1-31 エストックのレシピ
エストックの解説は難しいです。読み飛ばしてもらっても構いません。
ポリゴンが雪のようにキラキラ光って、ひらひら舞い散る。何万回もJAOで見た光景だ。だが、今日はいつもよりずっときれいに見える。いや、JAOという忙しすぎるゲームの中では気づいていなかったのだろう。世界にはこんなに美しいものがあるということに。
静かにチャーリー撃破の達成感にひたりながら、そんな光景をぼうっと見つめていると、サエラが話しかけてきた。
「あ、あり、ヒック、りがとうござい……ます……グスン。本当に……ありがとう……グスン――」
涙を流しながら、サエラは俺に礼を言っている。でも、感謝感激のあまり言葉になっていない。
「レ……イさん……が、ヒック、頑張って、ヒック、くれなかったら……」
「頑張ってまともな会話にしてくれ」
「ずびばぜん~~。がぶばっでぼばなぢぢまず~」
まともな会話どころか、もはや言葉にすらなってねえぞ。
「ま、こいつが一番頑張ったんじゃねーの」
落ちているピートハイプラスターを拾い上げて、インベントリを開く。ピートハイプラスターのDRAは6にまで下がっていた。
げぇ~、マジかよ……。あと1回スキルを使われたらDRAがヤバいことになると俺は予想していた。でも実際は、あと1回通常攻撃をするだけで100%折れるところまで減っていたのか。頑張ったどころじゃねえぞ、こいつは。
やっぱ、先祖代々の名剣は伊達じゃねえ。俺もいつかは、こんな武器を作ってみてぇなぁ……。
研ぎを行った後、取引要請をとばしてピートハイプラスターをサエラに返した。これでようやく今回のクエストクリアだ。
サエラはピートハイプラスターとの再会をひとしきり喜んだ後、俺に質問をしてきた。
「レイさんのエストックにも伝説があるんですか~? 何千万とかいうゴブリンを倒したとか」
「微妙な伝説だな……。っていうか、今作ったばっかのエストックに伝説はねえだろ」
「じゃあ、今からゴブリンをいっぱい倒して伝説を作りましょう~。早速、ククリクの森へレッツゴ~」
ここにもゴブリンがたくさんいるのを、もう忘れちまったのか。さっきまで死闘を繰り広げていたチャーリーが草葉の陰から泣いているぞ。
「でも、本当に伝説とかないんですか~? 10万ダメージとかありえないですよ~」
「バカか。ちっとは頭使って考えろ。魔石使えばATKなんていくらでも上がるだろうが」
「うぅ~、そんなことくらい分かっていますよ~。火力重視のピーハイでも平均1万くらいですよ。どんなレシピで戦っていたんですか?」
サエラにせがまれたので、レシピを教えることにした。
エストックのレシピはこうだ。
種類:Uエストック
内蔵魔石:威力の魔石SS×4
回避の魔石SS×3
防御の魔石SS×2
耐久の魔石SS×1
命中の魔石SS×1
ライトニングスタブの魔石R×1
外付魔石:威力の魔石SS×6
土の魔石S×1
今回の武器のコンセプトは先手必勝だ。俺が殺られる前に、ピートハイプラスターが折れる前に、チャーリーを倒す。
エストックとは刺突専用の刀剣だ。
WDLが小さく連続攻撃に向いているうえ、ATKが上がりやすいので非常に攻撃的といえる。しかも、RAN(武器の長さ)が110cmと他の刺突用刀剣よりも少し長い。
チャーリーの持つブロードソードよりも40cm長く、相手に攻撃される前に攻撃を仕掛けることができる。しかも、刺突なので相手に向かって最短距離で攻撃が届く。
先手必勝というコンセプトを重視して、武器はエストックを選択。
SS魔石(命中・回避・防御)は1個でそれぞれの基礎ステが2300上昇する。
チャーリーのHITは3000ぐらいと予想した。回避の魔石SSは2個あれば十分ともいえる。
しかし、マインドアイを使われたらHITが1.5倍、つまり4500になる。安定して戦おうとするのなら、2個ではDOGが不十分だ。
だから回避SSは3個組み込むことにした。
チャーリーのDOGはあまり高くなさそうなので、命中SSは1個でも大丈夫だと判断した。
エストックは素DRAが1800しかない。耐久の魔石SS1個は内蔵しないと折れてしまう。
防御の魔石SSは2個しか組み入れなかった。
スキルなどの大きい攻撃をもらったら即死する可能性はあるが、超速攻用のレシピにして、チャーリーの攻撃が当たる前に倒してしまうほうがかえって安全だと考えた。
それに、DEFの上げすぎでピートハイプラスターが折れても困るしな。
ライトニングスタブというスキルは、光速の突きによる攻撃を行うアクティブスキルだ。
発生が非常に早く、敵の攻撃に先んじて攻撃を行うことができる。また、強烈なディレイを与えることができるうえ、猛スピードで突撃するので敵を吹き飛ばすこともできる。
ライトニングスタブを当てることで、スキルの攻撃モーションを潰して攻撃をキャンセルさせることができる。そのために、俺はライトニングスタブを組み入れた。
結果はラグナエンドを潰すことができた。俺の采配が見事にハマった。
土の魔石を1つだけ外付けすることにした。属性魔石はATKと追加ディレイを上げる効果がある。単純に威力SSを外付けするよりもATKが上がるのだ。
属性魔石を組み込むと目くらましのエフェクトが発生する。土の魔石なら砂塵だ。チャーリーに反撃の余地を与えにくくするのもいい。
属性魔石は効果が重複しないので1個以上は組み込んではいけない。
ちなみに、ランクはSで十分。属性魔石はSでもSSでも全く効果は変わらない。
後は威力SSを全填めだ。これで平均98,630ダメージを叩き出すことができる。下手なHU武器さえも上回る火力だ。
とはいえ、ここまで威力重視のレシピには普通できない。こんなレシピでボスに挑んでも、そのうち攻撃が当たってあっさり返り討ちされてしまうだろう。サエラがHPを200万ほど削ってくれたおかげだ。
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