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9-1 課金武器

 俺たちは『魔神の胎動(3rdアニバーサリーver)』に挑み、そしてルシファーを撃破した。

 現在、俺たちは王宮に呼ばれている。

 ツフユが俺を救世主に祭り上げようとするトラブルもあったが、スクルドのおかげでなんとか回避。

 玉座に座る王様が俺たちにねぎらいの言葉をかける。


「これからも世界の危機が起きたら、よろしく頼むぞ」


 ルシファー討伐の報酬と称号ももらったことだし、王様との謁見もそろそろお開きだな。



「コングラッチュレイショォォォンンッ!!」



 突然後ろの扉が開いた。

 振り返らなくても分かる。

 キザで嫌味ったらしい、芝居がかかったこの声……。


「魔神を倒した英雄に、わたくし世界一の武器屋タイランが祝辞を述べに参上しました。皆様、盛大な拍手を!!」


 タイランの挨拶を皮切りに、新聞記者たちが一斉に拍手をしながらスクリーンショットを撮影する。

 ツフユも苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている。

 その気持ち、分かる。



 招かれざる客はもう1人居た。


「タイランばっかりずるい! ぼくちんにもはくしゅしろ~~!」


 大人なのにガキ丸出しのしゃべり方。

 はぁ……。ボンボン王子までいるのかよ……。


 ボンボンは、フェクレバン王国の王子のNPC。

 レアアイテム欲しさにプレイヤーに無理難題を吹っかけてくる、クソお坊ちゃまキャラだ。

 この世界では特選騎士団総隊長でもある。

 つまり、タイラン一派だ。


「うむ! くるしゅーない!」


 ボンボンが胸を張ると垂れている鼻水がぷらぷら揺れる。



「王様、もう帰っていいっすか?」


「そぉぉぉんなつれないことを言うなよぉ、レイ=サウスぅぅ! 武器屋どうし仲良くしようじゃないか!」


 タイランが馴れ馴れしく肩に手を置いてくる。

 タイランの長い髪が頬に当たってきめぇ。


「ぼくちんをむしして、かってにかえるなー!」


「まぁ、ボンボンもこう言うておるのじゃ、もう少し相手するがよい」


 王様に引き留められ、しぶしぶ相手することにした。

 あ~、嫌な予感がする~。



「おい、レイ=サウス! おまえ、せかいいちのぶきやなんだってなー?」


 悪い予感的中。ボンボンに絡まれてしまった。


「まぁな。そこの武器屋の真似事をしているやつなんかと違って、本物の武器を作るぜ」


 タイランが作っているのは相変わらず粗悪品ばかり。

 こんなやつがのさばっているようじゃ、俺の世界一は揺るがねーな。


「じゃあ、【さいきょーぶき】をつくれ!」


「誰がタダで――」


「レイ=サウスよぉ~。失敗材料分も含めて、代金はわしが払うからぁ~。かわいいボンボンの頼みじゃ、作ってやってくれぇ~」


 玉座から飛び下りて、俺に泣きつく王様。

 王様、過保護すぎんだろー!

 そんなんだから、わがままに育つんだ。


「そこまで頼まれちゃあ、分かりました。王子、最強の武器ってどういう意味ですか? 攻撃力が高いとか、安全に戦えるとか、どういうコンセプトで……」


「ぶきやなのに、バッカだなぁー。【さいきょーぶき】は、【さいきょーぶき】だろ!」


 答えになってねー。




 結局与えられた注文は【最強武器】のみ。


 JAOでは自由に武器種を選択し、そのレシピを決めることができる。

 プレイヤーが作成する武器に最強なんてない。


 それでも理不尽を押し殺し、考え、1つの武器にたどり着いた。


「できました」


 最強というのなら、パワーがなくちゃ話にならない。

 現在作成可能な武器は100種類。

 その中で桁外れの性能を誇る4種類の武器、通称【四天王】。

 四天王の中で最も破壊力のある武器――。


「ツヴァイハンダーです。受け取ってください」


 火力はもちろん、命中、防御性能、DRA、全てに気を配ったレシピだ。当然ランクはHU。

 アタッカーならのどから手が出るほど欲しいはず……!


 王子は何も言わずにツヴァイを受け取り、そして――






「ゴミじゃーん」






 いらないおもちゃのように、ポイッと投げ捨てた。


 床に寂しそうに転がっている大剣が痛々しい。

 マグマのような怒りが腹の底から込み上げてくる。


「プ……クックックッ……」


 タイランの笑いを押し殺す声が、さらに怒りのボルテージを引き上げる。

 俺の自信作がゴミだってぇぇぇぇぇ!!

 このクソ野郎どもめ――。


 落ち着け!

 そうやって感情的になるのは俺の悪い癖だ。



 放置されたツヴァイを拾う。

 捨てられたアイテムは一定時間経つと消滅する。

 このツヴァイはゴミなんかじゃねえ。このまま捨てられるには惜しすぎる。


 怒りを胸の奥にしまい、王子に頭を下げる。


「王子の手持ちの武器を見せてくれませんか? それを参考に、必ず最強の武器を作ってみせます!」


 必死に頭を下げる俺をタイランが嗤う。


「【通常武器】しか作れないチミが、【最強武器】を作れるわけ、ナァーーッシング!」


 えっ、【通常武器】…………!?

