9-17 Uダンジョン攻略隊離脱騒動1
タイランによるEC締め出し騒動から数日後。夕方の狩りを終えた俺たちは、冒険者の酒場でツフユと今後の打ち合わせをしていた。
「ツフユさん~~いるかあ~~~」
馬鹿デカくて間延びした声が酒場中に響く。
そして、奥から4人の冒険者がやって来た。
「おお~、レイさんまで居るじゃあねえ~かあ~」
馬面の巨漢冒険者が俺を見て挨拶する。
「よう、ザディウェック。どうだサザンクロスは?」
ザディウェックが率いるギルド【暁光の剣】には、真EC【サザンクロス諸島】の周回を担当してもらっている。
「おーい、あれ見せろー」
「OK」
ザディウェックに言われて、女魔法使い風冒険者が1枚のカードをテーブルに置く。
それを見て俺たち一同がどよめいた。
ザディウェックが顎に手を当てながら、得意げに歯を見せ笑う。
「収めてくれえ。【太陽のアルカナ~レーシュ~】だぜえ~~」
「ありがとう! すぐ銀行に行って代金振り込んでくる」
太陽は蠍座のLJを作るのに必要だ。
ツフユたち神官連は必死こいて太陽を集めている。
ツフユは飲みかけの酒を残したまま走り去った。
「サザンクロスのダンジョンボス、朱雀は強ぇ。大変だろうけど、これからも太陽頼むぜ」
俺の言葉にザディウェックが鼻息をふんと荒げる。
「俺たちはーハイギルド、暁光の剣いー。いくらレイさんといっても、みくびってもらっちゃあー、困るぜえ~」
根暗魔導師ティルが眼鏡をくいと上げる。
「スザクの攻略法は、この暁光の頭脳ティルとそのおまけたちが確立しました」
「ほぅ、朱雀の攻略法を確立だってぇ!」
サザンクロスは真EC。そう簡単に攻略できる場所じゃねえ。
だからこそ、この世界一の廃ギルドに周回を依頼した。
だけど、たった1週間ちょいでボスの狩り方を確立するなんて、さすがに俺も予想できなかったな。
「さすがは廃ギルド。この世界のナンバーワンギルドを目指すだけある」
俺の言葉に暁光メンバーが色めき立った。
「おっしゃあああ! レイさんに俺たちの強さを示してやったぜえええええ!」
「これは通過点俺たちの強さはこんなものじゃないいずれは全ての真ECを踏破し(ぶつぶつ)……」
「憧れのレイさんに認めてもらいました……」
「やった」
ザディウェックが空いている椅子にドンッと片足を掛け、人差し指を天井に突き立てる。
「よおーーーし! 今日はあー、ここにいる酒場の全員んー、俺たち暁光のおごりだあああ!!」
ザディウェックの一声に酒場中の客のテンションが沸騰した。
そんな中、暁光メンバーのちょび髭冒険者が何かに気づいて、俺たちから少し離れた場所のテーブル席まで移動した。
「こんなハッピーな空間なのに、怖い顔をしている方がいると思いきや。これはこれは、雑魚ギルドで有名な【Uダンジョン攻略隊】のみなさんじゃないですか~」
攻略隊は暁光のライバルギルドだ。
ナンバーワンギルドの座を争っている。
「んあー、オーラなさすぎて見えなかったわあ。安心しろお、お前ら雑魚にもちゃーんと、おごってやるぜえ~~~」
「おごるといっても、ここに居ない攻略隊ギルメンにはおごらないぞ。お前ら攻略隊はギルメンの数だけは断トツナンバーワンだからな。全員におごるとなると財布がもたない」
ちょび髭とザディウェック、ティルの挑発に、攻略隊の1人が立ち上がった。
「たまたまLIが当たっただけで、いい気になるな!」
抗議したのはブロンファンという攻略隊の幹部だ。
ティルが不愉快そうな顔で睨む。
「たまたま……。よく聞け。俺たち暁光の剣だけが真ECの周回を任されている。これは、お前ら数だけ多い雑魚ギルドには絶対に任せられない大役。太陽ゲットはその成果だ」
ちょび髭がさらに煽る。
「質問です。攻略隊は今までいくつのLIをゲットしましたか~?」
答えは0。
暁光は少人数精鋭だ。メンバーは7人しかいない。
対して、攻略隊は30人以上在籍しているにも関わらず、いまだLIをゲットできていない。
「言い過ぎだ。そのへんにしておけ」
暁光を止めた。
対抗心を持ってやり合うのはいいが、暴言はダメだ。
レアアイテムをゲットしたかどうかなんて、正直運要素が大きい。当てたから偉いなんてことはない。
ブロンファンが鼻息を荒くして、言い放った。
「今にみてろ! もうすぐお前らとの立場は逆転する!」
