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8-7 スクルドとデート3

 王立プールを出た頃には夕方になっていた。オレンジ色の夕日が眩しい。


「あ~、プール最高だったわ」


「まーな」


 頭がぼーっとする。

 プールから上がった後って、どうしてこんなにぼーっとするんだろう。

 そういやプールの後の授業って、必ず寝ていたっけ。


「どうしたの? 心ここにあらずって顔しちゃって。さては――」


 流し目でスクルドが俺を見る。


「私とヒナツちゃんにめろめろにされたことを思い出しているのね」


「まーな――って、んなわけあるかあああ!!」


 プール後のけだるさも吹き飛ぶようなスクルドの一言。


 俺だって男だ。

 スタイルがよくて、すべすべの肌のヒナツ。グラマラスで、もちもちやわやわのスクルド。

 ラッキースケベがあって嬉し……。

 って、何考えているんだ、俺ぇ!!


「うふふ……体は正直ね。顔が赤くなってるわ」


 今日もスクルドにじゃれつかれる度に顔が真っ赤になっていたらしい。


 この世界がエロゲベースの異世界じゃなくて、マジでよかった。

 R18のゲームじゃないから、こんな時でも反応するのは顔だけだ。

 顔以外も反応したってなったら……、明日からスクルドとヒナツにどんな顔して会えばいいか分かんねーよ。


「るせぇ! 赤く見えんのは、ほらあれだ……。夕日のせいだよ」


「そうやってすぐムキになるところ、相変わらずカワイイわね」


「はぁ、サエラみたいな訳分かんねーこと言うんじゃねえよ!」


「でも、パートナーとしては、もっと情熱的に私を求めてくれると嬉しいんだけどな……」


「俺が情熱を注ぐのはゲームだけだ」



 スクルドは笑っていたが、ポンと手を打った。


「そうだ! 情熱的といえば……」


 何かをひらめいたらしい。

 嫌な予感……。



「情熱の赤『クリスマスルージュ』食べに行きましょう」



「クリスマスって……今夏だぞ」


「それはそうなんだけどね。あの赤くて美しいケーキを見たときに、心奪われたの」


 クリスマスルージュとは、クリスマスケーキランキングバトルでコプアさんが作った勝負ケーキだ。

 その名の通り、真っ赤な見た目の派手で美しいケーキだ。


「あれはクリスマス限定だ。今行っても置いてねえぞ」


「ねえ、レイ君ってコプアちゃんと知り合いなんでしょ。作ってほしいって頼めば、特別に作ってくれないかしら」


「無理だろうな。予約必須の人気店のオーナーだから、あの人は忙しい」


「じゃあ……頼むだけでも――ダメなのかしら」


 残念そうに下を向くスクルド。

 スクルドは自分のことを「見守る神」と言っていた。

 何度もこんな風に自分の想いも「見送って」きたのかもしれない――。


「分かった、分かった。頼むだけだからな!」


「ありがとう! じゃあ、早いけど――」



 チュッ



 首筋にかすかな、でも情熱的な感触。


「私からの情熱の赤――お返しよ」


 スクルドの真紅の唇が揺れる。


「やっぱ、頼むの無しだあああ!!」


 相変わらず自由すぎるやつだ。こいつといると何かと振り回される。

 でも、それはお互い様。

 たまにはわがままを聞くほうに回るのも――悪くねえ。






 コプアさんが経営するカフェ、フォーリーブズの前に到着。

 扉の前でスクルドに話しかける。


「お前はその辺のショップでアクセサリーでも見てろ。俺が予約を頼んでくる」


「どうして? 私も一緒に行きたいんだけど」


「お前を紹介までしていたら、忙しいコプアさんの邪魔になる」


「そうね。無理を承知で頼むんだもんね。分かったわ」


 スクルドが立ち去った。

 よしっ。

 これでコプアさんとスクルドを会わせずに済んだぞ。


 コプアさんは他人の恋愛に首を突っ込むことを生き甲斐にしている人だ。

 そんな人にスクルドとデートしていると知られたら……。

 俺に彼女ができたとか、サエラと二股をかけているとか――無いこと無いこと、冷やかされまくるだろうな。

 うっ、考えただけで寒気がしてきた。




 というわけで、入店。


 閉店間際ということもあり、客はテーブル席の3名しかいない。

 よく見たら、コプアさんも客に混ざって座っているじゃねーか。

 暇そうだし、これなら話を聞いてくれるかも。


「コプア――」


「何が守護霊よ。あたしの彼を返せ……!」

「お手軽恋愛できない一般人の恋愛は詰んでるわ……!」

「守護霊クソ、守護霊ムカつく、守護霊滅べ……!」


 バタン!


