの姿が一斉に消える。


『君たちが勝つ確率は――0%』


 全てのモニターに『0%』の文字が出現する。

 そして、俺たち全員に状態異常【封印】を示すアイコンが出現した。



 クリフトンは【0%】と【100%】のギミックを3分ごとに交互に繰り返す。


【0%】はボスたちに対して状態異常回復を行い、プレイヤーに対して永続各種低下と永続封印と強制ディスペル(バフ解除)をかける。

【100%】はボスたちに対して状態異常回復、永続の各種バフと永続のスキルリチャージを行い、プレイヤーに対して強制ディスペルをかける。



 王洪と対峙している第2PTメンバーたちが舌打ちする。


「ちっ! 向こうがバフでステータスを上げて、こっちがデバフでステータスを下げられちゃ、いくら相手のレベルが低いからといっても、きついっつーの」


「ああ。しかも俺たちは封印でスキルを使用できない。圧倒的不利だ」



 もちろん、このままでは戦えない。

 だが、ちゃんと対抗策は用意されている。


「各人、守護霊を一斉展開してください!」


 アリスの指示が飛び、冒険者は守護霊を顕現する。


「【包み込む慈愛 セーラ】顕現せよ!」

「【清廉なる女騎士 アレクシア】顕現せよ!」

「【力を奪う者 マーク】顕現せよ!」

「【予言の聖女 エリノーラ】顕現せよ」

「【夢見る子女 ヒラリー】顕現せよ!」

「【王国の誉 ブレンダン】顕現せよ!」

「【始まりの吸血姫 カーミラ】顕現せよ!」


 当然俺も。


「【未来の女神 スクルド】、顕現せよ!」


 ずらりと居並ぶ守護霊たち。

 先頭に立つスクルドが髪をかき上げる。


「さぁ、私たち守護霊の力を見せてあげましょう!」


 顕現したばかりの守護霊には何のデバフもかかっていない。

 冒険者の状態異常を解除したり、ボスのタゲをとったり、ボスに大ダメージを与えたり。守護霊たちは大活躍を見せる。



 この優勢の状況で、PTメンバーのガボンが俺に話しかけてきた。


「7月レイドのボスに比べたら楽勝だな! 酒飲んでいいか?」


 さすがジデの悪友。

 言ってることが無茶苦茶だ。


「ダメに決まってんだろ」


 7月レイドの1stボス、ドレイクは強かった。

 それに比べてこいつらは弱い。

 現に、サブボスのオセロメーなんかスクルド1人に追い回されている。

 ガボンが楽勝だと思うのは当然だ。

 しかし……。


「楽勝ねぇ……。そりゃあ守護霊出し放題なら、苦戦はしねーよ」


 守護霊顕現は大きくDRAを消費する。

 数分も出しっ放しにしていれば武器が消滅する。


「そりゃあ、レイさんが武器を研いでDRAを回復させてくれるおかげだぜ。レイさんがいてくれるから、守護霊を使い放題ってわけだ」


 無邪気に喜ぶガボン。

 だが、レイドクエストの経験者である俺は現状を喜ぶ気になれない。

 事実アリスの顔は暗い。


「アリス、どう見る?」


「ここは明らかに、守護霊顕現によって力押しすることがデザインされたステージ。私たちが楽勝なのは当たり前。ですが……」



「タイム遅えよなぁ……」



「はい。12分経ってもHPバー1本すら折れないのは遅いです……」


 1stステージのボス撃破のタイムの目安は30分。

 本来だったら、2本目に入っている時間だ。いや、王洪たちのHPが低いことを考えると、もっと追い詰めてもいいはず。



「それもこれも【0%】のギミックとエリアシーリングのギミックのせいだよなぁ……」


 このステージには【0%】と【100%】のギミック以外にも、Aシーリングによる範囲封印のギミックもある。

 Aシーリングのギミックの発生条件は不明だ。


「封印されたらスキルが使えませんからね。DPSを上げようがありません」


 ガボンが毒づく。


「くそっ、ヒーラーは何やってんだ!」


 現在は、ヒーラーの守護霊にキュアコンディションを使わせて冒険者の封印を解除させている最中だ。


「キレんじゃねえ、ガボン」


 そうは言っても、ガボンが荒れる気持ちは分かる。

 俺たちアタッカーはスキルが使えなきゃ暇だ。

 短気なガボンにとっては酒でも飲まなきゃやってられないのだろう。

 俺だって、つまんねえ研ぎばっかりじゃなくて、ボス相手に思いっきり暴れてぇよ!


