8-34 ナンバーワンを決める戦い7
前回は評価をいただきました。ありがとうございます。
ルシファー戦もまだまだ続きます。これからも応援よろしくお願いします。
(注)次回は7月13日の12時頃に更新の予定です。
タンクたちが崩れてから、約1分が経過。
俺たち後衛陣も戦線を押し上げて戦っている。
「……調子に乗るな」
ルシファーの頭上に怒りマークのアイコンが出現する。
相手を挑発状態にして強制的にタゲを取るスキル、プロボックだ。
スクルドはタンクのロールに設定している。今まではプロボックで強制的にルシファーのタゲを固定できていた。
問題はここからだ。
スクルドの挑発スキルはこれで打ち止め。
タンク陣が挑発スキルを使用可能になるまで後30秒。その間ルシファーの猛攻を耐えなければならない。
ところがだ、ルシファーのヘイトはおそらく守護霊セーラと守護霊エリノーラに向いている。
マナストリームやスターダストシャワーといった範囲魔法を撃ちこまれ、守護霊たちが回復魔法を考えもなしに使ってしまったからだ。
高HPのセーラはともかく、エリノーラの耐久力は極めて低い。
何とかこの30秒を無事に凌ぎてぇ。
「ちょこざいな……」
空中からルシファーが俺たちを見下ろす。
ルシファーの足元には光り輝く魔法陣。
「止まれ、Aパラライズ!」
Aパラライズは半径20m内に居る者全員を麻痺にする魔法だ。
俺とサエラはハイドでこれを回避。スクルドとメマリー、フェーリッツ、エリノーラは麻痺にかからなかった。
だが、ヒナツとアリス、セーラはかかってしまった。
麻痺は深刻な状態異常だが、今むやみに回復魔法キュアコンディションで全員の麻痺を解除するのは下策。
ヘイト管理のことを考えると、少しずつ解除していけばいい。
「メマリー、フェーリッツ、スクルド、囲むぞ!」
プロボックの効果はもう切れている。
だが、ヘイトがヒーラー守護霊たちに向こうとも、ルシファーを囲んでしまえば物理的に手を出すのは難しくなる。
タンク陣が挑発スキルを使用可能になるまで後20秒。
そんなの、あっという間だ!
「我の羽は神の翼。誰も触れられぬ――ジャンプ!」
ルシファーは白き翼を大きく羽ばたかせ、宙に舞い上がった。
「くそっ!」
俺たちが一斉に集まったそのタイミングで、ルシファーは空中で縦に一回転。そして、メマリーとフェーリッツを続けざまに攻撃。
メマリーとフェーリッツの頭上にサングラスのアイコンが発生。
暗闇の状態異常だ。
暗闇になると完全に視界が奪われる。
当然だが、暗闇になったら満足に戦えねえ。
「世界の危機に、予言の聖女エリノーラ見参で~~す!」
ワンドを手にしたエリノーラがこちらに走り寄ってきた。
バカ! 何、来てんだよ!
ルシファーがエリノーラの方に向き直った。
今、エリノーラはさっきの回復魔法連打でルシファーのヘイトを集めている。
高いヘイト値を持つ相手がわざわざやって来たのだ。
ルシファーがエリノーラをしとめたいと考えるのは当然。
「ヒール!」
エリノーラが回復魔法を発射。
「ジャンプ!」
それと同時に、ルシファーが飛ぶ。
「まずは1人」
その時、ルシファーから金色のオーラが放たれた。
超ATKの3連撃。最強アクティブスキル、
「ラグナエンド!」
狙いはもちろん、エリノーラだ。
「させるかあああっ! ウエポンブレイク!」
ガキキキンッッ!
