9-19 Uダンジョン攻略隊離脱騒動3
攻略隊が離脱を申し入れた翌日。
クウィに頼み込み、攻略隊が離脱するかどうかについて、もう一度急遽話し合いの場を設けてもらった。
この会議には、攻略隊の執行部メンバーだけでなく、攻略隊全ギルドメンバーに集まってもらった。
せっかく決定したことを再検討してもらうんだ。
ちゃんと一人一人に説明したい。
参加者は攻略隊だけじゃない。
「あのー、レイさん。どうして攻略隊のみなさんもここにいるのでしょうか?」
麦わら帽子をかぶった男が質問する。
こいつは暁光の副マスター、ペネストラ。個性派揃いの暁光における唯一の調整役だ。
この話し合いには暁光の全ギルメンも参加してもらっている。
「しばらくお前らに出番はねえけど、大人しく待ってくれ。廃ギルドのお前らでも満足できるような、面白ぇイベントをちゃんと用意しているぜ」
新しい企画を発表すると言って、暁光をここに呼んだ。
攻略隊に戻ってきてもらうには、攻略隊離脱の原因の1つである暁光の協力も必要だ。
クウィが話しかけてきた。
「暁光も来てくれましたし、そろそろ始めましょうよ」
「あいつらは……まだ来てねえか」
クウィは知らないが、俺はスペシャルゲストも来ると予想している。
「まぁいい、そろそろ始めるか」
あいつらはいつも、呼ばれてもいないのにやって来る。
そういうやつらだ。
まずは攻略隊のギルドメンバーに向かって頭を下げる。
「すまなかった!! 昨日クウィから話は聞いた。攻略隊、いや、参加しているメンバー全員の待遇改善をする。だから、もう一度俺たちに協力してほしい!」
俺の謝罪に対して不満の声がどっと上がる。
俺との繋がりが強い執行部のクウィでも、あんなに不満を抱えていたんだ。
一般メンバーはなおさらだ。
淡いピンクのドレスに身を包んだ、お嬢様風冒険者が白い長髪をふわりとかきあげた。
「みなさ~ん、落ち着いてくださいませ~」
やんわりとしているが、すっと耳から脳の真ん中へと通り抜けるような声。
その一言で吹き荒れる不満の嵐が止まる。
声の主は――Uダンジョン攻略隊ギルドマスター、アメニアだ。
「待遇改善と言われましても、そんなの~困ります~。ギルメンみんながやりたくないことを、もう一度やろうと呼びかけるのは、ギルマスとしては大変心苦しいのです~」
物腰こそ柔らかいが、昨日と同じかたくなな態度。
「昨日もお話させていただきましたが、Uダンジョン攻略隊はレイさんたちとは違いますわ~。普通の冒険者の集まりなんです」
「そんなことないよっ!」
「クウィちゃん……。普通の冒険者の集まり。それが私たちの目指すギルドですわよね」
「うんっ! でも、レイさんたちだって普通の冒険者だよ。絶対に分かり合えるよ」
アメニアとクウィの視線が交錯する。
一呼吸置いて、アメニアの眼が細くなる。
「クウィちゃんがそこまで言うなんて……」
執行部メンバーのブロンファンもフォローに入ってくれる。
「そうです、アメニアさん。より良い利益を得るためにも、レイさんの待遇改善案をよくよく検討してみましょう!」
「分かりましたわ。レイさん、お話聞かせてくださいませ」
俺が待遇改善案を披露した後、攻略隊ギルドメンバーによる検討が始まった。
悪くない待遇だと評価する声も上がったが、大半の顔は固いままだ。
だが、ここまでは予想通り。
今はまだ我慢のターン。
餌に食いつく魚を待て。
「目先の小銭を追うんじゃあないっっっ!!」
芝居がかった自信満々な声。
よしっ、釣り針に獲物が食いついた!
