9-6 7つの不足2
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「アリスがさっき言ってたように、1つ目の不足、DRA不足は俺のチートスキル【移動工房】で解決だ。後の6つの不足について、検討を加えていく」
7つの不足問題。
これらを全て解決することは不可能。
しかし、レイドをクリアましてやタイランに勝つには、これらをある程度クリアするだけの戦略と力が必要だ。
「お兄ちゃん、防御力不足はどうなるの……?」
深刻な面持ちでメマリーが質問する。
メマリーは相手の攻撃を正面から受けるメインタンク。
不安に思うのも当然だろう。
「さっきのおさらいだ。レイドMobは滅人の魔石を武装に組み込んでいるから、基本超火力になる。滅人で火力をかさあげしているってことは、逆に言うと、滅人計算前のATKは低いってことだ。つまり――ブロックに弱ぇ」
滅人の効果は大種族人間の相手にのみ乗る。
しかし、ブロックは武器で相手の攻撃を止める行為。
当然、武器は大種族人間でない。
ブロックの計算には滅人は関与しないのだ。
「じゃあさー、マジックバリアやサンクチュアリも有効ってことじゃん」
これらの魔法はバリアを張る魔法だ。
バリアの防御処理の計算には、ブロックと同じく滅人抜きのATKが用いられる。
「そうだ、ヒナツ。レイドMob相手にはバリアによる減算効果がより大きくなる。火力を高めてバリアを張り続けろ。そうすりゃ即死を防ぐことができる」
バリアのHPとDEFは火力に依存している。
バリアの火力に滅レイドの魔石は関係ない。
それに、課金武器と比べてもワンドやスタッフならそれほど火力負けはしない。
通常武器にだって勝機はある。
「後は単純にモーション避けするのも有効だな。どんな強攻撃でもかわしてしまえばノーダメだ」
「魔法は避けにくいですよ。どうやって対抗するつもりですか?」
いい指摘だ。さすが、アリス。
単体魔法にはホーミングが付いているものも多いし、範囲魔法はそもそも避けにくい。
「範囲魔法はサンクできっちり防御。単体魔法は隠密スキルで避けるか、リフレクトミラーで反射しろ。それに、魔法攻撃は火力が低いだろ。いざとなったら防御全振りの武器でしのげ」
JAOというゲームでは物理攻撃に比べると、魔法攻撃のATKは低くなるように設定されているのだ。
魔法にまで過剰にビビる必要はない。
「防御力不足に対する検討まとめだ。モーション避けやブロックでを駆使し、なるべくダメージを受けないように戦う。これが大前提。いざという時に備えて、火力を高めた防御魔法で軽減する。――これが俺の出した、防御力不足に対する解答だ」
「全部タンクの基本っすね」
「フェーリッツの言う通りだな。だが、極限の火力相手に、これらをきっちり守って戦うのはすげぇ難しい。タンクのプレイヤースキルをしっかり高めること、武器のレシピを妥協しないこと。この2つがこれからの目標だ」
次の話題に移る。
「情報不足と命不足については正直どうしようもねえ。――だけどよぅ、そいつはタイランだって一緒だろ」
「ああっ!」
アリスが口に手を当て仰天した。
頭が良く、色々考えてゲームできるアリスには珍しい見落とし。
いや、違うな。
それだけ、ゲームからやってきたプレイヤーにとって、ゲームの常識ってのは大きな縛りなんだ。
「同条件である以上、無いものねだりをしたって始まらねえ」
タイランだって、フェーリッツたちと同じく、この世界の住人だ。
情報と命をふんだんに使ったプレイはできない。
それでも特選騎士団は結果を出している。
俺たちだけが「できません」なんて、かっこ悪ぃこと言ってられっかよ。
「でも、同条件はたった2つ。やっぱり私たちの不利は否めませんよ……」
「違うな、アリス。同条件はあと1個ある」
「あと1つ? 何ですか?」
「攻撃力不足だ」
俺の言葉にアリスが猛反論する。
「レイさん、そんなの常識的にありえませんよ! 攻撃力不足って……だってだって、それは、1番私たちと差がある不足問題じゃないですか!」
アリスがこんなにも強く主張するには理由がある。
だけど、ゲームはデータが全て。
「アリス、レイドランキングを見ろ」
「7月レイドの1位は特選騎士団。7月中旬なのにまだ1回しか挑戦していないんですね、もったいない」
俺に言われてアリスはレイドランキングを調べる。
「……ええっ!? クリアタイム11時間44分!? いくらなんでも遅すぎでしょ!」
アリスが驚くのも無理はねえ。
ゲームの頃はクエストの内容によってもばらばらだったとはいえ、どれだけ時間がかかるクエストでもクリアタイムは8時間を切っていた。
「同感だな。FP回復の時間を考えても、これは遅すぎる。道中何があったかまでは分かんねーけどさ、攻撃力が十分にあったら、こんなにもちんたらクリアしねえだろ」
