8-1 アニバーサリーイベント開始
お待たせいたしました。今週から連載再開です。更新は毎週水曜日12時頃です。
よりいっそう面白いお話を紡いでいきたいと思います。
これからも変わらず応援よろしくお願いいたします。
「ついに! ついに後1日になったんだよおおおおお~~~!!」
レスターン神宮の拝殿に俺の歓声が爆発する。
いよいよ後1日だ。
明日をどれだけ楽しみにしてきたか分からない。
カレンダーとにらめっこする日々はもうすぐ終わり。
「あれ? 明日って何の日だっけ?」
椅子に座りながら目をこするサエラ。
お前、絶対ぇ寝てただろ。
「決まってんだろ。明日は、1年に1度のお祭り――3rdアニバイベントのスタートだあああ!」
アニバイベントとはアニバーサリーイベントの略、つまりゲームの周年イベントのことだ。
明日7月2日でJAOはサービス開始から数えて3周年を迎える。4回目の誕生日だから3rdアニバ。
隣に座っている美人新聞記者エルテアが俺の話に補足する。
「フェクレバン王国の王様、ハルグリッド陛下が王位に就いてから明日で4年。王都レスターン中が祝賀ムードでしょ」
「うん。町にもいっぱい屋台とか出てるもんねー。3rdアニバイベントってどんなことが起こるのかな? 私も楽しみになってきたぁ~」
どうせサエラのことだ。大して分かっちゃいねえだろう。
でも、何が起こるか分かっていないのに楽しくなっているのは、俺も一緒だ。
詳しい内容はこれから発表される神託で分かる。
神官連はJAOがアップデートされる前日に、その内容を神託という形でこの世界に告知するのだ。
あぁ、早くアップデートの内容を知りてぇなぁ!
その内容が発表される、こんな嬉しい日に興奮しないでいられるかってんだ!
エルテアが俺たちに質問する。
「ねえ、レイさん。いつもは神託の発表を聞きに来ないよね。どうして今日は神宮に来たの?」
エルテアとはここで偶然会った。
お互いの事情は知らない。
「神官連から招待状をもらったからな」
「なるほど」
「ま、招待状が無くても来るつもりだったけどな」
俺の言葉にサエラが反応する。
「どうしてなの、レイ君?」
「ゲームの重要な内容を知りたいってのは、ゲーマーなら当然なんだよ」
今回のアニバパッチが当たれば、美味しいイベントや重要な仕様変更が実装されるだろう。
アニバでは、運営はさらなるゲームの発展を目指していくつものパッチを当てるのが通例となっている。
過去には、アニバパッチ前とアニバパッチ後では全くの別ゲームに様変わりしてしまったということもあった。
変化に疎いやつはゲームでは後れを取る。
最新の内容をいち早く知って活かすことが、異世界攻略でも重要なのだ。
「じゃあ、私たちと同じようなものだね」
そう言ったエルテアの目はらんらんと輝いている。
「陛下の即位記念日前日には、陛下を祝福するように、重大な神託が下りることがある。だから、私たち新聞記者も神託の発表を取材しに来てるの」
「確かに、今日は前に来たときよりもずっと人が多いよなー」
俺たちが話をしている間にも人が続々と集まってくる。
皆、態度こそは普通だが、どこか落ち着かない様子だ。興奮を全く隠せていない。
「あぁ~、今回はどんなパッチが当たるんだろうな~」
発表まで後30分以上。
何か別のことをしてもいいのだが、気がそわそわして他のことなんて手につかねえだろう。
俺たちは3人でおしゃべりをしながら、神託の発表を待つことにした。
30分後。
王様を祝う神楽の奉納が終わり、いよいよ神託の発表だ。
「皆様、本日の神託ですが――」
舞台上で『神槍の朱巫女』ヒナツが得意げに胸を張る。
ヒナツの隣で『神託の蒼巫女』ツフユが黙って立っている。