「ハーッ、ハーッ、ハーッ!」


 な、何だぁ……あの守護霊に対する異様な殺意はよぉ!

 思わず外に出ちまったじゃねーか。


 きっとあいつらは全員一般人だ。

 冒険者と違って一般人は守護霊とパートナーにはなれない。

 それをひがんでいるんだろう。


 あの怨念渦巻く空間でクリスマスルージュの予約をしなきゃいけねーのか。無理ゲーすぎだろ。

 しかも、クリスマスルージュは守護霊スクルドのリクエストだ。

 それがバレたら、あいつらの強烈なヘイトが全部俺に向いちまう。

 俺のロールはタンクじゃねーんだぞ。


 ええい! ビビってるだけじゃ始まらねえ。

 守護霊に興味が無い振りして、予約をとっとと済ませよう。




 意を決して、再び入店。


「コプアさ――」


 俺が話を切り出そうとすると、


「レイ君は守護霊についてどう思う!?」


 逆にコプアさんたちに捕まってしまった。

 他の3人もすごい圧だ。


「ま、戦力としては優秀だよな……」


 嘘は言ってねえからな、嘘は。


「じゃあ、恋愛相手としては!?」


「俺は守護霊と恋愛する気はねえ」


 嘘は言ってねえぞ、嘘は!


「合格よ! レイ君」


「何に合格したんだよ」


「やっぱりレイ君はレイ君ね~。インスタントな恋愛にうつつをぬかすミーハーな冒険者たちとは格が違う。何人もの生身の女の子たちと付き合っているだけあるよ」


「人をチャラ男みたいに言うのやめろ」


「これからも私は、レイ君と生身の女の子たちの恋愛を応援するよ!」


 その生身の女の子たちも守護霊(1名はプール)にお熱で、誰も俺のことなんて相手にしていないんだけど……。


「レイさんを見習って、守護霊から彼氏を取り返します!」

「お手軽じゃない恋愛ってあるんですね。私も頑張ります!」

「一般人の私に彼氏をください!」


「その意気だよ! 私もみんなの恋愛、応援する! エイエイオー!」


「「「エイエイオー!」」」


「エイエイオー!」


「「「エイエイオー!」」」


 さっきまでの呪い儀式のような暗いテンションから一転、女の子たちは恋愛に燃え、コプアさんはいつものようにそれをはしゃぎたてる。



 やべぇテンションとはいえ、空気が明るくなったことには変わりねえ。

 この流れなら――言える!


「盛り上がっているところ、悪ぃんだけどさー。コプアさんにぜひ頼みてぇことがあるんだけどよぅ、いいか?」


「どうしたの?」


「クリスマスルージュ作ってくれねーかな?」


「レイ君……今、夏なんだけど……」


 それは俺も言ったっつーの!


「普通のケーキじゃプレゼントにならねえだろ。特別なやつじゃないと――」


「プレゼントぉ? まさかレイ君まで守護霊に……」


 コプアさんの目の奥が光る。


 しまった! それは言っちゃまじぃ。

 最近は冒険者がプレゼントを贈る相手といえば、守護霊一択だ。


「さ、サエラだよ……。サエラがどうしても食べたいってきかなくてな……」


「おかしいな。サエラちゃん、さっきお店に来てたけど、そんなこと一言も言ってなかったよ」


 こんな時だけ起きているんじゃねーよ!


「レイ君……一体誰にプレゼントする気なの?」


 コプアさんたちがものすごい剣幕で詰め寄ってくる。


「そ……それは……」



 突然扉が開いた。


「ケーキの予約はもう済んだ?」


 スクルド入ってきちゃったよ!


