7-14 ターキンの試練3
ターキン戦もようやく終盤。
ターキンのHPバーはほぼ真っ黒になっている。
HPは5%も残っていないだろう。
「今だよ!」
「ファイナルラストアタァァァック!」
「ハイパーエターナルアタァァァック!」
「スーパービクトリーアタァァァック!」
メマリーの号令でアニルたちがターキンに連続攻撃をかける。
フェイズ2の最初と違って、メマリーはきっちりタゲをとることができている。このままいけば問題なく押し切れるはずだ。
そう思った時、ターキンがアニルたちに鋭い視線を向けた。
もしかして今の攻撃でヘイトが上がっちまったか!?
しかしターキンは攻撃行動を行うことなく、直立したまま静かに口を開いた。
「あなたたちは何故大月経を取りに来たのです?」
「へたれの大人たちに『俺たちはすごい』って言わせるためさ!」
「大月経と何の関係があるのです?」
「大人はなぁー、竜神やゴブリンにビビって何もしないんだよ。何もできないへたれだ」
アニルの言う通りだ。強すぎるMob相手に、クマール含め村の大人たちは誰1人戦おうとはしていない。
「でも俺たちは違う! 神様のお前にだってビビらねえ! 経典を取ってくれば、俺たちのことをすごいって言うに決まってる!」
「ふむ……」
メマリーの攻撃をよけながら、ターキンはアニルたちの話を黙って聞いていた。
「今だよ!」
メマリーがアニルたちに攻撃の合図を送る。
「俺たちはヒーローになるんだぁっ!」
大声を上げ再度前に出るアニルたち。
それを冷ややかに見つめながら、ターキンは一言。
「そんな子供じみた考えでは――誰も認めてくれないでしょう」
核心を突かれたのか、アニルたちが一瞬止まる。
「う、うるせぇ!」
中途半端になってしまったアニルたちの攻撃は、あっさりとかわされてしまった。
ターキンがメマリーの方に向き直る。
「冒険者よ。あなたはこの村の者ではありませんね。何故この子たちに味方するのです?」
「ママに、お兄ちゃん、お姉ちゃん……。わたしはいっぱい愛され、大切にされてきた。みんなに力をもらえたから、――わたしはここまで成長できたし、認められた」
メマリーは自分で成長した。
俺たちがやったことは最初の手助けくらいだ。
だけど、メマリーにとってはそうじゃないんだろう。
「でも、この子たちは気づいてないの! 自分たちには大事に思ってくれている人がいるって!」
『無職じゃ護れない』と嘆いたクマールの泣き顔が浮かんだ。
「気づかなかったら、『いつまでたっても認められない』って落ち込んだまま。愛してくれる人が、力をくれる人が、認めてくれる人が、本当はすぐそこにいるのに――。そんなの悲しいよ! わたし放っておけないもん!」
最初の方からアニルたちの話に乗り気だったのは、そのためだったのか……。
「この子たちを護りたい。『大事に思ってくれる人がいる』――それをわたしの背中で伝えたいの!」
子どもたちは戦闘そっちのけでメマリーの背中を見つめていた。
メマリー。お前の気持ち、ちゃんと伝わっているぜ。
「――よろしい! ならば最後まで戦いなさい! ピアース!」
最初に動いたのはターキン。
急突進にメマリーのガードが間に合わない。
「痛ぁい!」
メマリーの悲鳴がボス部屋に反響する。
吹き上がる流血のような赤い閃光。メマリーの心臓を牛の角が貫いている。
クリティカルだ。
メマリーは慌てて回復ポーションを飲み始める。
失ったHPは1万超。この程度のダメージなら1本飲めば全快する。
「うそぉ!」
ポーションを飲み終えたメマリーが驚きの表情を浮かべた。
HPが回復していない。
ポーションは満腹になると効果が出ない。
なにしろ1時間近くの長期戦だ。メマリーはこの戦いでポーションを何本も飲んでいた。効果が出なくなってもおかしくはない。
「モオオオオオッ!!」
一瞬気が動転したメマリーにターキンが猛然と襲い掛かる。
「きゃあっ!」
ターキンの連続攻撃を受け、メマリーは壁に衝突。
残りHPは2割を切り、HPバーが血の色に染まった。
メマリーは震える膝を掴み、よろよろと立ち上がる。
「これぐらい平気だもん……」
アニルたちの方を向き、いつもみたいに――笑った。
「みんなのこと、大好きだからね」
そう言って右手を突き出し、ターキンの前に立ちはだかるメマリー。
ターキンは身じろぎもせず、じっとメマリーを見降ろしている。
ターキンの羊頭が大声を張り上げる。
「子どもたちよ。護りたいものが無ければ、ここから逃げ出しても構いません!」
固く閉じていた部屋の扉がゆっくりと開く。
アニルたちがいる場所から出口は近い。ターキンが約束をほごにして襲い掛かってきたとしても、アニルたちは無事に逃げられるだろう。
「俺たちとペチャパイって、今さっき会ったばっかだぞ。『大好き』って意味分かんねーよ……。でも――!」
アニルがクラブをぐっと握った。
「俺たちだって、村のみんなが大好きだーー!!」
「俺たちは村を護りたいんだー!」
「大事な村のために戦うんだー!」
アニルに続いて他の2人も走り出す。
「戦うというのなら容赦はしません。マジックアタック!」
茶色の服の少年の足元に魔法弾が着弾。
あと20cmずれていたら命中していただろう。
そういや、さっきもこんなことあったよな…………。
「なるほど――そういうことかよ」
思わず声が出た。
「みんないったん下がって。危ないよ」
メマリーがアニルたちに呼びかける。
「ペチャパイ、お前のほうこそぼろぼろだろ。今度は俺たちがお前を護る番だ!」
アニルがクラブをかかげる。
「お前ら、ぐるぐる回れ! 回りまくってターキンの目を回すんだ!」
「「おーー!」」
アニルの呼びかけで3人はターキンの周りを回り始めた。
しょせんはガキの思いついた幼稚な作戦。
ターキンの目を回すことなんてできるわけがない。
しかし、ターキンは的をしぼることができず、攻撃はスカを繰り返していた。
「エエエエエ!」
ついに業を煮やしたのか、ターキンが長い詠唱に入った。
広範囲睡眠、Aスリープでアニルたちを黙らせる気だ。
「今だよ!!」
メマリーの号令で3人が一斉に突撃。
「スーパーヒーローミラクルスーパーアタァァァック!」
「アルティメットゴッドアタァァァック!」
「ハイパーフルパワーゼットアタァァァック!」
しかし、ターキンはまだ倒れない。
「メエエ――」
「させないのっっっ!」
マンプルの剣身がターキンの体を貫いた。
「よく頑張りました。――試練は合格です」
呟きを最後に、ターキンは霧となって消えた。
次回は6月9日の12時頃に更新の予定です。
この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。
こちらも読んでいただいたら嬉しいです。
【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
本作の目次上部にあるJewel&Arms Onlineシリーズという文字をクリックしていただければ、飛ぶことができます。
参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n6829gk/




