9-28 7月レイドRTA終幕
攻略隊チームによる7月レイド1stステージ攻略配信を、アリスたち暁光チームは視聴していた。
画面の向こうではボスとの激闘が繰り広げられている。
「いけぇーーーっ!」
「決めちゃえーーーっ!」
暁光チームと攻略隊チームはクリアタイムを競っている。
それにもかかわらず、視聴している冒険者たちが攻略隊チームを応援している。
ジャッジのアリスも彼らの気持ちは分かる。
興奮渦巻く空気の中、アリスは【暁光の剣】正規ギルドメンバーの様子を観察する。
皆真剣な面持ちで画面を食い入るように見ている。
暁光の剣は攻略隊のライバルギルド。
正規メンバーはプライドを懸けた勝負の真っ最中だ。相手の応援なんてできるわけがない。
ライバルがお互いに高め合う名勝負。
このままどこまでも成長していけばいい。
アリスはそう願うが、決着はじきにやってくる。
勝者と敗者は必ず決するのだ。
攻撃魔法が一斉に撃ち込まれ、ボスが爆散した。
後はボス部屋の奥の扉が開き切れば、クリアタイムが確定する。
暁光チーム全員が固唾を呑んで配信を見つめる。
画面の中でレイ=サウスがタイムを読み上げる。
『1時間53分27秒――攻略隊チームの勝ちだ!!』
暁光の参謀ティルが乾いた声で呟く。
「3分27秒差……。それくらい、明日挑めばひっくり返せるじゃないか。攻略隊の作戦を改良すれば俺たち暁光の剣なら絶対できる――」
「ティル。お前、それでも参謀かよ」
暁光の正規メンバーがティルの話を遮る。
「明日は8月1日。もう7月レイドには挑めない――勝負に2度はないんだ」
残酷な現実が重くのしかかる。
暁光の剣のギルドマスター、ザディウェックは奥歯をギリギリと噛んでいるが今にも叫び出しそうだ。
ティルは眼鏡を震える手で持ち、ふらふらと揺れている。
他の正規メンバーも悔しさで限界を迎えそうだ。
もちろん正規メンバー以外の参加者も強いショックを受けている。
敗北は嫌な体験だ。
だが、レイド攻略は嫌なことばかりではない。
楽しいことは、それ以上にたくさんある。
彼らの心に傷を残さないようにするのも、レイドの体験を伝えるアリスの役目。
「まずは皆さん、レイドRTA対決お疲れ様です。ジャッジの立場でこんなことを言うのもなんですが、私も勝ちたかった……です」
アリスは湧き上がる感情をこらえて話を続ける。
「でも、私たちのレイド挑戦はこれからも続きます。8月には特選騎士団とのレイドRTA対決があります。8月が終わっても、9月レイド、10月レイド……。私たちは何度でもレイドを遊ぶことができます」
『レイドを遊ぶ』
自然に口から出た言葉にアリスはハッとなった。
この世界に来てからアリスは、レイドとは恐ろしいものだと思っていた。
しかし、ゲームの頃はどうだったか。
アリスはレイドクエストに挑戦するのが好きだった。
ワンミスで即全滅するスリリングなボス戦。好タイムを目指して24人が1つにまとまる高揚感。目もくらむような豪華報酬。自分が参加したレイドチームがランキング上位に乗ったときの達成感。
レイドクエストがあったからこそ、アリスのJAO生活は最高に楽しかった。
当たり前だった喜びを思い出し、アリスに笑顔が戻る。
「そこで提案です。また攻略隊とレイドで遊びませんか?」
アリスの言葉に、ザディウェックがニッと歯を見せ笑う。
「もちろんだあー。何度でも遊んでやるぜえー」
そう言うと、ザディウェックはインベントリからジョッキを取り出し中身を飲み干した。
「さぁー、これからは俺たちが挑戦者だ。胸を張って勝者に挑めや!」
ザディウェックの力強い言葉に、敗北にうなだれていたチームがまた上を向いた。
アリスたちの居る場所に攻略隊がやって来た。
レイド攻略に参加していた攻略隊メンバーも、参加していなかった攻略隊メンバーも、皆弾けるような笑顔だった。
攻略隊ギルドマスター、アメニアがアリスに話しかけてきた。
「アリスさーん、なんとドレイクから太陽が出たんですの~!」
「えっ、そうなんですか!?」
太陽のLIは蠍座のLJ作成に必要なアイテムだ。暁光や神官連が集めにかかっているが、なかなか集まっていない。
「私たちもアリスさんたちのお役に立てることができて、ギルドメンバーたちも喜んでいますの~」
「役に立っていないなんて、そんな。一昨日昨日と連続で女帝のLIを出してくれたじゃないですかー」
「それは私たちの与えられた仕事の範囲内です。普通の冒険者である私たちが自分たちの冒険で、皆さんの期待以上の成果を出せた。それがたまらなく嬉しいのですわ」
攻略隊はフォロワーの集まり。
その彼らが力を合わせ、強敵を倒しライバルに勝ちレアアイテムまで手に入れた。攻略隊結成以来最高の体験にちがいない。
「レイさんには先程クウィと一緒にお礼申し上げたのですが、アリスさんにも申し上げます」
「は、はい」
アメニアの改まった態度にアリスも思わず背筋が伸びる。
「私たち攻略隊は『自分たちは普通の冒険者だ』という枷をはめていました。アリスさんは、そんな私たちの枷を外し、可能性を広げ、私たちに冒険の楽しさを思い出させてくださいました。攻略隊ギルドマスターとしてお礼を申し上げます」
