8-27 戦いの幕開け
「というわけで、いよいよ14時からルシファーに挑戦する!」
再び新聞記者たちの取材を受けている。
面倒だが仕方ねえ。
取材を受けるのも1流プロゲーマーの仕事だ。
「挑戦の様子はライブ配信する。入室パスワードは――」
俺のプレイを見せたい。俺のプレイで魅せたい。
昔からゲーム配信者に憧れていた。
だが、向こうの世界で配信に手を出すことはなかった。
トークが苦手、配信なんかやっても稼げない、アンチがウザい、ゲームとバイトで時間がない……。
様々な理由をつけてやろうとしなかった。
だけど、今は違う。
たった一度の失敗ですべてを失う、この「リアル≠ゲーム」の世界で俺は気が付いた。
本気で生きなきゃ、生き残れない。
本気で生きなきゃ、つまんねえ。
「この戦いに俺たちの全てをぶつける。ナンバーワンプレイヤーの生き様をその眼に焼き付けやがれ!」
自分で決めた道は必ず進む。
それがどんな困難な道であっても、決して俺はためらわない。
覚悟を決めた今は――これまでよりもずっと気持ちが軽やかだ。
記者会見が終了。
出発は2時間後だ。
「いよいよ戦いの始まりね」
スクルドが俺に話しかけてきた。
「ところでレイ君、お願いがあるんだけど」
「今からデートはなしだぞ」
「あら残念。でも、もっと面白そうなイベントが始まるから構わないわ」
これから始まるルシファー戦は一世一代の大勝負。
デートなんかより、よっぽど楽しい。
「そんな大勝負だからこそ――お願いよ。私のカッコ悪い名前を改名してくれないかしら」
スクルドの名前は【テスト用守護霊】になっている。
JAO開発チームがテスト用につけたのものだろう。シンプルイズベスト。
「改名って言われても……どうやってやるんだ?」
「命名してくれれば、OKよ」
そんなにあっさり改名することができるなんて、さすがテスト用守護霊。チートすぎ。
「じゃあ――今からお前の名前は【未来の女神 スクルド】だ」
俺の言葉でスクルドが眩しく光る。
守護霊ウインドウに記された名前は【未来の女神 スクルド】に変わっていた。
新しく名前を与えられた女神がうふふと微笑む。
「ありがとう、レイ君。これで名実ともに、一人前の女神になれたわ」
「そうか。ま、俺は別にどうでもいいけどな」
「せっかくだから外見とか声も変えてみる? 貴方好みの外見にしてみてね」
スクルドの見た目が次々に変わっていく。黒髪美女、エルフ美少女、ツインテール幼女、頭ぼさぼさの老婆――。
「俺はアバターのスキンは変えねえ主義だ」
結局、スクルドの見た目は変えなかった。
そのままが一番だ。
スクルドファッションショーが終わると、ツフユがやって来た。
「お疲れ、救世主様」
「さっきの記者会見でも言ったけどよぉ、俺は救世主にならねえ」
記者会見でも、救世主になるのかという質問は予想通り死ぬほど湧いた。10回目までは数えていたが、面倒くさくなって数えるのを諦めたくらいだ。
「何とでも言え。それよりルシファー戦だけど、あたしも観戦させてもらうよ」
「意外だな。お前は見ないと思ってた」
ツフユは面倒くさがりだからな。
「あたしの友人に、お前に興味を持っているやつがいてね。そいつのためにあたしが実況しなきゃいけないんだよ。はぁ~面倒くせぇ~」
「へぇー。じゃあ、いいところ見せねえとな!」
「そいつが言うには、『ナンバーワンの称号は軽くない』ってさ」
「ったりめぇだ。ナンバーワンの称号が軽かったら、目指す意味がねえ」
このクエストはゲーム。
元の世界では多くの廃人が、積み上げてきたプライドを懸けて戦っていることだろう。
軽いわけがねえよ。
「脅してやろうと思ったのに……。ま、死にたがりのあんたなら、そう言うんじゃないかと思ってたけど」
「死にたがりじゃねーよ。生きるために戦うんだ」
「フッ……冗談さ。あたしも、あんたには期待している」
そう言って、ツフユは俺の肩に手を乗せる。
その手は重たかったが、温かく感じた。
「おぅ、任せとけ。救世主になること以外はな」
こうして、ナンバーワンを決める戦いが始まった。
悪魔軍のボスは【人造魔神アリア(HU)】だ。
アリアといっても、体はアリアだが意識はルシファーに乗っ取られている。
事実上ルシファーだといっていい。
だが……。
「これで終わり……?」
ヒナツがつまらなさそうに溜息をついた。
3本のHPバーのうち2本は折れ、残った1本もすでに真っ黒。残りHPはあとわずか。
ボス戦は既に終盤だ。
「シッ!」
悪魔の姿をしたルシファーが爪を振るう。
爪はメマリーの胸を引っかいたが、ダメージを与えることすらできなかった。
HITが全く足りていない。
この爪はフェイズ3から追加された武装だが、まるでメマリーに通用していない。
「弱いなぁ~」
ヒナツが言うのももっともだ。
戦いが始まって20分強。ピンチは一度もない。
対するルシファーは、追い詰められているはずなのに平然としている。
余裕というよりは、まだ戦いを始めていないという雰囲気だ。
ルシファーの周りに光の粒子のエフェクトが出現する。
このエフェクトは、ルシファーが回復魔法を使ってくる合図。
「させるかぁっ!」
ヒナツがメギラスを持って飛び出した。
回復魔法で粘られる前に一気に決める気だ。
隣に立っているサエラが話しかけてきた。
「レイ君、アリスさん。これで終わりだと思う……?」
「思いません。いくら何でも弱すぎます」
「同じく」
アリスと俺が即座に否定。
亜人3軍のボスたちのほうがずっと強かった。
こんな弱いボスと戦ったところで、ナンバーワンを決めることはできない。
「ダブルピアース!」
ヒナツの攻撃が決まった。
ルシファーのHPバーが完全に真っ黒に変わった。
通常ならこれでボス戦は終了する。
だが――
「ウォーミングアップは終わりだ。さぁ、ナンバーワンを決める戦いが始まるぜ」
ルシファーが宙に浮かび、黒いオーラを放つ。
「完全復活した我の力を見せてやろう」
ルシファーの外見がアリアから、翼の生えた長身男性に変わった。
ルシファーが宙から俺たちを見下ろしながら、抑揚をつけた調子で語り始める。
「弱き人間よ、聞くがよい。我こそは全知全能の神であり、世界を滅ぼす魔神――ルシファー」
漆黒の翼、黒い鎧、銀色の長髪、冷たい切れ長の目。
これまでのクエストで何度も目にした面だ。
忘れるわけがねえ。
「我が復活したからにはこの世界は終わりを迎える。抵抗など無意味。破滅を受け入れよ」
「お前こそ、自分を受け入れたらどうだ?」
俺の挑発にルシファーの眉がぴくりと動く。
「お前に世界を滅ぼす力なんてねーよ」
ルシファーはしょせんイベントのボスだ。
いくら強かろうと、冒険者と戦うことしかできない。
しかも、その力もイベント開催中の2週間限定だ。
「戯言は我を倒してから言うのだな」
ルシファーの頭上に3本のHPバーが出現する。
「上等だぁ! 最高に熱いバトルを期待しているぜ!」
来週からは全11回、8週間にわたるルシファーとのバトルです。
次回は6月8日の12時頃に更新の予定です。
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