1-25 湧泉洞のボス登場
休憩も終わり、しばらく狩りを続けることにした。湧きはやや良いくらいで、特にピンチになることもなく順調だった。
目の前にはスパモン2とスパゴブ2。サエラはピートハイプラスターを装備している。この程度の数ならすぐ終わるだろう。サブウエポンの三節棍でも余裕だが。
ピートハイプラスターの研ぎが終わったばかりなので、俺はサエラの戦闘を見るくらいしかすることがない。今回はサエラの狩りである以上、三節棍を振るって大暴れというわけにはいかねえからな。
あっという間にスパモンが全滅。サエラがスパゴブの所へ走りこもうとした時、信じられないことが起きた。なぜかスパゴブが逃走したのだ。
スパゴブリンに逃走のAIは組み込まれていない。プレーヤーがどんな強敵だろうと、スパゴブリンは絶対に逃げないはずだ。
「なぁ……。この世界じゃあ、スパゴブって逃走するのか……?」
俺の質問に心当たりがあるらしく、サエラは真剣な表情で答える。
「普通はしないよ。ただ……」
サエラの言葉の続きは、「ゲギャギギギー!」という耳障りなダミ声によってかき消された。
だが、そのダミ声自体が、俺の疑問の回答になった。
俺たちから7mほど離れて、2匹のゴブリンが悠然と俺たちを睨みつけていた。
ランスを構えている甲冑のゴブリンは、【ゴブリンロイヤルガード】。こいつは少しレベルが高い雑魚Mobだ。
そして、紫色のレザーアーマーを着込み頭に王冠を乗っけているゴブリンは、【ゴブリンキング(チャーリー)】。紫石の湧泉洞の主、つまりボスだ。
「ボス部屋に引きこもってるんじゃねーのかよ!?」
どうやら向こうの世界とは大分仕様が違うようだな。
元の世界では、関連クエストを受けたときのみ、ボス部屋と俗に呼ばれる専用マップに行くとボスとの戦闘イベントが発生する。
しかし、俺たちはクエストも受けてないし、ここはボス部屋でもない。つまり、この世界ではマップの中ならどこでもボスと戦闘する可能性があるということになる。
さっき、スパゴブが逃走したのも、ボス戦では雑魚Mobが湧かないということからくる仕様なのだろう。
「そんなことより、逃げないと!」
サエラはウインドウをタップして逃げる準備を始めている。
「待て!」
俺に大声で制止され、サエラはウインドウを操作するのを止めた。
「勝てる」
「えっ、でも……」
俺の言葉にサエラの表情にためらいの色が浮かぶ。
「言っただろ。この剣なら余裕だって」
ピートハイプラスターを鑑定したときに俺はそう言った。その意味は、雑魚はおろかボスだって余裕だということだ。
「剣を信じろ! そして、その気持ちを力に変えろ!」
俺の叱咤激励を受けて、サエラはまぶたを閉じた。そして、意を決したのか、キッと目を開く。
「戦うよ!」
桃色の瞳には力強い光がともっていた。
「よく言った! それでこそ冒険者だ。俺のチートとアドバイスがありゃ、こんな雑魚ボスくらい、楽勝だ!」
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