「予定通りタイラン商会の傘下に加われば――君たちには、圧倒的なパウワァァァ~と、目がくらむグゥウォォォジャスなボスドロップを手にするだろう!」
派手に扉を開けて、タイラン、そして店長がずかずかと入ってきた。
タイランたちが突然現れたのは理由がある。
実はクウィに頼んで、執行部メンバーだけには、話し合いを開くことを伝えていたのだ。
罠にかかってタイランたちがのこのこと現れたということは、やはり執行部メンバーの中にタイランとグルになっているやつがいる。
ブロンファンがタイランを睨む。
「残念ですが、タイランさん。レイさんの待遇改善案も悪くなかったですよ。あなたは我々にどんな利益を与えてくださるのですか?」
タイランがパチンと指を鳴らす。
「いいでしょう! タイラン商会が攻略隊にもたらすマキシマムな利益、それは――タイラン商会の武器のレンタルサービスでぇす!」
「レンタルサービス、パクりやがったぁ!」
パクリ上等のタイラン商会とはいえ、そこまでやるかぁ!?
「ノンノン~、パクリじゃない、パクリじゃない。だってぇ~、君たちみたいなちんけな通常武器を貸すわけないじゃーん。タイラン商会がレンタルするのは――カキン武器でぇぇぇぇぇすっ!!」
「課金武器はレイド特化だ。だからといって、レイドクエストに挑戦するとか言わねえよな?」
課金武器だけでレイドクエストを完全クリアするのは難しい。
プレイヤースキルや個人資産が足りない攻略隊に扱いきれるのか?
「それは私が説明しましょう」
店長が出てきた。
「レイドクエストは危険度からしておすすめできません。が、真EC【地球の臍】なら、最高額を稼げるでしょう!」
店長の言葉にどよめきが起きる。
「へそってことは、ボスは金龍だな……」
金龍はダンジョンボスのドラゴンで一番強ぇ。
いくら今回の課金武器がドラゴン特化だとしても、本当に勝てるのか?
課金武器のレシピを店長に教えてもらい、行けるかどうか検討してみた。
「いかがです。このカキン武器なら絶対大丈夫です!」
店長が自信満々で胸を張る。
「バランス型のタンク用グラムに、防御魔法が強いヒーラー用グングニル……。これだったらエクスカリバーが無くても大丈夫か」
課金武器は汎用性が低いから、いくら大種族龍とはいえ、金龍は絶対無理だと思ったんだが。
レシピが噛みあっている。
その辺の計算はできているみたいだな。
「イエス! レイドを制したこのカキン武器なら、コウリュウなんて楽勝です!」
コウリュウというのは金龍の正式名称だ。
タイランのドヤ顔がムカつくが、これはその通り。
だが、課金武器レンタルサービスには致命的な欠点がある。
「ところでよぅ……。8月になったらどうするつもりなんだ?」
「どういう意味ですかな?」
店長が馬鹿にしくさった態度で、俺に尋ねる。
この反応。やっぱり店長は何も知らねえか。
「課金武器は1か月たったらゴミになるぞ」
課金武器はレイド特効。
レイドクエストは1か月ごとに変わる。
ガチャを毎月じゃぶじゃぶ回してもらうために、課金武器の効果は一月限定に設定されているのだ。
この銭ゲバ運営め!
