7-22 ソードステップの攻防
何度目か分からないブリザードが吹きつけた。
「くっ!」
このままじゃ飛ばされる。
足元は不安定な岩壁だが、ここは踏ん張るしかねえ。
凍っているのか、指はガチガチに固まり動かせない。
全身が寒さと疲労で悲鳴を上げている。寒いを通り越して体中が痛ぇ。
霊峰フィルン攻略は後半戦。
フィルン最大の難所「ソードステップ」の最後の関門、垂直の氷壁越えの真っ最中。
「うぅ……zz……zzz……」
「サエラ、寝るな! 死ぬぞ!」
雪山でお約束のセリフも今日だけはマジだ。
こんな所で寝たらリアル登山よろしく一巻の終わり。
「レイ、早くチャクラム投げてよ!」
上からヒナツの怒声が聞こえる。
「こんな逆風の中で投げられるかぁ!」
現在俺たちはキラーブリザード4体に囲まれている。
キラブリの攻撃は遠距離からの突風だ。
魔法が届く位置に来てくれたらヒナツやアリスの魔法でやれるんだが、なかなか来てくれねえ。
しかも天候によるブリザードまで吹き荒れているときたもんだ。ここは台風の腹の中かよ、ちくしょう。
突然ロープが激しく揺れた。
ロープを必死に掴んで揺れに抵抗。
「キャア!」
俺の前にいるサエラがバランスを崩した。やべぇ!
「インデュアペイン!」
落ちてきたサエラを脚で受け止める。
危っぶねぇー。インデュアペインの魔石をチャクラムに内蔵してなかったら……って思うとぞっとすんぞ。俺ごと谷底に真っ逆さまだ。
「ズニックさん! ルート工作はまだ!?」
「くそっ、全然進まん!」
上ではズニックがクマールに代わりルート工作をしている。
凍った原始人、アイスマンが進路に立ちふさがっているのだ。非冒険者のクマールに先頭を任せることはできない。
ヒナツへの返答を聞く限りズニックも相当焦っているみたいだな。
ルート工作の速度は風に影響される。進まないのは無理もねえ。
「迫ってる! 迫ってる!」
すぐ下からはアリスの絶叫。
アリスとしんがりのメマリーはゴブリンアルピニストとの戦闘中だ。
彼女たちの様子は分かんねえけど、きっとアルピニストが下からメマリーを突き落そうとしているんだろう。
さっきのロープの揺れの原因もきっとそれだ。
「ヒール! これでリキャストに入りました! これ以上の被弾はまずいです!」
きっとメマリーのHPが相当ヤバいのだろう。アリスの声がうわずっている。
「大丈夫だもん!」
メマリーの声だ。
「こんなのピンチでも何でもないよ!」
普段はへたれのメマリーだが、その声に一点の恐れも曇りもない。なぜなら――
「だから、ママも頑張って見てて!」
今は瀕死のオカンに向けて、フィルン攻略の配信中だからだ。
配信をしようと言い出したのはメマリーだった。
自分が頑張っているところを見せることで、オカンに病気と闘う勇気を与えたいと考えたのだ。
このPTで今一番不安に思っているのは間違いなくメマリーだ。母親の命があと少しの時間で消えようとしている。いてもたってもいられないはずだ。
それでも、メマリーは一切の弱音を口にしていない。
オカンに見られることで、メマリーは強く戦うことができているのだろう。
「へっ――!」
猛烈な風を全身に受けながら、俺は笑った。
戦う姿を見せられるのはメマリーだけじゃない。
俺だって戦っているじゃねえか!
固く縮こまった指を気合で動かし、外付けを変更。
チャンスを待つ。
風が一瞬止まった。
よっしゃあ、暴れるなら今しかねえ!
「メマリー、こっちを見ろ!」
荒れ狂う猛吹雪にも負けない大声で叫ぶ。
メマリーの注意がこちらに向けば、メマリーのライブカメラが俺を映してくれるかもしれねえ。
やっぱパフォーマーは見られてなんぼだもんな!
「PTリーダーの力、見せてやる! スカイウォーク!」
スキル発動と同時に岩壁を蹴り、ロープから手を離す。
無風の時間。0コンマ1秒にも満たないはずだが、時が止まっているかのようにゆっくりと感じた。
スカイウォーク発動中だから空中でも姿勢が安定している。
これなら狙いを付けて投擲できる!
「4連通しだ! リタァァァァーーン――スロォォォォーー!!」
俺は思いっきりチャクラムをぶん投げた。
唸りながら飛んでゆくチャクラム。
チャクラムを押し戻そうとキラブリが突風を吹きつけるが、全力で投げたチャクラムの勢いは止まらない。
そのままチャクラムはキラブリ4体を斬り裂く。
キラブリたちは悲鳴を上げて爆散。
ここで体勢が大きく崩れた。スカイウォークの効果が切れたのだ。そのまま谷底に真っ逆さま――。
ビュオオオオオーーー!!
叩きつけるような激しい突風。
猛烈な風はキラブリだけじゃない。天然のブリザードも吹きまくっている。何度も俺たちを苦しめてきたダンジョンギミックだ。
「これを待ってたぜ!」
ブリザードに身を任せ、岩壁に向かって流される。
その態勢でチャクラムをキャッチ。同時にウォーピックに装備変更。
新たなバトルを始めようか。
狙うは――アルピニストの集団だ!
「ぼーっと突っ立ってんじゃねえ!」
最後尾のアルピニストの脳天に目掛けて強烈な一撃。
アルピニストの頭上に星のアイコン。スタンだ。
スタンしたアルピニストは谷底真っ逆さま。
吸い込まれるような重力が俺を谷底へと誘う。このままじゃアルピニストと一緒に滑落死コースだ。
「死んでたまるかあああああ!」
鉄のように固い氷の斜面のその一点に――ウォーピックを突き立てる!
ズザザザァァァ――。
滑落が止まった。
計算通りとはいえ、なかなかスリリングなアクションだったぜ。
「ギギギッ!」
アルピニストたちが喚きながら下に降りてくる。
アルピニスト集団のすぐ後ろに付けたことで、やつらの俺に対するヘイトが上がった。
これでメマリーの負担がへるはずだ。
「ママも見てた? 今のお兄ちゃん、すごかったね!」
上でメマリーが喜んでいる。跳ねるように弾んだ声。
「お兄ちゃんの戦い見てたら力が湧いてきた。ママも一緒に頑張ろうね!」
メマリーが画面の向こうのオカンを励ましている。
俺のプレイで力をもらえたら、パフォーマーとしてこんなに最高なことはねえよ!
次回は8月4日の12時頃に更新の予定です。
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