9-2 フェーリッツの挑戦
「『カキン武器があれば』って、キミはカキン武器を作れないんでしょ。レイドなんて無理無理無理無理無理~~」
タイランがまたなんか言ってやがる。
「そんなにカキン武器を使いたかったら、お願いでもするかい? 『タイラン様ぁ~、カキン武器を売ってくださぁ~い』ってね」
売ってくれと頼んだところで、売ってくれるタマじゃねーだろ。
実績あるしな。
「そんなにレイドDに行きたかったら、このタイランが率いる特選騎士団2番隊に入れてやろうか~い?」
「ヤダ! ざこはレイドにくんな!」
「王子、彼は雑魚ではありません。彼は待望の研ぎ要員。カキン武器の奴隷です」
「どういうこと?」
「彼には全員分のカキン武器を休みなく研いでもらいます」
「うわぁー、かわいそー」
「それでも、きっとこいつは尻尾振って喜びますよ。なにせ彼は、レイドDに行きたくて、行きたくて、行きたくてぇ~、仕方がないのです。カキン武器が無ければ、レイドDを攻略することは不可能。通常武器しか作れない超雑魚プレイヤーにとっては、十分すぎる名誉」
「えー、カキンぶきもってないのー。ざこすぎ!」
「カキン武器を持っている、我々が最強なのです」
「そうだ! かきんぶきさいきょーのエクスカリバーもってる、ぼくちんはさいきょー!」
「イエス! ウィアー、最強!」
「さいきょー! さいきょー!」
「ボンボンちゃんや、そのへんにせんか……」
盛り上がる2人を王様が止めようとする。
だけど、腰が引けている。
「この者たちは魔神ルシファーを倒して世界を救ったのじゃ。これ以上の無礼は……」
王様の言葉をタイランがさえぎる。
「王様、ボンボン王子は特選騎士団を率いてドラゴンの挑戦をはねのけました」
内容は分からねえが、きっと今月のレイドクエストのことだ。
「そうだよ、えっへん!」
「しかし……じゃのぅ……。さすがにルシファーのほうが脅威であったわけじゃし……」
「脅威? 我々の武器のほうが強いです。武器が強いということは、レイドDのほうが難しい。つまり脅威だったということでございます」
「そうだよ、えっへん!」
「……それも……そうか……」
王様ぁ、タイランの屁理屈をあっさり受け入れるんじゃねーよ!
「お兄ちゃんの武器のほうが強いもん!」
暴言に暴言を重ねるタイランと王子に、とうとうメマリーの怒りが爆発した。
「お兄ちゃんはいろんなことを知ってるし、いっぱいいっぱい考えてる。お兄ちゃんの武器はみんなを守ってきた。タイランの武器になんか負けるわけないもん!」
メマリーは移動工房の店員であり、俺の妹分だ。
俺が馬鹿にされ我慢できなくなったのだろう。
だが――。
「メマリー、それは違うぞ」
タイランに喧嘩を売ってくれたことはとても嬉しい。
だけど、武器屋の店員としてメマリーの考えは見過ごせねえな。
「『誰々が作った武器は弱い、誰々が作った武器は強い』――そんな考えで武器の強さは評価できねえな」
タイラン商会で売っている粗悪品ならともかく、課金武器は適正レアリティの魔石が12個フルで組み込まれている。性能が劣っているってことはねえ。
「大事なことは『その武器で何ができるか』だ」
課金武器にはレイド特効が付いている。
レイドDを攻略するには課金武器は極めて有効だ。
だが、通常のECを攻略するときには、レイド特効なんて意味がない。
ECの攻略には課金武器はベストだとは限らない。
「俺たち移動工房は、最強武器とか、どっちのほうが強いとか、そんなちんけなことにはこだわらねえ。何ができるかに徹底的に向き合い、冒険者一人一人の可能性を広げる――そんな武器屋を目指す」
俺の話をメマリーが食い入るように聞いている。
その瞳はきらきらと輝いている。
やっぱり、こいつはいい店員だ。
「一人一人の可能性を広げるだぁ? はっ、そんなのは弱者の屁理屈さ~」
タイランがまた煽ってきやがった。
「いいかい、カキン武器はお前らの武器よりも強い。カキン武器があるから、レイドにも行ける。カキン武器があるから、すごいアイテムも手に入る。カキン武器があるから、俺TUEEEもできるのさ!」
ボンボンもガキ臭ぇ煽りを再開する。
「そうだぞ! カキンぶきをつかうぼくちん、さいきょー!」
馬鹿騒ぎに思わず溜息が出る。
「お前らこそ、課金武器の奴隷だな」
俺の言葉に2人が凍りついた。
「『課金武器があるから』、『課金武器があるから』――お前らそれしか言えねーのか」
「負け惜しみを……! 通常武器よりもカキン武器は強い!」
「ああ。課金武器は強すぎる。――けど、何でもできるわけじゃねえ」
魔石は12個しか組み込めない。
何でもできる武器なんて、あるわけない。
「そのことを忘れて、課金武器を絶対視し課金武器に頼りっきり。結果、課金武器が苦手なことをやろうとも考えようともしない。――昔レイドクエストが実装された当初、お前らみたいなやつが大勢いた。だけど、そいつらは結局通常武器のありがたみを思い知らされたんだ」
俺の大好きなJAOは無限の可能性があるゲームだ。
課金武器だけ振るって俺TUEEEするだけのゲームだったら、とっくに引退してるっつーの!