「お前は来るなって言っただろ!」


「ごめんなさいね。でも、メッセージを送っても未読のままだから一度様子を見ようと思ったの」


 スクルドと話をしていたら、コプアさんたちが再び詰め寄ってきた。


「レイ君……もしかして、この女性は守護霊?」


「いやぁ……神様だから守護霊じゃ――」


「ええ。私は守護霊スクルドよ」


「馬鹿正直に答えるんじゃねえ!」


「レ~~イ君ぅ~ん……」


 コプアさんたちの顔が引きつっている。

 お……終わった……。


「レイ君だけはインスタントな恋愛をしないと思ってたのに! これから一体誰の恋バナを応援すればいいのよーー!」


「知るか!」


「やっぱりみんな、かわいくてちょろい守護霊のほうを選ぶんだーー!」

「どうせ一般人なんかに恋愛はできませんよーー!」

「守護霊クソ、守護霊ムカつく、守護霊滅べーー!」


 一般人たちも恋愛できないうっぷんを再びまき散らす。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 表に「Open」の札がかかっているってこと忘れてねーか。



「くだらない愚痴吐いて、それで満足?」



 スクルドの一言で、一般人たちの罵声がやんだ。


「私はこの人に何かしてもらって気に入ったわけじゃない。自分の目で見極めて、自分の意志でこの人のパートナーになりたいって思った。そして、行動した」


 ハッキリとした口調でスクルドは自分の意志を述べた。

 スクルドの目力に一般人たちの顔が曇る。


「守護霊ブームを恨んでも恋愛はやってこないわ。まずは、パートナーになりたいと感じた男性ひとを見つけなさい。そして諦めずアタックする。人より苦労するかもしれないけど、その分深い関係になれるものよ」


 スクルドのやつ、なかなかいいこと言うじゃねーか。


「私はそういう恋愛をいくつも見守ってきた。不安だったら、いつでも相談に乗るわよ」


 頼もしいスクルドの言葉に一般人の瞳がきらめいた。


「「「恋愛の女神様ぁ~~~!」」」


 わーっと一般人がスクルドの周りに集まった。

 スクルドは満更でもない顔をしている。



 その様子を遠巻きに眺め、コプアさんが軽く微笑む。


「私、誤解していた。他の守護霊はデートやプレゼントでご機嫌を取ればパートナーになれる。レイ君はレイ君だから、スクルドはパートナーになることを選んだんだね」


「そうみてえだな」


 世界で1番自由な冒険者。

 スクルドは俺のことをそう呼んだ。

 俺は俺らしく生きているから、スクルドとパートナーになれた。

 コプアさんもちゃんと分かってくれたようだ。


「やっぱりレイ君は面白い! スクルドとの恋仲も応援するからね!」


 前言撤回。コプアさんの誤解、全然解けてねえ~。






 結局、クリスマスルージュをその場で作ってもらった。

 足りない材料もあったから、完全に同じレシピってわけにはいかなかった。

 急なお願いだから仕方ない。スクルドも納得してくれた。



「これは! 想像を超えるくらい美味しいわ!」


 真っ赤なケーキを美味しそうに頬張るスクルド。


 そんなスクルドにコプアさんが質問する。


「レイ君とのデート、楽しかった?」


 デートじゃねえ。一緒に遊んだだけだ。


「今日は楽しかったわ。自分の足で世界を歩き回り、自分の五感で世界を感じるのは最高ね!」



「じゃあ、レイ君は~~?」


 コプアさんの質問に、ぶっきらぼうに返事する。


「今日はクソ大変だった。スクルドこいつに振り回され続けた1日だった」


 普段俺は移動工房の経営と狩りばっかりしている。それらは俺のライフワークだ。

 でも、それだけじゃ見落とすことだってある。

 スクルドと1日、歩いて、遊んで、だべって、笑って気づいた。


 あぁ! この世界は俺が思っているよりも、自由で楽しいんだ!




 その後もフォーリーブズで食事とおしゃべりを楽しんで、スクルドとのデートが終了した。

次回は1月12日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




こちらも読んでいただいたら嬉しいです。


【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~


本作の目次上部にあるJewel&Arms Onlineシリーズという文字をクリックしていただければ、飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n6829gk/

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