9-12 最強の男レイ=サウスによるナインフィーソロ攻略1
9-12から9-14までは3人称ニーネ|(トップ冒険者・新キャラ)視点で話が進みます。
ぐおお~ぐおお~ぐおお~……。
怪物の吠え声のようにうるさい、いびきが部屋中に響く。
ギルドメンバーたちは邪魔ないびきの音に顔をしかめながら、レイ=サウス配信の配信を視聴している。
女冒険者ニーネがたまらず声を上げた。
「あぁっ、もぅ! ザディウェックのいびき、うっさすぎだろ。配信聞こえねーよ」
ザディウェックというのは、ベッドで横になっている大男の冒険者のことだ。
「ティル、あんたうちの参謀でしょ。あの馬面バカを起こす良い作戦ない?」
ティルと呼ばれた根暗そうな男が、意味ありげに眼鏡をクイッとさせる。
「そもそもザディウェック君は一度深酒で寝ると陽が昇るまで目を覚ますことがないだらしのない人物彼が一度寝たら最後鼻を塞ごうが水をぶっかけようが(ぶつぶつ)……」
「つまり、ないってことかよ……」
ティルの言うことは相変わらず聞き取りにくい。
だけど、結論は分かっている。
他のメンバーは何も言わない。
ニーネたちが所属するギルドは【暁光の剣】という、トップ冒険者の中でも精鋭たちが集まった攻略ギルド。
レイ=サウスの言葉、動きから、盗めるものは盗もうと必死なのだ。
「ねぼすけザディウェック~、レイさんがボスを倒しても知らねーぞー」
ニーネが椅子を少し後ろに倒してぼやいた。
「ボス戦かあああ!」
いきなりザディウェックが飛び起きた。
「いや、まだだけど……」
「ぐおお~ぐおお~ぐおお~……」
ザディウェックは寝た。
「着いたぞ」
ティルが小声で呟くと、ザディウェックが飛び起きた。
「ボス戦かあああ!」
ティルが眼鏡をクイッとさせる。
「嘘だ」
「ぐおお~ぐおお~ぐおお~……」
ザディウェックは寝た。
ティルが小声で呟いた。
「着いたぞ」
「ボス戦かあああ!」
ティルがザディウェックで遊びだした。
余計にうるさい。
ニーネが呆れてモニターに目を移すと、レイ=サウスがボス部屋前に到着していた。
「ギルマス、マジでボス戦だぞー」
「んあー。この時を待っていたぜえー」
ニーネが呼ぶと、ザディウェックが今度こそ起きた。
「おーい、ニーネ。ここまでの配信どうだった、あー?」
「正直、ボス部屋までソロで行くのはアタイでも行ける。でも、スカウト技能持ちのアタイから見ても、めちゃくちゃ勉強になったよ」
ニーネの仕事はスカウト、つまり斥候。
単独行動のエキスパートだ。
そんな彼女でもレイ=サウスのテクニックには舌を巻いた。
「ハハッ、だろうなあー。レイさんだったら、こんな雑魚ぃ雑魚戦なんて楽勝だろうさあー。ああ~、ボス戦の配信が楽しみだあー」
ザディウェックが無邪気に笑った。
気持ちはよく分かる。
いや間違いなく、この場に居る全員が同じ気持ちのはず。
暁光の剣は最強を目指すギルド。
レイさんが何を教えてくれるのか、楽しみで仕方ない。
ニーネが語る。
「ECをいくつもクリアしているアタイたちから言わせれば、ここのダンジョンボス、ナインフィーはちょっと物足りないくらいのボスだった」
ナインフィーはHPが非常に低い。
PTで追い込んでスタンさせてしまえば簡単に倒すことができた。
「おーい、ティルよう~。お前の計算ではナインフィーソロ攻略ってできると思うかあー?」
「不可能だねたとえHU武器であってもあのナインフィーの驚異的なDOGに対抗するのは難しいたとえ対抗できたとしても(ぶつぶつ)……」
ティルの言う通りだ。
いくら物足りないからといって、ナインフィー撃破が決して簡単だったわけではない。ましてや、ECのダンジョンボスをソロ攻略するなんて常識的にあり得ない。
「でも、不可能を可能にしてくれそうなのが、レイさんなんだよね~」
ニーネの言葉に全ギルメンがうなずいた。
不可能だと言ったティルでさえも口元がにやついている。
「今回の武器レシピの解説が始まるよ。えっ――!?」
その内容にニーネは目を疑った。
いや、全視聴者が仰天しているに違いない。
レイの武器レシピは以下の通り。
武器1:Uククリ(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
内蔵魔石:命中の魔石SS×4
耐久の魔石SS×2
回避の魔石SS×2
防御の魔石SS×2
威力の魔石HS×1
耐魔獣の魔石HS×1
武器2:Uコムラビ(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
内蔵魔石:耐久の魔石SS×6
威力の魔石SS×5
滅魔獣の魔石S×1
武器3:Uステッキ(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
内蔵魔石:命中の魔石SS×4
威力の魔石SS×3
耐久の魔石SS×2
回避の魔石SS×2
滅魔獣の魔石S×1
武器4:SSジャンビーヤ(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
内蔵魔石のレシピは省略
外付けに【予言の聖女 エリノーラ】の魔石HS
「「「U武器ぃぃぃぃぃ!!」」」
ギルドの全員が一斉に叫んだ。
無理もない。自分たちがナインフィーを6人PTで倒したときでさえ、HU武器を数本持っていったのだ。
画面の向こう側でレイ=サウスがとんでもないことを言う。
『武器は基本U武器でいい。これでも問題なく戦える』
「おーい、ティルうー。お前、武器どう評価するう?」
「どどどどどう評価しろって言ったってザディウェック君この暁光の剣の頭脳俺ティルでも分からないものは分からないんだいや違うな違う、HITが足りない!」
ナインフィーは超DOGのボス。
HITが足りないと言ったティルの言葉はもっともだ。
しかし、レイ=サウスはこう言った。
『メインウエポンのククリと魔法用のステッキは、HIT重視のレシピだ』
「いやいや当たらない当たらないよ全然HIT重視じゃないしフェイズ3の武器マンゴーシュの推定DOGは1万7、8千あるんだぞHIT9200なんかじゃどれだけ命中を外付けしても(ぶつぶつ)……」
震える片手で眼鏡を抑え、ティルがテンパっている。
ティルは想定外のことが起きると、こうやってテンパる癖がある。
「どうやってナインフィーを倒すのか、俺にはさっぱり分からない」
震えるティルを見てニーネがケラケラと笑った。
「いいじゃん、それで」
「どういうことだ?」
「分かんないから――冒険っしょ!」
ニーネたちにはレイ=サウスの真意がつかめない。
でも、分からないからこそ、燃えてくるものがある。
スカウトのニーネにとって、冒険というものはそんなエキサイティングな遊びなのだ。
「見ているだけなのに、自分が冒険している気分になるなんて――やっぱりレイさんは最高!」
ニーネにつられて、暁光の剣のギルドマスター、ザディウェックも笑った。
「見せてもらおうじゃあねえか、レイさんの冒険ってやつを!」
最強を目指すギルドも知らない、最強の男の冒険が今始まる。
次回は11月16日の12時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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