「特選騎士団へのお誘い、そういや返事していなかったな」
タイランに向かって、大剣ツヴァイハンダーを突き出す。
「俺はお前らみてぇな課金武器の奴隷なんかじゃねえ――楽しくないゲームなんて、こっちから願い下げだ!」
タイランがニィッと白い歯を見せて尋ねる。
「それじゃあ、移動工房はレイドに挑戦しない。いや、できないってことで、ファイナルアンサー?」
「今はな」
残念ながら課金武器を持っていない以上、レイドには挑戦できない。
「だが、いつか俺たちはレイドに挑戦してみせる。それだけじゃねえ、この世界の冒険者たちをレイドに挑戦させてみせる」
「はーっはっはっはっはぁ~。その心意気自体は素晴らしい! でもー、本当にできるのかい?」
「できる。タイラン商会を追い込んで、課金武器を販売させることでな――!」
移動工房はタイラン商会を追い込み、タイラン商会による武器販売の独占を崩すことに成功した。
それと何も変わらない。
「用は済んだ。俺は帰る」
そう言って、王宮を出ようと歩き出す。
「待ってくれ!」
突然呼ばれ、思わず振り返る。
俺を後ろから呼び止めたのはフェーリッツだった。
「ずっとずっと……レイさんの武器を見たときから言いたかったんだ」
いつになく真剣な面。
そしてフェーリッツの口から、俺の常識を超えた言葉が飛び出した。
「俺はレイドクエストをクリアしたい――レイさんの武器で!!」
えっ……!?
そんなことできるわけ……。
「うっひゃっひゃっひゃぁっ~~~!! レイドクエストを通常(つぅ~じょう)武器だけでクリアぁ~!? あひあひあっっひぃぃ~~、ダメぇ~ダメダメぇ~~! 本当に笑わせてくれる! 無知って恐ろすぃぃ~~」
タイランは腹を抱えて大笑い。
「あのねぇー、レイドDはねぇー、ただのECとは違うんだよぉー。レイ=サウス、このままじゃ馬鹿が暴走して死んじゃうよぉー。かっわいそう~、止めてあげなよぉ~」
タイランの煽りに反応したのはアリスだった。
「残念ですが、タイランの言葉は本当です」
アリスは元の世界から来た転生者。しかもゲーマー。
JAOというゲームをよく知っている。
「レイドボスは通常のダンジョンボスとは別物。課金武器無しでレイドはクリアできない。――これは常識です」
俺も同意見だ。
課金武器無しでレイドクエストをクリアしようとする試みは何度もあった。
だが、結果は全て失敗に終わっている。
レイドDは難易度も仕様も、ただのECとは全く違う。アリスの言う通り、まさしく別物なのだ。
ましてや、ここはヴァリュアブルストーンが使えない異世界。コンティニューすらできないベリーハードモード。
「常識が何さ!」
タイランに嗤われても、アリスに忠告されても、フェーリッツの瞳に宿った炎は消えていない。フェーリッツの目は誰よりも赤く輝いている。
「俺は――レイさんと、レイさんの作った武器を信じ抜く!」
フェーリッツの熱い言葉に、思わず言葉が漏れる。
「自分の武器を信じ抜くか……」
昔、レイドがJAOに実装されたとき、とあるトッププレイヤーに言われたことがある。
『君が武器屋を目指すというのなら、自分の武器を信じ抜きなさい。どんな困難な状況に陥っても、武器はきっと応えてくれます』
俺はこの言葉を胸に刻みJAOを続けてきた。
あの言葉があったから、異世界に転生しても折れることなくやってこれた。
これからだって――。
「お客さんがそこまで言ってくれるんだ。これに応えなきゃ武器屋失格だな」
俺は武器屋だ。
武器を信じる気持ちは、客に負けたくねえ。
「フェーリッツ!」
この世界で一番の冒険野郎に一言。
「お前の挑戦、この武器屋レイ=サウスが受けて立ってやらぁ!」
腹は決まった。
俺の作った通常武器で、レイドクエストに挑戦する。
次回は9月7日の12時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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