それだけを言い捨てて、攻略隊は酒場から出て行った。
食事を終え、俺たちは酒場から神宮に移動することになった。
移動中、アリスが話しかけてきた。
「暁光のノリにはちょっとついていけませんね」
「分かる。あのバカ騒ぎは、酒の飲めねえ陰キャにはつれぇわな」
「いや、私はお酒飲みますが……。そうじゃなくて、強さを誇示するイキリオタク的な感じが」
「ギクッ! イキリオタク!」
俺も身に覚えありありだよ。
「違うんです。レイさんはあんなに調子に乗ってるということはありませんから」
「そうかねぇ……?」
「なんというか、あの人たちは強さを振りかざして周囲の輪を乱すところが、レイさんとは違うんです。レイさんは強さを示すことはあっても、それはプレイ環境を良くするためにやってるんです。イキリ散らして環境を壊す暁光とは全く違います」
アリスの言葉にメマリーもうなずいた。
「わたしもそう思う。お兄ちゃんなら、攻略隊にあんなにひどいことは言わないもん」
「今日の暴言はやりすぎだ。でも、俺は暁光のことは嫌いじゃねーな」
アリスが俺に質問する。
「どういう点が?」
「あいつらは廃プレイヤー、つまりゲームを本気で遊ぶやつらの集まりだ。強い自己顕示欲は、裏を返せば、高い向上心だ。アクが強いプレイヤーが多い分、プラスに働けば環境を引っ張れる、プレイを高められる」
ゲームの頃は廃ギルドに所属していたから分かる。
廃ギルドにはアクの強いプレイヤーが多い。
正直、ライバルとの煽り合いは多かった。
その分負けん気を活かして、勝とうとする勢い、一番を目指そうとする勢いは強かった。
今の俺があるのも、俺がゲームの頃お世話になったギルドで腕を磨いたからだ。
「俺の古巣に近い雰囲気だからさ、俺は暁光のほうが好きだな」
暁光を見ていたら古巣を思い出す。
今頃みんな元気にバカやってんのかな。
「攻略隊って、暁光が言うほど劣ったギルドだとは思わないけどなぁ~」
サエラの感想にうなずいた。
「俺もそう思う。同じナンバーワンギルドを目指すといっても、暁光と攻略隊とは全く方向性が違う」
「どう違うの、お兄ちゃん?」
「暁光はさっき言ったとおり、高難易度ダンジョンを切り開く、この世界で一番強いギルドだ」
俺たち6人はギルドじゃないのでノーカン。
そもそもヒナツは神官連合所属だしな。
「攻略隊はフォロワー主体のギルドだ。既にトッププレイヤーによって攻略されたダンジョンについて、より効率的でより安全な戦い方を研究している。攻略情報や戦術を公開しているから、冒険者全体のレベルアップに貢献している」
サエラが俺の説明を補足する。
「攻略隊はフォロワーや中堅の冒険相談もやってるよ」
サエラの言葉にうなずいた。
「攻略隊のおかげで一人前の冒険者になったやつは多い。この世界で一番役に立つギルドだ」
サエラが溜息をつく。
「方向性が違うのなら、喧嘩しなきゃいいのに……」
「それは正論だな。でも、方向性が違うギルドでも競い合うことはよくあるもんだ」
俺がプレイしていたサファイアサーバーにも色々なギルドがあった。俺が所属していたギルドのような廃ギルド、攻略隊のようにプレイヤーの格がまちまちのギルド、ライト層多めのまったりギルド、超廃人のソロギルド。
『争いは同じレベルでしか発生しない』という言葉があるが、ゲームでは半分正解でしかない。
GvG|(ギルド対抗戦)や各種イベントランキングなどでは、全てのギルドが同じ土俵でしのぎを削っている。
平等に順位付けされる以上、お互いに無関心なんてわけにはいかない。
「俺は競い合うこと自体が悪いなんては思わねえ。暁光と攻略隊には良い意味で、ライバル関係でいてほしい」
方向性が違っても、勝負する場所は同じ。ゲームを面白くしたいという目的も同じ。
それなら2つのギルドが競い合えば、ゲームはより面白くなる。
「言葉のプロレスはともかく、今日みたいなくだらねぇ暴言はダメだけどな」
サエラが首を縦に振ってうなずく。
「『げえむ』は楽しくだね」
「そういうことだ」
次回は12月28日の12時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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