「今日は7月27日だから、7月の課金武器が使えるのは今日含めて後5日しかないな」
俺の指摘に、攻略隊からタイランを非難する声が上がる。
タイランが引きつった顔で返答する。
「当然8月になったら新たな武器をレンタルするよ……」
「じゃあ、その武器でどのECに行けるんだ? そこを周回したら効率が出せるのか?」
「そ……それは……」
店長が青筋を立てて怒鳴る。
「問題なかろう! 来月タイラン様が地球の臍特化カキン武器を作れば――」
「やめろおおおおお! ストップ! ストップ! ストォォォッッップ!!!」
タイランの我を忘れて叫ぶ姿に、店長含めてドン引きだ。
そこに追い打ちをかける。
「何でそんなに焦ってるんだ? 早くいつものように『イェース! 作りましょう!』とか言えばいいんじゃねーの?」
「そ……それは……」
しどろもどろで言いよどむタイラン。
とっくにネタは割れている。
タイランの秘密を暴露する。
「お前は武器を作れない――だって、鍛冶できないもんな」
タイランは世界一の鍛冶屋。
タイランがたくさん武器を販売し、課金武器を用意してレイドDで俺TUEEEしていたことは事実だ。
だから、タイランは武器を作ることができる。
みんなそう思っていた。いや、思わされていた――。
おかしいと感じたのは、クリスマス期間で特選騎士団と戦ったときだ。
あいつらはdex型を馬鹿にしていた。上司のタイランが鍛冶技能持ち、つまりdex型ならそんなことは言わせないはずだ。
最大の違和感は、タイランがルシファーと戦おうとしなかったことだ。
この話を王様から聞いた時、話が繋がった。
タイランみたいに目立ちたがり屋なら、ルシファー特化の課金武器を作って俺TUEEEしようとするだろう。それが俺たちに対する最高の妨害になる。
だが、王様から戦えと言われても逃げ続けていた。
考えられる理由は一つ。
タイランが用意できるのは、運営がデザインしたレシピの課金武器だけだからだ。
店長が声を張り上げタイランを擁護する。
「馬鹿馬鹿しい! 武器を作るには、鍛冶スキルが必要だ。じゃあどうやって、鍛冶スキルを使わずに武器を用意できるのだ!」
その回答は、課金可能なプレイヤーならみんな知っている。
「ガチャ産だ」
「ふん! そんなものをいくら回したところでカキン武器は手に入らんわ」
店長が言うのは通常ガチャ・高級ガチャのことだ。
これらは課金アイテム、ヴァリュアブルストーンが無くても回すことができる。
だが、しょせんは無料。課金武器は手に入らない。
「タイランにしか回せない【課金ガチャ】があるんだよ。課金武器を手に入れる手段は課金ガチャをぶん回すしかねえ」
課金できないこの世界で、どうやってタイランが課金ガチャを回しているか。
不可能を可能にする能力――チートスキルにちがいない。
「課金ガチャのラインナップは一月ごとに変わる。武器種とレシピは固定。来月の課金武器でどのECに行けるかは、まだ誰にも分からねえ」
「…………」
全員の眼がタイランを見つめる。
さっきからタイランはずっとだんまりだ。
このまま白黒つけないなんてことは許さねえ。
「タイラン、攻略隊に教えてやってくれ。来月からは本当に課金武器で大儲けできるのか!」
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
追い詰められたタイランの息遣いが荒くなる。
「は、8月になったら連絡しま~~すぅ~~」
情けない声でそう言うと、タイランはその場に座り込んでしまった。
アメニアが話し始める。
「そういうことでしたら~。カキン武器のレンタルサービスはお断りいたしますわ」
「ぐぬぬ……」と店長は唇を噛み悔しがり、攻略隊の取り込みに失敗したうえに秘密がばらされたことでタイランは放心状態だ。
タイラン商会のもくろみは崩壊した。
「しかしながら~、みんなが不満に思っているのは事実です~。暁光のみなさんには馬鹿にされ~、やりがいのない仕事ばかり押し付けられる」
アメニアの言葉にブロンファンも大きくうなずく。
「そんな状態で目標に向かって頑張れとおっしゃられても、私たち普通の冒険者には無理なんです」
「そうか……。ってことは、『暁光を見返し、大勢のギルメンが楽しいと感じられたら、また一緒にやってくれる』ってことでいいんだな?」
俺の確認に、
「もちろんですわ」
アメニアは力強く答えた。
「それではお聞きいたします――レイさんは私たちに、どんな提案をしていただけるのでしょうか?」
アメニアの質問に、クウィと目を合わせる。
クウィの桜色の瞳も輝いている。
前置きが長くなったが、いよいよ発表だ。
「廃プレイヤーも普通のプレイヤーも熱くなれるイベント。それは――7月レイド1stステージ対決だ!」
次回は1月11日の12時頃に更新の予定です。
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