「でも、何で!? 課金武器は滅レイドが内蔵されているものが多いから、火力は圧倒的に高いはずなのに……?」
「決まってんだろ。課金武器しか使っていねえからだ」
ここで、メマリーが質問する。
「課金武器は通常武器よりも強いんでしょ。課金武器だけでごり押しできないの?」
「無理だ。種類が少なすぎる」
「どういうこと?」
「課金武器の種類は毎月7種類って決まっている。そのうちの3種類はUランク。攻略のメインはHU課金武器4本だけだ。レイドDには、雑魚非レイドMobが4種類、雑魚レイドMob6種類、そして3体のボスが出てくる。7種類だけで全部何とかできると思うか?」
「それは厳しそう……」
「しかも、課金武器ってのは内蔵魔石が固定されているものもある。そういうやつは、どうしても死に魔石が出てくる。何でもできるほど万能じゃねーんだよ」
例えば、村雨という課金武器には水魔石と耐水の魔石がデフォルトで内蔵されている。
水攻撃をやってくるのに、水属性が弱点の敵なんてかなりのレアケース。いや、普通は水攻撃をやって来る敵は水属性に強いものが多い。
どちらも活かせるなんて、美味しい話はそうない。
「それに比べて通常武器は99種類。ブロックに強い武器、叩の火力が高い武器、斬の火力が高い武器、素早く攻撃できる武器、リーチで圧倒できる武器、相手の動きを止める武器……。たくさん種類があるから、いろいろ組み合わせることができる。内蔵魔石のことも考えれば、可能性は無限大だ」
昔、レイドクエストが実装されたとき、「課金武器は最強だから通常武器なんていらない」と言い放った超廃プレイヤーの集団がいた。
だが、そいつらはレイド対決に惨敗した。
課金武器だけでは刻一刻と変わる戦局に対応できなかった。
課金武器はしょせん運営から与えられたもの。役割が決まっている。
より可能性を広げたければ、通常武器を組み合わせることが必要なのだ。
「課金武器が汎用性に優れていないことは私も知っています。ただし、それはエクスカリバーを除いての話です。エクスカリバーは課金武器の中でも規格外。その月のレシピ次第では、全員エクスカリバーで挑めば通常武器を持たなくてもレイドをクリアできることもありうると思います」
汎用性が高いレシピになっている場合、エクスカリバーだけで何でもできることもある。
魔法も使用可能だから、杖すらいらない。
アリスの言葉にフェーリッツが笑う。
「ハハッ、そいつの心配はいらねーよ!」
「どういうことですか?」
「エクスカリバー使えるのは1人だけっすね」
「どういうことですか?」
アリスが首をかしげる。
俺にとっても、フェーリッツの自信満々な態度は謎だ。
「エクスカリバーはボンボン王子が独り占めしているからね。タイラン含めて他の団員には触らせもしないらしいっすよ。『王子のわがままがきつい』ってさー、俺のダチの特選騎士団員がよくぼやいてるわけ」
そういや、ボンボンはJAOのクエストでもレアアイテムを独り占めしようとしていたな。
エクスカリバーを独占しようとするのは当然か。
「しかもさぁー、ここだけの話、王子って超下手くそらしくてー、まともに連携どころか基本的な立ち回りもできないんだってさ。まともに避けることもできないのに、すぐに前に出ようとするとか」
「うわぁ……。初めてタイランたちがかわいそうに思えました」
王子のダメダメさに、アリスも引いている。
そんな下手くそがエクスカリバーを持っても何もできるわけがねえ。
文字通り宝の持ち腐れだ。
「そのくせ自分が目立たなくちゃ、すぐ癇癪を起こしてぐずるから、まともに戦えないって話だぜ」
見たまんまの鼻垂れガキんちょじゃねーか。
キッズプレイヤーのほうがずっとまともだな。
「エクスカリバーを使わせないなんて、さすが異世界……。私たちの常識を軽く超えますね」
ゲームの常識を超えたボンボンの愚行に、アリスも呆れ果てている。
「だな。でも、良かったじゃねーか。俺たちの常識を超えた有利な話が出てきて」
「残念ですが、私たちがレイドをクリアできる理由にはなりません。今度の挑戦はそれだけ難しいんです」
アリスの言葉は正しい。
ここは異世界。
ゲームの頃とは比べ物にならないくらいのハードモード。
だけど、ハードモードにはハードモードの旨味ってもんがある。
「アリス、ゲームの常識は大切だ。忘れちゃいけねえ。でも、ゲームのときにはなかったこともある。それも忘れちゃいけねえんだ」
「まぁ、その要素も検討する必要がありますよね……」
俺たちには俺たちにしかできないことがある。
JAOとは違う、俺たちにしかできない冒険をやってやる!
次回は10月5日の12時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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