アメニアは離脱騒動のときは敵対的だった。
けれども、レイドに挑むことで自分たちの可能性を広げることができた。
その姿が自分に重なるのを、アリスは感じた。
「私はレイドについてのレクチャーをしただけです。大したことはしていませんよ。むしろ――」
「むしろ?」
「アメニアさんのおかげで、私も自分の可能性をもっと広げたくなりました」
アリスはレイドをより楽しむべく次なるステップに進む。
「みなさーーーーーん! お話がありまーーーーーす!」
アリスはがらにもなく大声を出し、この場に居る人たちの全員の注目を集めた。
内気なアリスにはつらいが、勇気を振り絞って前を向く。
「暁光チームの皆さんには昨日もお伝えしましたが、8月レイド挑戦可能かどうかのジャッジは――合格です」
合格という言葉に冒険者たちが盛り上がる。
アリスの決意はその先だ。
「そして、8月レイドRTAの総指揮ですが――私にやらせてください!」
「ちょっと待て」
最強プレイヤー、レイ=サウスからの物言いだ。
「レイドの総指揮はすげぇ難しいぞ。アリスお前、やったことあんのか?」
レイド攻略の総指揮。
広範囲にわたる戦況を見極めつつ、レイドPTメンバー全員のコンディションに気を配る。そして、何十手先の展開を計算しながら最善手を矢継ぎ早に飛ばす仕事。レイドPTの司令塔だ。
「私は総指揮未経験です。それでも、レイドを今までよりも楽しみたい。だから――」
アリスは怯まずに言い切った。
「総指揮に立候補します!」
アリスはまばたきもせずにレイを注視する。
果たしてレイは何を言う。
「いいんじゃねえの。俺もアリスを推すぜ」
レイのお墨付きがついて、次々賛同する声が上がる。
「他にやりたいやつがいなかったら、アリスで決定するぞ」
反対の声が上がることなく、アリスは8月レイドの総指揮に就任した。
「まずは総指揮として初めての仕事をやりたいと思います」
「お、早速か? 何するんだ?」
レイの質問にアリスは軽く咳払いをして答える。
「8月レイド攻略メンバー候補に1人加えます」
8月レイド攻略メンバーはまだ決まっていない。
それを決めるのも総指揮の仕事だ。
「攻略隊のアディナさん――これからはレイド攻略レクチャーを受けてもらいます」
「う、ウチぃ!?」
突然指名を受けた女冒険者は目を丸くしている。
「ウチなんか連れて行っても仕方ないと思うなぁ~、攻略隊にはもっと上手いヒーラーもいるしぃ~」
謙遜するアディナの言葉にアリスは首を横に振る。
「アディナさん。あなたはintカンストしています。あなたの力が必要なんです」
intは、デバフの成功率、バフとデバフの効果時間に影響する。ゲームの頃はintカンストしていないヒーラーなんて、お呼びでなかった。
大半のヒーラーがintカンストしていないこの世界では、アディナは戦略上重要。アリスはそう考えたのだ。
「そんなこと言われてもさぁ~。ウチ、さっきも全然役に立っていなかったし。戦える自信なんてないっていうかぁ~。ほら、万全の攻略をするならリスクは徹底的に避けたほうがいいじゃん」
「自信なんて、最初からある人は少ないですよ」
アリスは語る。
噓でも何でもない。自分の実体験だ。
「最初は下手でもなんでもいいんです。まずはレイドクエストを思いっきり遊んでください。技術なんて後からついてきます」
攻略隊副マスターのクウィもアリスに同調する。
「アディナさん、やりましょうよ! ボクたち攻略隊はみんなで支え合ってきたから、ここまで来れたんです。レイド攻略メンバー23人もきっとあなたを支えてくれますよ」
レイ=サウスを始めトップ冒険者たちが口々に「大丈夫」「任せろ」と声をかける。
頼もしい。
この人たちとなら、最高のレイド攻略ができそうだ。
「――分かった。ウチやってみる!」
アディナもアリスの誘いに乗ってくれた。
大変だけど最高に楽しいレイド攻略。
アディナも気に入ってくれることを、アリスは願う。
「今回の7月レイド1stステージRTA対決の締めだ。お互いのギルドマスターは一言感想を言ってくれ」
レイ=サウスが促すと、Uダンジョン攻略隊のギルドマスター、アメニアが話す。
「最初、私たちではレイド攻略なんて不可能だと諦めておりました。それでも、多くのメンバーが知恵を出し合い、奮闘してくれたおかげで攻略することができました。今回の対決に関わってくれた全員に感謝の意を述べたいと思います」
暁光の剣ギルドマスター、ザディウェックが舌打ちする。
「悔しいけどよお……お前らのチームワークは最高だった。完敗だ」
アリスが2人に提案する。
「では、お互いの健闘を讃えて、握手をお願いします」
「これからも良きライバルでいましょう」
アメニアから差し出された手を見て、ザディウェックも手を差し出す。
「次は勝つ。――それだけだ」
熱い握手が交わされ、7月レイド対決は幕を下ろした。
次回は3月15日の12時頃に更新の予定です。
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