「世界を揺るがす重大な内容です!」
ヒナツの発表に集まったギャラリーが湧きたった。
「レイ君は驚かないんだね?」
サエラが俺の顔をのぞき込んで話しかけてきた。
「内容分かってねえのに驚くやつがあるかよ」
「それもそうだねー」
どんなクソパッチが当たっても、JAOはJAOだ。
どーんと構えてりゃいい。
次々と発表される神託。
さすがにアニバパッチ。半月に1度の定期更新以外の内容も盛りだくさんだった。
LIの定期変更
新施設「レスターン王立プール」の実装
新農園「カーガ水田」の実装
3rdアニバーサリーイベント1「王に祝杯を!~アニバワイン・ランキングバトル~」
3rdアニバーサリーイベント2「繋げよう、世界一のドミノ」
期間限定モンスター「プチ(3rdアニバーサリー)」が実装
期間限定モンスター「グリフォン(3rdアニバーサリー)」が実装
サイズ補正実装
守護霊システム実装
二刀流実装
ハウス栽培実装
新サブ技能「霊媒」「グルメ」「探検」実装
二刀流や守護霊システムは重大そうな変更だ。
しかし、世界を揺るがす変更だとは思えない。
「さぁ、皆様長らくお待たせいたしました。メモの準備はお済みでしょうか?」
ヒナツは今まで以上に声を張り上げ観客を煽る。
「いよいよ本日最後の神託の発表です!」
これから発表される神託が――アニバパッチのメインイベント。
さぁ、どんな内容がくる?
「レイ=サウスが世界を救う!」
俺を指差し宣言するヒナツ。
一瞬静まり返る会場――そして、
トゥルルン、トゥルルン、トゥルルン――
この会場に詰めかけた記者たちが一斉にスクショを撮影する。スクショ撮影の効果音が鳴りやまない。
きっと皆の予想を遥かに上回る内容だったのだろう。
突然の救世主誕生に会場が沸騰した。
新聞記者のエルテアが俺にインタビューを始める。
「レイさん、おめでとうございます。これからの意気込みを是非聞かせてください」
それを皮切りに、
「あなたに世界を救えるんですか!?」
「移動工房の武器は世界の危機に通用するんですか!?」
「救世主に指名された感想は!?」
次々と失礼な質問が俺に浴びせられる。
「一言、言わせろや」
俺は神聖な神殿の舞台に土足で上がった。
舞台に立って観客を見下ろす。
記者たちの目がギラギラと燃えている。
俺の息遣い一つさえも記録されてしまいそうな程の緊張感。
そんな飢えた猛獣たちに向かって、毒物を投げ込む。
「俺は世界を救わねえ」
俺の言葉で記者たち熱狂が急速に消えた。
お通夜のような冷え込んだ空気。
誰も言葉を発さない。発言をメモることはおろか、スクショを取ることさえできない。
せっかくネタにできそうな大事件が起きたのに、それを張本人が否定するなんて。
そんな記者たちの静かな怒りや落胆が手に取るように感じられる。
だけど、そんなことは知ったこっちゃねえ。
「残念だけど、その神託はハズレだ。記事にはならねーよ。じゃあな」
言いたいことは言った。
舞台を下りようとすると、
「レイ!」
ヒナツが俺を呼び止めた。
「レイ、これはゴッドメッセンジャー、神様からいただいた神託。神様の人々を愛する心に応えてほしい」
この世界ではGMという異世界独自の存在から、ヒナツとツフユは新パッチの情報を受け取るのだそうだ。
「そんなこと言われてもな。この国を守るのは王国軍だろ。世界の危機があったとしても、何とかするのは俺の仕事じゃねーよ。俺は武器屋だ。世界を救いたけりゃ、他所当たりな」
「違う。タイラン率いる王国軍なんかに世界は救えない」
ヒナツは真っ直ぐ俺を見つめている。
「どんなピンチが起こっても、『大したことねーよ』って不敵に笑って乗り越える。世界中探しても、そんなことができる冒険者は――レイしかいない」