 その用語はこの世界には存在しないはず。


「王子、ご披露ください。わたくしの最強武器――」


 王子の右手に1本の剣が現れる。

 その剣身は黄金でできており、その中心に真っ赤で大きなルビーが填められている。

 天使の翼をモチーフにした水晶のガードはデカすぎて、持つのに邪魔になるだろう。

 常識的に考えて、とてもじゃないが実戦で使えなさそうなフォルム。ド派手で悪趣味なだけの剣。


 王子が天に剣を掲げ、タイランが高らかにその名を呼んだ。






「エクスカリバァァァッ!!!」






 キンキラキンに輝く宝剣を見て、思わず呟く。


「ははっ……。そりゃそうだ……」


 怒りも全て吹き飛んだ。

 だって――。






「エクスカリバーは【さいきょーぶき】。ほかはぜんぶゴミ!」






 ゲームでは普通、最適解というものが存在する。

 だがJAOではそんなものは存在しないといわれている。

 魔石だけで現在100種類、武器は()()()()()。この組み合わせ方は天文学的数字になるそうだ。

 それに加えてプレイヤー個々人のプレイスタイルもある。プレイヤーの数だけ武器があるのだ。

 最適解──最強の武器を決めることは非常に難しい。


 だが、それはあくまで建前。エクスカリバーを除いた話。

 JAOプレイヤーならみんな、エクスカリバーが最強武器だと知っている。鼻垂れなんかに言われるまでもねえ。



「なぁ、タイラン。1つ答えてくれ……」


「うん、う~ん! なぁーんでも聞いてくれたまえ!」


「そのエクスカリバー……本当にお前が作ったのか……?」


「イエス、オフコース」


 俺の質問にタイランの口がニカッと開く。



「最強武器エクスカリバーを作ったのは、このタイラン商会マスターこと、タイランでぇーーーーーすっ!!」



 タイランは両手を広げ新聞記者にここぞとばかりアピール。それに合わせて、新聞記者たちが一斉にスクリーンショットを撮る。



 タイランの言葉を聞いて、俺の中に1つの感情が芽生えた。

 それをこらえるべく、うつむき唇をぎゅっと噛む。



「フェクレバンNewsのエルテアです。レイさん、質問よろしいでしょうか?」


「移動工房御用達の新聞記者エルテアか……まーた、移動工房をアクロバティック擁護するのかい?」


「タイランさんではなく、レイ=サウスさんに質問しています。レイさんはエクスカリバーを作る予定はないのですか?」


「グッッッド! 良い質問じゃないか! 教えてやってくれ。レイ=サウス、キミはエクスカリバーを作る予定――いや、そもそも作ることができるのかい?」


 皆の視線が一斉に俺を刺す。

 この様子は配信されている。

 ごまかしは効きそうにもねえな。


 なるべく表情が悟られないよう、うつむいたまま質問に答える。


「不可能だ。エクスカリバーはどんなにレベルが高い鍛冶屋でも作れない。だから、俺は諦めていた――」


 俺の一言でしんと静まり返った。

 皆が落胆しているのが分かる。




「でも!」




 もう限界だ。

 俺はゲーマー。自分の気持ちに嘘はつけねえ!






「【課金武器】がこの世界でも使えるなんてよおおおおお!!」






 JAOには武器は全125種類あるが、そのうちの100種類が【通常武器】だ。

 俺が製造できる武器はもちろん、通常武器のみ。


 後の25種類は【課金武器】というカテゴリーの武器だ。

 課金武器は、有償ガチャもしくは武器確定ガチャを回すことでしか手に入れることができない。当然鍛冶スキルで製造不可能だ。

 その分、課金武器の性能は通常武器よりも高い。


 特にエクスカリバーは課金武器の看板アイテム。

 バランスぶっ壊れまくりの超反則チート武器。



 堰を切ったように俺は喜びを爆発させる。


「なぁんだよ! 課金武器を作れるんだったら、さっさと教えろや! タイランも人が悪ぃぜ。今日みたいに自慢してくれりゃあ、レイドを諦めることなんてなかったのによぉ!」


 エルテアが質問する。


「レイドとは何ですか?」


「ああ。レイドクエストってのは、毎月行われる限定クエストだ。クエスト内容はレイドダンジョンの攻略だ」


「なるほどね」


「レイドDは高難易度過ぎて、俺も正直諦めていた。だけど、課金武器があれば挑戦できる」


 課金武器はレイド特効が付いている。

 課金武器が無ければスタートラインにすら立てない。



「レイドDに挑戦できれば――世界はもっと楽しくなる!」



 俺は課金武器が嫌いだった。


 お目当ての課金武器をゲットするには、何万円もつぎ込みガチャをぶん回すか、誰かが運よく手にした物に数百Mマネという大金を払って買うしかなかった。

 プレイヤーの知恵や腕よりも金で強さが決まるのが嫌だった。


 それに、課金武器のレシピは運営によって決められている。

 JAOはプレイヤーの創意工夫で自由に遊べるゲーム。

 それなのに、運営に遊び方を強制されているようで嫌だった。



 前の世界では、ギルメンに俺の腕と戦略眼を見込まれ課金武器を特別に融通してもらっていた。

 もちろん、すごく感謝はしていたけれど、そのありがたみ――多くの人に支えられている今はもっと分かる。


 俺は課金武器をもう否定しねえ。

 課金武器を使って、俺はこの世界ゲームを遊びつくす!

次回は8月31日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




こちらも読んでいただいたら嬉しいです。


【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~


本作の目次上部にあるJewel&Arms Onlineシリーズという文字をクリックしていただければ、飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n6829g

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