金属と金属がぶつかり、赤い火花が弾けた。
「残念だったな――ブレイク成功だ」
よっしゃあ! ルシファーのラグナエンドを止めてやったぜ。
俺の持つソードブレイカーはブレイク専門の短剣だ。
しかも、俺のdexはカンストしている。ルシファーのdexじゃ、話にならねえ。
たとえラグナエンドが最強攻撃であっても、俺の武器はそれをも止める。
「無駄なあがきだ。我の一撃を止めたくらいでいい気になるな。1撃でしとめられなければ、2撃3撃と繰り出すまで」
ルシファーの言う通りだ。
タンクが機能していない現状、俺たちは後手後手になっている。
ヒーラーやタンクの状態異常を少しずつ切っていったとしても、ルシファーの攻めが激しすぎて回復が間に合わなくなるだろう。
ルシファーを追い詰める、あと一押しが欲しい!
「レイ君、今助けるね」
サエラの手にはロッド。杖カテゴリーの武器だ。
杖を装備していれば魔法が使用できる。
逆境を立て直すには魔法が一番。
サエラの選択は一般的には正しい。
でも、それじゃあこいつには勝てねえんだよ!
「サエラ、ピーハイを抜け!」
回復魔法は崩れた状況を立て直すのには必須だ。
しかし、ヘイト値が上がりすぎる。
ヘイトが上がればタゲはヒーラーに向く。
ヒーラーではクラウソラスの超火力に耐えられない。
結果、ますますピンチが拡大する。
だが剣を使えば、相手の攻撃をブロックできるし、接近戦で相手の体勢を崩すこともできる。
つまり、安定して戦う――いや、ピンチを打開することができるのだ。
「ダメよ。その剣は絶望を払う剣。使う相手を間違えないで」
そう言ったのは、なんとスクルドだった。
「今はその剣を使う局面じゃない。大事な場面まで取っておくのよ」
確かに、スクルドの言うことも一理ある。
ピーハイには耐久の魔石が内蔵されていない。
考えなしにピーハイで戦うと、あっという間にDRAが無くなってしまう。
そうなれば最後、ピーハイは砕け散る。
だけど、武器っていうものは、ただのコレクターズアイテムじゃねえ。
使われて初めて輝くもんだ。
「絶望を払う剣か……。って、させるか、ウエポンブレイク!」
ルシファーの攻撃を再び止め、鍔迫り合いになった。
「だからこそ、今使うんじゃねえか。これは命の危機。絶望的な状況だ」
短剣を支える手が重ぇ。
strもdexも上回っているとはいえ、気を抜けばブレイクを外されるだろう。
一つでもミスったら――死。
この戦い、いつだってそんな絶望と戦っている。
「サエラはな、ピーハイのことを誰より信じている」
ピーハイはサエラにとって誇りであり、想いであり、希望。こんなに頼りになる味方はいねえ。
「スクルド、お前が見守る神だっていうんなら――絶望を払う奇跡、見守ってくれ! 信じてくれ!」
ブレイクが解けた。
激しい力の反発に、俺とルシファー両方がわずかに体勢を崩す。
「たぁっ!」
その隙をぬってサエラがブロードソードを振り下ろす。
もちろん、ただのブロソじゃねえ、
――先祖伝来の名剣ピートハイプラスターだ!
「甘い。バックスタ――」
この流れでバックスタブかよ!
バックスタブは、相手の背後に回り込み奇襲を仕掛けるスキル。
ピーハイには防御の魔石が内蔵されていない。
1撃でもくらったらオダブツだ。
やべぇぞ!
「――!」
スキルを発動寸前にルシファーが一瞬怯んだ。
暗い紫色のオーラのエフェクト。
挑発スキル、スレットオーラだ。
スクルドのリキャストタイムがギリギリ終わったのか!
