9-7 7つの不足3
前回は引き続き評価をいただきました。ありがとうございます。
これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
この世界はJAOを基にした世界だが、ゲームとは違うところもある。
そこがゲームを攻略する鍵だ。
「この世界とJAOで違う点。それは――チートだ」
「はい。チートこそが私たち最大の強みです」
朝まで検討していたと言っていたくらいだ。
アリスもちゃんと分かっていた。
「私から説明します。私たちの持つチートは3つ。まずは、レイさんのチートスキル【移動工房】。今回の対決では武器製造はできませんが、研ぎは行えます」
ゲームではDRA不足が、通常武器縛りによるレイドクエストクリアの最大の理由だった。これがなくなったことはとても大きい。
「次もレイさんのチートスキル【移動武器屋】。武器屋を開設し武器を自由に販売できるチートスキルですね。多種多様な武器を使えることは攻略に非常に有利です」
レイドDにはレイドMobが出現する。
そいつらのデータは一切不明。しかも強い。
色々な武器をそろえておけば、未知のレイドMob相手にも対抗できるかもしれない。特にボス相手に噛みあう武器を用意できれば、不利をひっくり返して有利に立てる。
「そして、レイさんのチート守護霊スクルドです。守護霊の中でもスクルドさんの強さは桁違い。状況に応じてその性質を自由にカスタマイズできます。エキストラスキルの設定次第ではレアスキルが使い放題」
スクルドはルシファー戦でも大活躍した。
ヒートオブハートでPTメンバーの最大HPを上昇させたり、高いHPに物をいわせてルシファーを1人で抑えたり、ラグナエンドを叩きこみ相手のDRAやHPを大きく削ったり。
今回の対決でも欠かせない、俺たちの頼もしい仲間だ。
「守護霊はスクルドさんだけではありません。他の守護霊だって心強い味方です」
俺やアリスがゲームを遊んでいた頃には守護霊は実装されていなかった。
守護霊は従来のバランスをぶっ壊す程強い。
守護霊以前と以後とでは、ゲームの常識も変わっているはずだ。
「守護霊の大種族は神。存在自体がチートです」
レイドMobの武装には滅人耐人が組み込まれている。
守護霊には滅人耐人は効かない。
「しかも、レイさんが武器を研いでくれるおかげで、私たちは守護霊を何度も使えます。憑依で基礎ステを上げてもよし、顕現で戦わせてもよし」
守護霊の使用はものすごくDRAを消費する。
ゲームでは短時間での運用しか想定されていないはずだ。
それでもぶっ壊れの存在。
無限に使うことができたら――俺たちに負けはねえ。
「よく分析できているじゃねーか。こんだけチートがあったら、俺TUEEE小説してると思わねえのか?」
「レイさんらしくない。チートはまだありますよ」
「えっ!?」
「次のパッチ忘れました?」
「ああ! ルシファー討伐報酬か!」
「そうです。私たち6人だけには、レベルキャップの開放、ユニークスキルが実装されます」
「実装日も8月14日だから、ぎり間に合うな!」
ユニークスキルの内容は現時点では不明だ。
だが、ユニークスキルは超難易度クエストをクリアした特別報酬。
ぶっ壊れスキル間違いなし。
「アリス、こんだけすげぇもんが俺たちには有るんだ。誰もできなかった通常武器縛りレイドも、俺たちならクリアできる」
「『私たち6人』が4PTならクリアできる。私もそこまではたどりつきました。でも私たちは6人しかいないんです」
「どういう意味だよ?」
「どれだけすごいチートを私たちが持っていたとしても、レイドで有効な守護霊を思う存分使えたとしても――結局残りの18人は普通以下のプレイヤーです」
そう語るアリスの顔色は暗い。
「私はレイさんよりも臨時PTで狩りをしています。この世界のトップ冒険者がどんなレベルなのかを知っています。個々の腕前や資産にばらつきはありますが、私たちと並ぶプレイヤーはいません。――私は残り18人の命を保証できません」
アリスの言うことは確かに正しい。
まだまだこの世界のプレイヤーのレベルは低い。
それは間違いない。
だけど――、
「アリス、この世界でしかできないこと。1個検討するの忘れてたわ」
「まだチートがあるっていうんですか!?」
「ある。とびっきりのチート――時間チートだ」
「そんなチート誰が?」
