9-21 Uダンジョン攻略隊離脱騒動5
「納得いかん!」
ブロンファンが突然大声をあげる。
「アメニアさんたちだけで、どうするかを決めてもらっては困ります!」
「あ~、ごめんあそばせ。すっかり忘れてましたわぁ~」
「攻略隊は一人一人が主役のギルド。みんなで多数決を取らなきゃだね」
アメニアとクウィがうなずいた。
「では~、レイド対決に参加し、もう一度レイさんたちと対決を盛り上げたい方は~挙手をお願いします~」
アメニアに言われて、多くの攻略隊メンバーが手を挙げる。
「27、28……。28対4で賛成多数のため、レイド対決をすることに決まりましたー」
圧倒的多数の結果を受けて、攻略隊メンバーが割れんばかりの拍手をする。
「納得いかーーーん!」
ブロンファンがさっきよりもずっと大声を張り上げた。
「みなさん、考え直してください! 我々のような普通の冒険者がレイドダンジョンに挑戦するなんて、無理、無茶、無謀!」
いい流れをぶち壊したブロンファンに反論する。
「まだ、そんなこと言ってんのかよ。普通の冒険者だって、課金武器が無くても1stステージぐらいクリアできるぞ」
怒れるブロンファンをアメニアがなだめる。
「まぁ~まぁ~、ブロンファンさん~。最初の挑戦は暁光さんですし~。それを見て、行けるかどうかの検討を行えばよいかと思いますの~」
「みなさん、レイ=サウスの口車に乗せられているのです! こんな普通でない超人の言うことを真に受けるんじゃないっっ!」
声をからして、ブロンファンが俺をこき下ろす。
「イエース! レイ=サウスは嘘つきさ。1stステージでもカキン武器無しなんて、無駄無駄無駄無駄ぁぁ!」
世界一の嘘つきが何言ってやがる。
「何度もレイドクエストを攻略している、タイランがこう言ってるんだ。間違いない!」
ブロンファンの野郎、やけにタイランを擁護するな……。
暁光にはタイランのスパイがいるって、クウィが言ってたっけ。すっかり忘れてた。
よし、スパイをする不貞野郎にはお仕置きだな。
ブロンファンに爆弾を投げつける。
「で、お前、いくらもらってんだ?」
ブロンファンの真っ赤な顔が、真っ青に変わる。
「とぼけんなよ。とある筋から、調べはついてんだよ」
ま、ブラフだけど。
「しょ、しょう、証拠なんて無い!」
「そうそう。証拠なんてナァ~~~ッシング!」
「じゃあ、みんなに質問だ。『俺たちは普通の冒険者だから、レイド対決なんて関係ない』とか『普通の冒険者だから、移動工房と組んでも美味しい思いはできない』とか『タイラン商会からバックアップの話がきている』とか、こいつに吹き込まれたやつはいるか?」
クウィは自分の知らないところで、ネガティブな噂を吹き込んでいるやつがいると予想していた。
俺たち有利の今の流れなら、正直に告白してくれるやつが出てくるはずだ。
「私、ブロンファンさんから何度もそういう相談を受けてましたの」
アメニアが手を挙げた。
それを見て、他のメンバーも恐る恐る手を挙げる。
全部で10人以上もブロンファンの工作をくらっていた。
「……だってさ。どういうことか説明しろ」
俺に睨まれ、ブロンファンがしどろもどろになる。
「そ、それは損得を考えて……」
「損得ぅ!?」
「ち、違う。違うんだ。俺の損得じゃない。ギルド全体の損得を考えて……」
「ギルド全体の損得かー。レイドDってのは金銭効率激ウマだ。それに、さっきも話した通りHU武器も格安で販売する。仮に対決に負けてもギルド全体の底上げになる。6日後の課金武器のレシピも効率も分からない、タイラン商会よりよっぽど得だと思うけど」
「そ、それは……。8月になってから考えれば……」
「『ギルドにとってお得だ』ってこんなにも言っているのに、まだ反対するのかよ。そんなにデカい金もらってんのかー。攻略隊離脱の報酬は」
「いや、いや、いや、いや……報酬なんて――」
「報酬なんて、いっっっ切! お支払いしませんっっ!!」
弱りに弱ったブロンファンの言葉は、無情なタイランの言葉にぶった切られた。
なぜか、ブロンファンがタイランに食って掛かる。
「話が違う! 離脱工作に失敗したとしても、流した攻略隊の情報料は後日支払ってくれるという話だっただろ!」
タイランがわざとらしく、すました顔で店長に尋ねる。
「キミ、報酬を支払う契約を彼と交わしたかい?」
「いいえー。そんな契約存じ上げませんなぁー。もし契約書の控えがございましたら、お見せください」
うわぁー。
タイラン商会相手に口約束なんて1マネにもならねえってのに。
ご愁傷様ぁー。
ブロンファンが俺の前に出て頭を下げる。
「レイ=サウスさん、やっぱり俺もレイド対決に参加します。タイラン商会を一緒に倒しましょう!」
「そうか。ようやくやる気になってくれたか」
「レイ=サウスさん……」
「ダメに決まってんだろーーー!!」
金のことしか考えていない勘違い野郎と組んで、本気のゲームなんかできるわけがねえ。
「アメニアさん、なんとか俺を対決にねじ込んでくれぇ~」
ブロンファンがアメニアに泣きつく。
「ブロンファンさ……いえ、ブロンファン」
アメニアの声が今までよりもずっと重い。
「タイラン商会と組んでレイさんと仲たがいをさせようとしたことは、ギルドのことを思ってくれたと水に流すつもりでしたの。でも……」
アメニアが厳しい目つきで裏切り者を睨む。
「仲間を売ったことは見過ごせません! ――あなたをUダンジョン攻略隊から、追放いたします!!」
哀れなブロンファンに一言。
「『リスクを最小限に抑えリターンを最大化』しようとしても、結局うまくいかねえもんだ」
ブロンファンは元中堅冒険者。
『リスクを最小限に抑えリターンを最大化したつもりになって、最小のリターンしか得られない』
中堅冒険者と呼ばれる層のそんな生き方から、こいつは抜け出ることができなかった。
いや、違うな。
一番大事なものまで売ってしまったから、最小のリターンすら得られなかった。
忘れちゃいけねえな。
次回は1月25日の12時頃に更新の予定です。
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