1-26 崩せ、コンビネーション
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ここでレべリングをしたとき、湧泉洞に出現する通常Mobのデータは穴が開くほど見た。しかし、チャーリーはクエストで1回しか倒したことがない。チャーリーのデータも見たことはあるが、さすがに詳しい数値までは覚えていない。
大体こんな感じだったと思う。間違っているところもあるかもしれないが、ま、なんとかなるだろ。
名前:ゴブリンキング(チャーリー)
レベル:67(HSランク ダンジョンボス)
大種族:ゴブリン
HP:250万強
AI:アクティブ
フェイズ1:ショーテルで戦う
フェイズ2:ショーテルで戦う。折れたらシャムシールを使用
フェイズ3:フェイズ2と同じ
取り巻き:フェイズ1の初期時に、ゴブリンロイヤルガード1匹のみ
武器1:ショーテル
ATK:7500超?
HIT:?
DOG:1800くらい?
DEF:1250くらい
スキル:なし
武器2:シャムシール
ATK:3000弱?
HIT:?
DOG:?
DEF:1700くらい?
スキル:なし
数値不明もあるが、特別高いということはないはずだ。
ショーテルのATK以外はこれといって高い数値がない。それどころか、HSランクのボスのくせにスキルもない。
はっきりいって雑魚ボスだ。スパモン30体くらいのモンハウのほうがよっぽど危険だろう。
ただ、ショーテルがやっかいだ。
ショーテルとは、エチオピアの刀剣である。その特徴は大きく剣身が曲がっていることだ。鋭い鉤爪のような独特のフォルムをしている。そのため、使いにくい反面、トリッキーな軌道で攻撃することができるので非常に避けにくい。
ショーテルはJAOの仕様上、火力が高くなるようにデザインされている。チャーリーも、HSボスの割には7500と高ATKだ。
高ATKかつ避けにくい攻撃に、どう対処するか。ここがチャーリー攻略のポイントになる。
普通のボスはHPが減るごとに段々強力な武器・攻撃を使用するようになるが、チャーリーは最初から最後まで強力な武器を使用する。この点もやっかいだ。
「あんた、こいつとやったことあるか?」
「ゴブリンロイヤルガードなら、もちろんありますけど。ボスはないです」
「最初からとばしてくるぞ。ATK7500超え。外付けは防御全振りでいけ。HIT不明だからモーション大きめで。DEFは1250。HPは250万強」
とりあえず最低限の情報をサエラに伝える。
サエラは「うん。ありがとです」とだけ言うと、魔石を外付けしてチャーリーたちに向かって行った。
サエラがチャーリーの前に対峙する。空気が変わった。コンマ1秒にも満たない静寂。見ている俺でさえも、その緊張感でひりひりと痺れる。
先に動いたのはサエラ。足を半歩踏み出してチャーリーの胸を切りつける。
チャーリーは避ける動作さえしない。チャーリーの胸から、ダメージを受けたことを表す赤い光のエフェクトが発生した。
だが、サエラの一撃を受けてもチャーリーのHPバーは数ドットしか減っていない。しかも、雑魚Mobと違ってHPバーは3本もある。尋常じゃないHP。これこそがボスをボスたらしめるゆえんだ。
「ギギギャァ!」
チャーリーも負けじとサエラの脳天目がけて剣を振り下ろす。
「甘いよ」
だが、サエラはディレイが解けると同時に後ろに跳んで、これを回避。今のはよけにくい軌道だったが、やるな。
サエラは相手の動きの隙をつき、剣を肩に突き立てようとする。
シュッ!
チャーリーの背後から鋭い突きが繰り出された。RG(ゴブリンロイヤルガードのこと)のランスだ。運悪くサエラの腹に命中。
防御の魔石をしっかり填めていたのだろう。182ダメージしかくらっていない。十中八九、最低ダメージに抑えている。
だが、ランスのせいで軌道が逸れサエラの攻撃は当たらなかった。
敵の布陣は、ボスのチャーリーが前衛で雑魚のRGが後衛だ。
後衛といっても魔法を使用するわけじゃない。長柄武器であるランスで約4m後方から突いてくるのだ。
RGがサエラの踏み込みに合わせてランスで突いてくる。格ゲーでいう「置き」というやつだ。必中エリア以外は当たらないとはいえ、避けにくいので数回被弾している。
この状況がずるずると長引けば不利になる。RGをさっさと倒さないといけない。
RGと戦うにはチャーリーを振り切る必要がある。しかも、RGのHPは25,326でDEF3298ある。並みの攻撃じゃ簡単には落ちねえ。
サエラも頑張ってはいるが、こんな状況では、なかなか有効打を与えられないでいる。
これは少しヒントを出すか……。
そう思ったが、戦いはまだ始まったばかり。しばらく様子を見ることにした。
劣勢が続いていたサエラだが、次第に変化が見られるようになった。
ただショーテルをただかわすだけでなく、パリィを混ぜて相手の攻撃を逸らすようになった。
パリィとは、攻撃モーションに合わせて武器や体で相手を押しのけることで、攻撃を逸らす技術だ。
ATK差のある相手でも使えるので、役に立つことが多い。
武器の刃部分で押したり、武器を振り抜きすぎると、攻撃扱いになってしまう。精密な動作が要求されるのだ。
ショーテルは刀身が極端に曲がっており、ブロックやパリィを避けて攻撃することができる。並大抵の技量じゃショーテル相手にパリィは無謀だ。