「見守れって言われても、そんなの退屈だわ」
スレットオーラを使った本人はいつものように金色の瞳を輝かせている。
「みんなで絶望を払いましょう!」
「おう!」
スレットオーラによるディレイが解けた。
今度こそサエラの背後にルシファーが回り込む。
「死ね!」
鋭い突きの一撃。激しく炎が燃え盛る。
「来るって分かっている攻撃なんて、怖くない!」
サエラは大きく体を捻りながら前転し、攻撃を回避。
両足の着地と同時に、地面を力強く蹴り出した。
「たぁっ!」
一蹴りでルシファーの懐まで飛んでいく。
「こしゃくな。返り討ちに――」
「いい女がいるのに、よそ見は失礼じゃない?」
スクルドがルシファーの背後を斬りつけた。
苦痛に顔を歪めるルシファー。
その一瞬が命取り。
「ヴァーティカルムーン!」
地面すれすれの低い位置から天に向かってサエラが斬り上げた。
「――ぅっ!」
ルシファーが自分のミスに気付いたみてぇだが、もう遅ぇ。
既に体は宙に浮いている。
ヴァーティカルムーンは空中に打ち上げる斬スキル。
これが決まれば相手はもう動けない。
1撃、2撃とダメージを与え、さらに高く打ち上げる。
最高点に達したところで、スキル発動。
「ラグナァァ――」
サエラの体が金色に光る。
最強アクティブスキルはルシファーだけのユニークスキルじゃねえぜ。
「「決まれえええええ!」」
俺とスクルドが同時に叫んだ。
「エンンドォォォォォッッ!!」
ヴァーティカルムーンからのラグナエンドの空中コンボが見事成功した。
完璧のタイミングだった。
サエラ、俺がこのコンボを教えてからずっと練習していたもんな。
この大一番で決まって、本当に嬉しいぜ。
パリィィィン!!
怒涛の3連撃でクラウソラスをついに叩き折った。
「っっしゃあ! 開発チームの想定を俺たちは超えた!!」
フェイズ2が始まってから3時間19分。
やっとクラウソラスが折れた。
いくらDRAがあったのかさすがに見当もつかない。
ルシファーのデータを決めた開発チームもきっと折られるとは思っていなかっただろう。
だが、俺たちはやり遂げた。
奇跡――いや、実力だ!
ドサッとルシファーが地面に墜落し、サエラがスタッと地面に着地。
そして、ピーハイを高く掲げ、声を上げた。
「みんな、もうクラウソラスは無くなったよ。絶望は払われたんだ!」
クラウソラスがフェイズ3にも残っていたら、間違いなく俺たちは負けていた。
けれども、クラウソラスはもう復活しねえ。
これでようやくフェイズ3への挑戦権を得た。
あぁ! 疲れた体の奥から、わくわくがあふれ出てくるぜ!
「ピートハイプラスターをこんなふうに使うなんて……。やっぱり、あなたたちは面白いわ!」
スクルドは口に手を当ててフフリと笑った。
「な、ピーハイは絶望を払っただろ?」
「そういう意味じゃないんだけど、楽しいからOKよ」
ルシファーがよろよろと立ち上がった。
「真の絶望はフェイズ3だ……。フェイズ3で1人残らず殺してくれる……!」
「お兄ちゃん、すごぉい」
「レイさん、次は俺が活躍するっす」
「ルシファーを倒すのはアタシ!」
「これでようやく前進ですね」
俺の周りに状態異常から回復した仲間が次々と集まってくる。
ルシファーが何か言っているが、この頼もしいやつらがいるから、全く怖くねえ。
配信を見ているやつらへ、俺からのメッセージ。
「ここまで時間がかかってすまねえ。だけど、フェイズ3では俺のエクスカリバー特化武器がルシファーにアッと言わせる!」
石膏像のような固い表情でルシファーが睨んでいる。
そして、俺はライブカメラに向かって剣を突きつけ、宣言する。
「真の希望はフェイズ3で見せる! お前らは歴史の目撃者になる!」
戦いはいよいよ後半戦、フェイズ3に突入する。
『ナンバーワンを決める戦い』は全11回、8週間にわたって連載します。
次回は7月13日の12時頃に更新の予定です。
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