「誰って、みんな持ってるよ」
俺の言葉に全員が首をかしげる。
「そんなすごいチート、私は持っていませんけど」
異世界人ならともかく、アリス、お前が気づかねえのか。
「俺たちは24時間ゲームができる」
俺たちはゲームの世界に生きている。
うっとおしい学校も、仕事も、生理的ログアウトも気にしなくていい。
24時間ゲームの世界にログイン。
遊び放題だ。
「レイさん、それは違います。この世界では24時間プレイできませんよ。石によるFP回復ができない以上、行動は制限されます」
JAOではFPが溜まると行動できなくなる。
石ことヴァリュアブルストーンが使えないこの世界では、溜まったFPは自然回復するしかない。
「冒険に行けなくてもゲームのことは考えられるだろ」
JAOにログインしている時間だけがJAOを遊んでいる時間じゃねえ。
プレイの反省をする。他人の動画を見て研究する。仲間とJAOについてチャットをする。
全部プレイヤーを強くする時間だ。
ずっと攻略について考える生活を送っていれば、ゲームの頃よりもずっと強くなれる。
「それはそうかもしれません。ですが、限界まで狩りに行けない以上、私たちの強さは頭打ちします」
「なるほどな。物資不足か」
「はい。物資をそろえて挑むのはレイドの基本。物資不足を解決できなければレイドには行けません」
ガチャを回せない以上、魔石や金を稼ぐには狩りに行ってドロップアイテムやクエスト報酬をゲットするしかない。
狩りで物資を集めることがFPで制限されている以上、俺たちが強くなるのは限界がある。
アリスの言うことはもっともだ。
だが――、
「物資不足は克服できる」
「えっ、どうやって!?」
「1人1人が集めることができる物資はたかがしれてるな。でも、それが大勢ならどうだ?」
「大勢って……レイドクエストを受けられる人数は24人ですよ」
「たった24人じゃダメだな。トップ冒険者たちを巻き込んで、このレイド対決に協力してもらえば――2倍、いや3倍は物資集めに動員できる!」
ゲームでは、レイドクエストは個人の楽しみだった。
タイムアタックのランカーになるべく、ギルド単位で一丸となって挑む場合もあったが、それでも普通は30~40人程度だった。しかも、貢献度合いはメンバーによってまちまち。
だが、ゲームのことしか考えなくていいこの世界で、たくさんの冒険者が目標に向かって本気で物資を集めたら――前の世界と同じ、いやそれ以上に物資は集まる。
こんな大掛かりなことは前の世界じゃ、絶対できなかっただろうな。
「そんなこと――」
アリスの言葉がそこで詰まった。
アリスは何度も俺たちと一緒に戦っている。
これしきのこと、できると信じてくれているんだ。
そんな俺たちの仲間に声をかける。
「アリス、1つ頼みがある」
「何……ですか……?」
「この1か月、俺たちに協力してほしい」
「私はレイド攻略にまだ反対ですよ……」
「そんなことは構わねえ」
アリスに頭を下げ頼み込む。
「お前のプレイヤーとしての経験を冒険者たちに伝えてほしい。――これが最後の不足問題、経験不足に対する俺の答えだ」
俺とアリス、2人の経験は貴重だ。
レイド未経験の冒険者たちにとっては財産になる。
レイド未経験の冒険者たちが経験者にランクアップしたら――世界はもっと楽しくなる。
「『レイドは難しい、恐ろしい』、そう私は言い続けます。それでもですか?」
アリスが固い顔のまま俺に問う。
何が何でも命を守るというヒーラーとしての使命。
そこを譲るつもりはないみてぇだな。
俺は笑った。
「命は1つしかねえんだ。それくらいでちょうどいい」
情報は力、武器。
どんな厳しい現実でも、教えてくれるのはありがてぇ。
「分かりました。物資集めとレイドの指導は協力します」
「やったぜっ!!」
フェーリッツが両手を上げて叫んだ。
他のメンバーにも笑顔が戻った。
「ただし、本当に行けるかどうかの最終ジャッジを前日に行います。それでもいいというのならですが」
「いいぜ」
「もちろんOKっすよ!」
俺とフェーリッツが同時に了承した。
レイド対決はこれで一歩、いや何十歩も前進した。
後は1か月かけて、世界一のヒーラーからGoサインをもらうだけだ。
次回は10月12日の12時頃に更新の予定です。
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