ヒナツの言葉に嘘偽りはないだろう。
巫としての使命感で俺を説得している。
「俺のこと評価してくれてありがとよ。でもな、俺は救世主なんて肩書に興味はねえ。興味があるのは――」
答えはたった1つ。
「ゲームだけだ」
ヒナツが巫として生きるように、俺はゲーマーとして生きる。
「だから、俺が楽しいって思ったことがあれば全力を尽くす。それ以上でもそれ以下でもねえ」
俺の言葉を聞いてヒナツは「ふう」と軽い溜息をつき、爽やかな笑顔を見せた。
「やっぱ、レイはレイだね。好きなように楽しんじゃえ☆」
「おう」
舞台を下りようとすると、ツフユが苦虫を嚙み潰したような顔で物言いを付けてきた。
「よく聞け、レイ=サウス。あんたがどんなわがままを言っても関係ねーんだよ。ゴッドメッセンジャーから世界を託された以上、あんたは世界に対する責任を背負うことになった。よく覚えておくんだな」
ツフユに一言。
「神、いや、ゴッドメッセンジャーが俺をどうしたいと思っても、俺の生き方を決めるのは――俺だけだ」
それだけ言って、舞台を下りた。
「サエラ、帰るぞ」
3rdアニバパッチの内容は全部聞いた。
それに、最後貴重な時間をロスしてしまったからな。
これ以上、ここに居るのはもったいねえ。
俺とサエラは外に出た。
歩いている間サエラは何も言わない。
黙っているのもなんだし、少し話を振ってみるか。
「そういえばよぉ、お前は神託の中でどれが1番気になった?」
「…………ヒック……最後」
何の気なく投げた質問だったが、なぜだかサエラがすすり泣いた。
しまった! そりゃあ常識的に考えて、最後の神託に決まってるわな。
あ~、墓穴掘っちまったよ~!
「と、とりあえず落ち着いてくれ。俺だってさ、この世界がどうでもいいってわけじゃねーよ。戦うときは戦うさ。ただ、何もやってねえのに救世主扱いされるのってどーよ……」
「違うの」
サエラが顔を上げる。
指で涙をぬぐうサエラの顔は穏やかだった。
「レイ君が救世主にならないって聞いて、私はほっとしたの」
「ほっと……?」
「うん。ほっとしたよ。だって、レイ君はみんなのために戦う救世主ってがらじゃないよ。好きなものを好きって言える人――『げえまあ』なんだもん」
目を細めて笑うサエラ。
ああ……、こいつは俺のことを分かっていてくれる。
ほっとしたのは俺のほうだぜ、相棒。
「バーカ。ゲーマーってそういう意味じゃねーよ」
「そうなんだ~。じゃあ教えて~」
「教えるの何度目だ。まあいい、もう1度だけ教えてやる。ゲー……」
「レイさん!」
後ろからの声を聴いて、俺とサエラは振り返った。
「取材をさせてください」
エルテアだった。
「俺は世界を救わねえ。俺はあの神託について話すつもりはない。取材なら神官連のほうがいいぜ」
俺がそう言っても、エルテアは動かなかった。
「レイさん、これからどこへ行くんですか?」
「フィルン大雪渓」
「そこで何を?」
「決まってんだろ――ゲームだよ」
そう言って、俺は向き直ろうとする。
「待って!」
エルテアの強い呼び声に、俺は足を止めた。
「『げえむ』の取材、させてください」
俺はニヤリと笑う。
「いいぜ」
固く緊張していたエルテアの顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう!」
「礼を言うのはこっちのほうだ。しっかり記事を書いてくれよな」
こういう取材なら何時間でも受けてやらぁ。
「喜んで!」
3rdアニバーサリーイベントはいよいよ明日。
思いっきり遊びつくすぜ!
次回は12月1日の12時頃に更新の予定です。
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