だが、さすがは金色の閃光。たった数分で、サエラはショーテルの独特の形状と不規則な軌道に慣れてきたのだろう。パリィを何度も決めている。
パリィができれば、とれる行動に幅が出る。劣勢が優勢に転じるのも時間の問題だ。
チャーリーがサエラに剣を振り下ろす。だが、サエラはその大振りを跳んで回避。
攻撃ディレイが発生した隙に、サエラはワンドに装備を変更。
「ヒール」
サエラのHPが全快する。
良い判断だ。HPは9割くらいだったが、チャーリーの火力を考えたら、少しでも現在HPは高いほうが望ましい。こまめなHP管理が生死を分ける。
そして、再びピートハイプラスターにチェンジ。すばやく装備ウインドウをタップすると、剣が白い風をまとった。激しい風が剣から発せられる。
填めたのは風属性の魔石。武器に風属性を付与するだけでなく、ATKと追加ディレイを増加させる効果がある。
ここで属性魔石を填めたということは、サエラもようやく仕掛ける気になったか。俺だったら、もう少し早くやってたけどな。
「ダッシュ!」
サエラは大きな8の字の軌道で走り回る。
移動による攪乱か。俺でもそうするわな。
素早く大きく動くことにより相手は的を絞りづらくなる。動き回るサエラを当てようと、チャーリーもRGもそれぞれのタイミングで攻撃を始めだす。結果、コンビネーションが乱れる。
コンビネーションが乱れると、ポジショニングも乱れる。RGとチャーリーの距離が離れれば――RGを殺るチャンスが生まれてくる。
そして、チャーリーとRGの距離が7mほど離れた。サエラがRGを殺りに行くなら、チャンスは今しかないはず。
だが、サエラはRGではなく、チャーリーと再び対峙した。せっかくのチャンスだっていうのに、どうするつもりだ?
「ギギィ!」
チャーリーがショーテルを大きく振り回す。だが、弓なりの軌道はサエラにもはや見切られている。
「決めるよ――」
攻撃終わりのディレイに合わせて、サエラがスキルを発動。
「ヘッドシェイク!」
ここでヘッドシェイクかよ。前のめりなサエラの選択に俺は唸った。
ヘッドシェイクとは、スタンを発生させることを目的として使用される打撃スキルだ。システムアシストがあるため頭を狙いやすい。スタン発生確率も上昇する。
スタンするかどうかはあくまで確率の問題。ヘッドシェイクで脳天を揺らせたからといって、スタンするとは限らない。このスキルは博打的な要素が強いという評価だ。
だが、チャーリーがスタンすれば戦局はガラッと変わる。
スタンは、意識障害が起きる状態異常だ。意識障害が起きるということは、もちろんスタンしている間は何もできない。殴られるだけのサンドバックとなる。
サエラが剣を大きく振りかぶった。
ヘッドシェイクの発生モーションをつぶそうと、RGが走りこんでランスを突きだしたが、もはや間に合わない。
「倒れてぇぇぇ!」
ガツンッ!
チャーリーの脳天に渾身のヘッドシェイクが叩きつけられた。
おそらくスタンする確率は40%ぐらいだろう。だが、ありえない数字じゃねえ。頼む、スタンしてくれ!
チャーリーがギギッっと短く笑った。くそっ、やっぱりスタン狙いは厳しかったか……。
次の瞬間、白目を剥いてチャーリーが仰向けに倒れた。
「よっしゃぁ!!」
チャーリーが倒れたのを見て、思わず俺はガッツポーズを作って大声で叫んでいた。
だが、戦っているサエラは喜びに震えている暇なんてない。
「ダッシュ!」
サエラはRGにむかってダッシュする。
「ギッ!」
サエラの前進を止めようとRGはランスを勢いよく繰り出す。
だが、サエラはランスの射程ぎりぎりの所で静止。そして、RGがランスを手元に戻すと同時に走り出し、距離をあっという間に詰める。
ランスは160cm以内に入りこまれると攻撃ができない仕様になっている。その位置までサエラが入り込んだ。こうなったら、こっちのもんだ。
俺はサエラに向かって叫んだ。
「もう何も怖くねえ。一気に決めちまえ!」
「分かりました!」
サエラは俺に返事をし、ピートハイプラスターを強く握った。一方、RGはランスの装備解除中のため棒立ちだ。もはや逃げることさえかなわない。
「ラグナエンド!」
サエラが大声で叫ぶと、サエラの体は金色に輝く。
ラグナエンドとは、強烈な3連撃を敵に叩き込むスキルだ。アクティブスキルの中でも1番強いといわれるスキルで、これを雑魚Mobに使えば大体即殺できる。
ランクHSのラグナエンドは2.11倍の攻撃が3回。ものすごい破壊力。しかも、RGは風属性が弱点。ダメージもさらに1.2倍される。
RGがいかにタフなMobとはいえ、最強スキルを耐えることなんてできやしない。
RGに怒涛の3連撃が叩き込まれる。
「ギギャアアア!」
RGは断末魔の悲鳴を上げると、あっさり消滅した。
チャーリーがスタン中、サエラは攻撃を続けた。HPはおそらく50万くらい削れただろう。
チャーリーが起きるまでに研ぎを2回行った。HPが250万あるので、何回も研ぎをしないと、途中でDRAが0になって折れるからだ。
スタンの効果時間が切れて、チャーリーは頭をかかえながら、ふらふらと立ち上がった。
まだまだHPはある。ボス戦はまだ続く。
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