1-27 ショーテル破壊
チャーリーがショーテルを振り下ろす。ショーテルは鉤爪のような形をしている剣なので、ブロックの上から脳天目がけて刺突が降ってくる。並のプレーヤーがこれを防ぐことは至難の業だ。
しかし、サエラは剣をすっと斜めに上げる。落ち着いた剣さばきだ。軌道に迷いがない。チャーリーの攻撃はパリィされた。
チャーリーのショーテルが振り抜かれるよりも早く、サエラは剣をチャーリーの右肩に突き刺した。チャーリーが攻撃を受けてのけぞっている間に、もう1撃。閃光のように鮮やかなコンビネーション。
チャーリーも負けじと横に薙ぎ払った。慌てていたのか、振り回しているだけの雑な攻撃。サエラにあっさりバックステップで回避されてしまった。
サエラとチャーリーの戦いが始まって30分。俺はその間ずっと戦いを見物していた。
ぶっちゃけ、飽きた。
ショーテルが厄介な武器でも、HPが250万あろうとも、しょせんはスキルのないボス。武器を振り回すことしか能がない。
しかも、ショーテルの剣撃もサエラに完全に見切られてしまっている。サエラはチャーリーに攻撃を当て続けているが、チャーリーの攻撃はたまにしか当たらない。当たったとしても、チャーリーの1撃なんかでサエラは倒れない。
もちろん、番狂わせなんて起きてほしくなんかはない。だけど、結果が分かりきった戦いは退屈だ。
サエラがチャーリーの上段斬りをしゃがんでかわし、腹に鋭い刺突をおみまいした。チャーリーの2本目のHPバーが消滅する。
「ギャギャギャギャギャァ~!」
次の瞬間、目もくらむような強い黄緑色の光がチャーリーから放たれた。
サエラも突然の光に目を押さえながら、チャーリーから距離を取る。
これはフェイズ移行のエフェクトだ。ボスのHPバーが消滅するたびに、フェイズが移行する。
フェイズが変わると、通常は武器が強くなったり、使える武器が増えたり、使用スキルが変わったりする。
フェイズ移行時は、必ずボスが派手に光る。
その演出を見たら、緊張が走ると同時に興奮を覚えるもんだ。より戦闘が厳しくなることが、いやでも分かるからな。
「ふわぁ~」
ところがだ。チャーリーの黄緑色の光を見ても、俺はあくびしかでなかった。
チャーリーは、最初から一番強い攻撃を仕掛けてくるボス、通称『出落ちボス』だからだ。これ以上、強くなりようがねえ。フェイズ3でも、ぜんっぜんっ、わくわくしねえんだよ!
フェイズ3になったとはいえ、残りのHPを削りきるのにはあと20分くらいかかるだろう。その間、俺がすることはピートハイプラスターと回復用のワンドの研ぎをたまーにやるだけだ。
サエラは完全に戦いのペースをつかんでいる。一方、チャーリーに逆転のチャンスはねえ。
この戦い、勝負あった。
そんなもん見てもつまんねえよ。
うーん。これが元の世界の動画配信とかなら、飽きたら視聴をやめるだけだけど、そうはいってられねえしなぁ。
そうだ、俺が加勢すれば早く終わるんじゃねぇか! サエラにとっても楽にボスを狩れるのはいいことだ。
加勢といっても、俺がチャーリーを殴ることはしない。
俺が殴ったら、サエラが得るはずの経験値やドロップアイテムを横取りすることになる。ドロップはともかく経験値なんて、カンストしている以上、1マネの得にもなりゃしねぇ。
俺ができることは、チャーリーのショーテルを折ることだ。
JAOでは、攻撃側のATKが相手のDEFを下回った場合は大きくDRAが減少する。これはMobであっても同じことがいえる。昨日の夜、殴ってきたゴブリンのナイフが消滅したのはそのためだ。
チャーリーのATKは7500超と高いが、しょせんはHSランクのボス。防御SSの魔石を何個も持っている俺にかかれば、どうにでもなる。
しかも、ショーテルのDRAはボスの持つ武器にしてはかなり低く、たった8000ぽっちしかない。折ってくれといっているようなもんだ。
ショーテルが折れてしまえば、チャーリーはシャムシールに持ち替える。
シャムシールはATK3000弱のはず。はっきりいって雑魚武器だ。サエラももっと積極的に攻撃することができるようになる。
……いや、だが、待てよ。もし、時間がかかっているからといって、俺が他のプレーヤーに助太刀されたら、すげーむかつくな。ゲームは自分でやるから楽しいんであって、人にやってもらうなんて、何のためにやってるか分かんねえよ。
でも、サエラはそんなゲーマーって感じじゃねえしな。OKって言ってくれるかも。聞いてみるか。
大声でサエラに呼びかける。
「サエラ! ショーテル折っていいか!?」
サエラは俺に呼びかけられても、動じることなくショーテルの攻撃を避け続けている。そして、チャーリーがショーテルを大きく振り下ろした時に、さっと後方に跳んだ。
跳ぶと同時に、「わかりました~」と相変わらず気の抜けた返事をした。
「よしっ、いったん下がれ!」
サエラの三節棍に防御SSを4個填め、チャーリーに向かって全力で走りだす。防御SSを7個も填める必要もない。1個でDEFが2300上昇するから4個で十分だ。
俺が近づくと、サエラはダッシュで戦線から離脱。チャーリーはサエラを追おうするが、サエラとチャーリーの間に俺が立ちふさがった。
「さぁ来い! そんな貧弱な剣、あっさり折ってやるよ!」
手でクイックイッと挑発する。
「グギャグゲェェェ~」
Mobであるチャーリーが挑発の意味を分かっているのか知らないが、わめきながら眉を吊り上げる。
怒りに任せて、チャーリーは銀色に輝く刃を振り下ろす――。
パキィィィン!
ショーテルは俺の身体を切り裂くことなく、黄緑色の光となって空中に爆散した。
「ほ、ほんとに、あっさり折っちゃったー!」
後ろからサエラの声が聞こえる。いいプレイをしたときの歓声はやっぱ気持ちいい。
「グギャァ!」
チャーリーは恨みを吐き捨てるように啼くと、細身の曲刀を右手に出現させた。サブウエポンのシャムシールだ。
「次のシャムシールのATKは3000弱だ。スキルもないし楽勝だ。あとはめった刺しにしろ!」
ここまできたらサエラと交代だ。あとは難なく倒せるだろう。
ちなみに、シャムシールはあえて折らない。シャムシールを折ってしまうと全ての武器を折ったことになり、武器の再召喚が行われる。また、ショーテルに戻るというわけだ。
俺の言葉を聞いて、サエラが後方から走ってくる。サエラがタゲを取った後、俺は再び下がった。
ショーテルを折ってから5分経過。すっかり攻勢に転じたサエラは、これまで以上の速いペースでチャーリーのHPを削っていく。おそらくチャーリーのHPは残り50万程度。このペースだったら10分もかからないだろう。さっさと狩りを再開してえなぁ。
サエラは勢いよく踏み込んで、チャーリーの心臓を一突き。通常よりも激しい赤い光のエフェクトが放たれた。クリティカルが起きたのだ。
ピートハイプラスターはチャーリーの体を貫き、深々と刺さっている。その姿はまるで串刺しの刑にあったかのようだった。
その光景を見た時、胸をえぐるような不安に襲われた。
ボス戦はまだまだ続く。
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