「仕方ないですよ……。Sランクのキュアコンで切れる状態異常の数は2種類。封印の他に5種類の低下もかけられているんです。都合よく封印を切れるとは限りません……」


 アリスが説明するも、ガボンの怒りはおさまらない。


「クソがっ! これじゃあ、俺たちアタッカーにとっては永続封印じゃねーかよっ!」


 永続封印か……。

 もちろん、それは言葉の綾だ。

 キュアコンで解除できる以上、永続封印なんてありえない。


 だけど、【0%】のギミックやAシーリングによる封印のかけ直しがある以上、キュアコンはヒーラーやタンクに使いたい。

 なかなかアタッカーにまで回ってこないのが現状だ。



 1つの疑問点が浮かぶ。


「なぁ……、さっきの【0%】で封印のエフェクト出てたよな?」


 サエラとアリスがうなずく。


「何で封印にかかっているやつにまでエフェクトが出たんだ?」


「それは……バグとか……?」


 アリスも首をかしげている。


「このクエストが実装されて半月経っているんだぞ。さすがに修正されるだろ」


「レイ君、そういえばAシーリングをかけられた時、レイ君たちアタッカーに封印のエフェクトなんて出てなかったよ?」


 サエラの言う通りだ。俺も確認済み。


「そもそも、このゲームはバフやデバフの上書きができない仕様になっている。かけ直しなんてあり得ないだろ?」


「ほんとだ!」


 俺の指摘にサエラが驚いた。

 ステータスウインドウを開き、アリスが首をひねる。


「これ……。【0%】直後は、封印の効果時間ゲージが最大値に戻っているみたいですね。どういう仕様なんでしょう? やはりバグが未修正……」


 デバフの上書きができない以上、効果時間ゲージが最大値に戻ることはない。

 封印の上書きがあったことは間違いなさそうだな。

 一体どうやって……?



 少しの間考えて一つの結論にたどり着く。


「なるほどねぇ……。そういう仕様か……」


「レイ君、どうやってかけ直したのか分かったの!?」


「ああ。それどころか、タイム短縮の方法も見つけたぜ」






 6分後。もうすぐ【0%】のかけ直しだ。


 アタッカーたちの封印が解除されていたらよかったが、さすがにそうは上手くいかなかった。

 クリフトンのAシーリングが決まってしまい、そこからの立て直しでまたアタッカーが割を食ってしまったのだ。


 だけど、Aシーリングの発生条件は分かった。

 封印にかかっていないプレイヤーの人数が15人以上になると使用する。

 もうクリフトンの好きにはさせねえ。

 ただ、どのみちアタッカーの封印が解除できないと、ガボンはぶちキレていたが。



 そんな暴れん坊のガボンには思いっきり暴れてもらおう。

 移動武器屋を開店し、1本の大剣をレンタルに出す。


「ガボン、こいつで王洪相手に暴れてこい」


 レンタルしたのはツヴァイハンダー。

 四天王と呼ばれる超重武器の1つだ。


「すげぇATKだ! 俺のバスタードソードなんて目じゃねえよ!」


「こいつは鼻垂れ王子に献上するはずだった逸品。スキルなんか使わなくても最強だ」


「うおおおおおっ! ぶっ殺してやるううう!!」


 ガボンが王洪に向かって走っていく。



「どけっ! 筋肉だるまにチビガキっ! こいつは俺が殺るっっ!!」


 タンクたちの間を走り抜け、ガボンが王洪に迫る。


「死ねやあああっっ!!」


 ガボンの一撃が王洪の肩にめり込んだ。


「こざかしいっ!」


 王洪は武装をスピアーからデュエリングシールドに変更した。



「引きつけ成功だな」


 ガボンを攻撃に行かせることで王洪にプレッシャーを与え、デュエリングシールドに持ち替えさせたのだ。


 超火力のスピアーと違って、デュエリングシールドは攻撃手段が乏しい。アタッカーにとってデュエリングシールドなんて怖くない。

 しかも、デュエリングシールドは囲まれると弱いうえ、デュエリングシールドを装備すると王洪の動きは遅くなる。


 タイムを縮めるにはデュエリングシールドを装備した時を狙うのがベスト。



 この戦いを見ている視聴者に呼びかける。


「さぁ、今から王洪のHPバーを折るぞ」


「このペースでは厳しいですよ。もうすぐ【0%】の時間ですし。どうやって削りますか?」


 確かにアリスの言う通りだ。

 だが、策はある。


「スキルを一斉に叩き込む」


「じゃあ、キュアコンをアタッカーに回して封印を――」


「いらねえ。【0%】の仕様の穴を突けばスキルを使用できる」


 目を丸くするアリスをよそに、第2PTと第3PTに呼びかける。


「今から一斉攻撃を仕掛ける。俺とサエラ、第2PTのアタッカーは王洪を、第3PTはシルヴェストロを包囲。俺の合図と同時に攻撃スキルを発動しろ」


 説明する時間はねえ。

 信じてついてこい!


「絶対に王洪のバーを折るぞ!」


 俺たちはボスに向かって走り出す。



 王洪とシルヴェストロを取り囲んだ。

 このタイミングで――



『君たちが勝つ確率は――』



 現在アタッカーたちには封印と低下系の状態異常がかかっている。【0%】の後も封印と低下系は続く。

 アタッカーにとってデバフは永続する――んなわけねーだろ!!



『0パ――』



 クリフトンが言い終わらないうちに、




「今だ!」




 アクティブスキルをマニュアル発動。

 次々に他のメンバーの武器も光り出す。

 その光はスキル発動の証。


「カッティング!」

「フェイタルスラッシュ!」


 スキルが撃ち込まれボスたちのHPが急激に減少する。

 そして、


「ダブルカッティング!」


 俺の攻撃で王洪のHPバーは砕け散った。



 同時にデバフのエフェクトが発生。

 俺たち全員がデバフにかかる。


『馬鹿な! 確率は0%のはずだ! こんなこと……100%あり得ないぃぃ!』


 モニターの中のクリフトンが半狂乱になって叫ぶ。

 きっと俺以外の全員が、スキルを発動させたアタッカーたちでさえも、あり得ないと思っているにちがいない。



 ここからしばらくは守護霊タイムだから俺は暇になる。

 解説の時間だな。


「どうして、封印にかかっているのにアクティブスキルが使えたかって?」


 手品の種明かしはこうだ。


「実は【0%】のギミックの発動直前でいったん全てのデバフが解除されるんだ。その一瞬のタイミングでスキルを発動させた」


 JAOはバフやデバフの上書きができない仕様になっている。

 にもかかわらず、明らかに上書きされていた。


 ここから導き出した結論は、『いったん俺たちにかかっている状態異常を回復し、再度デバフをかけた』だ。

 これなら問題なく上書きができる。


 ということは、封印が解除されている一瞬の時間内ではアクティブスキルが使用できることになる。

 まさにJAOの仕様の穴を突いた作戦だ。


「タイミングが超シビアだったんだが、スキルを発動できたのは8人中5人か。この分なら、後6分後も大ダメージが期待できるな」



 王洪がよろめきながら呟く。


「最強の矛が折れても、俺にはまだ最高の盾がある……」


 ってことは、あのやべぇスピアーを使わないってことじゃねーか。

 盾だけなんて怖くねえ。

 こうなったら、ボコり放題だ。

 6分後まで王洪生きてられるかな(笑)




 こうして、俺たちは1stステージをあっさりクリア。

 1stステージのクリアタイムは40分11秒。

 最初はとまどったが仕様の穴を見つけてからは早かった。

 俺たちに有利な仕様だったにせよ、上出来だ。


 2ndステージもこの調子で駆け上がる!

次回は5月3日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




今回のレイドダンジョンは拙作『将来魔王になって夢の国でハーレムを目指す』とのコラボです。

こちらも読んでいただいたら嬉しいです。

作者ページから飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n2551dl/

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