7-11 一人前の男3
メマリーが質問する。
「ねぇ、アニル君。1つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何でも言っていいぞ!」
アニルはまだ何もやっていないっていうのに、すっかりハイテンション。
「クマールさんのことを『へたれ中のへたれ』とか『へたれ無職』とか言ってたけど、どういうことなの?」
メマリーの質問を聞いたアニルは急に顔を曇らせた。
口を尖らせ「ちっ……」と舌打ち。
「『へたれ』は『へたれ』。そのまんまの意味だよ…………」
「どうしてそう思ったの?」
「あいつは、竜神を怒らせた原因だって教祖にいじめられてから、言い返すことも、ゴブリンにリベンジすることも、仕事を探そうともしないんだよ。――毎日部屋にこもって酒ばっかり飲んでさ……」
クマールの泣き顔がフラッシュバックする。
誇りを奪われた男の姿が情けなく映るのは、当然かもしれない。
「そのくせ、俺には『世間の厳しさも知らねえガキが生意気言うな』とか『ガキは黙って親の言うことを聞け』とか言うんだぜ。ほんと、ムカつく!」
「俺んちも同じだよ。ドラゴンのせいで宿屋に客がいないのに、高い金出してドラゴンの銅像を馬鹿みたいに拝んでる。おかげで毎日おやつ無しだよ」
「うちのオヤジなんて、竜神にビビって家から出ようともしないからね。俺が遊びに行くのだって止めるんだもん」
怒るアニルを見て他の2人も愚痴をこぼす。
頭パッパラパーにみえるこいつらだけど、意外に家の中では苦労しているんだな。
「でもな! 俺たちは違う!」
アニルの顔つきが元に戻った。そして、持っていた棒きれを高く掲げ、アニルが宣言する。
「俺たちはへたれじゃない! 俺たちは村の英雄になる! 馬鹿にしたへたれの大人たちに『すごい』って言わせてみせるぜーーー!!」
「英雄になるぞーー!」
「ガキじゃないって言わせてやるーー!」
アニルに乗せられて、他の2人のテンションも復活した。
メマリーは悲しそうな顔でアニルたちの話を聞いていたが、再びアニルに質問する。
「アニルはパパのこと、好き?」
それを聞いて、アニルが大声で笑い始める。
「決まってんだろ。俺はあいつのことが大嫌いだーーー!!」
自分のオヤジを『へたれ』だとか『無職』だとか馬鹿にするくらいだ。好きなはずがねえ。分かりきった答えだな。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……ちょっと外でお話……」
メマリーは泣きそうな声でそう言うと、ハンカチで目元を押さえて出て行った。
ガキの相手をアリスとズニックに任せ、俺とサエラはメマリーの後を追った。
「お姉ちゃん……!」
サエラの姿を見るなり、メマリーはサエラにぎゅっと抱きついた。
サエラは何も言わずにメマリーの頭を優しく撫でる。
ガキどもの態度にメマリーは何を感じたのか。
それは俺には分からない。
だが、優しいメマリーのことだ。
きっと何かをつらいと感じたのだろう。
俺ができることは、ただメマリーを見守ることだけ。
サエラの胸で泣いて、メマリーは落ち着きを取り戻した。
「ありがとう、お姉ちゃん。もう大丈夫だよ」
メマリーは大きく深呼吸した後、お辞儀をして頼み込んだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。わたし、あの子たちの勇気を大人たちに認めさせたい。時間がないってわかってるけど……でもでも、協力してほしいの!」
「いい――」
「ダメだ」
無条件でOKを出そうとするサエラの言葉を、俺がさえぎった。
「クマールの誇りを取り戻すのは協力する。だけど、こいつは協力できねえな」
「どうして、レイ君?」
「お経を取りに行くクエストは、最後にボスとの戦闘がある。1レベルのガキがどうこうできる相手じゃねえよ」
いくらレベルなんて飾りのJAOとはいえ、レベル1ではボスに勝てない。こんなことは初心者でも分かる。
こう言えば、普通は諦めるだろう。
そう思っていた――。
「わたしが護るもん」
「あぁん?」
「護るもん」
俺が睨みをきかせても、メマリーは一歩も引かない。
「わたしは弱虫。今もあんまり変わらない……。でも、わたしはママから、お兄ちゃん、お姉ちゃんから、いっぱい力をもらった。いっぱい護ってもらった」
最初メマリーはどうしようもない下手くそだった。底辺に笑われても何もできないへたれだった。
それを見返そうと、俺とサエラは頑張りに頑張った。
「お兄ちゃんたちのおかげで、わたしはみんなに認めてもらえた。そう思ってる。――――だから!」
メマリーの赤い瞳に力が入る。
「今度はわたしが誰かを護るの! 護りたいの!」
メマリーが目を閉じ胸に手を当て、しみじみと語る。
「そうすれば、きっとあの子たちだって認めてもらえる。認めてもらえば、大切なことにだって気付けるの。――わたしもそうだったから……」
『認めてもらえば、大切なことに気付ける』――か。
昔のことを思い出すなぁ……。
まだ、アニルたちよりもガキだった頃、俺は中高生や大学生に交じってゲーセンで格ゲにあけくれていた。
技術も体格も上のゲーセンの常連たちは『ガキのくせに生意気だ』と俺を嗤った。
周りの大人たちは『ゲームなんてするな、勉強しろ』と世間の常識を押し付けてきた。
俺は認められたかった。
ゲーセンの常連たちに『お前、強すぎ』って言わせてぇ。
周りの大人たちに『ゲームを頑張ってる、礼はすごい』って言わせてぇ。
そんな思いで俺は必死にゲームに打ち込んだ。
ゲームの腕はめきめき上達し、周りの評価は変わっていった。そして、俺をとりまく舞台はゲーセンから全国へと広がっていった。
舞台が広がるにつれて、だんだん俺は感じるようになった。
俺が大好きなゲーム――、他の人にも好きになってほしい。
そんなことを考えながらプレイするゲームは、それまで以上に楽しいものになっていった。
「よく言った!」
すぐさま俺は武器屋の扉を開けた。
やると決めたら、俺はやる。
メマリーとおしゃべりしている時間なんてねえ。
扉の向こうでは、アニルがアリスを追い回していた。他のガキどもはズニックの髭を引っ張っていた。
ガキ丸出しの行動だ。
俺が言うことは1つ。
「この移動工房、お前らの依頼受けてやる!」
ガキどもの動きがピタリと止まり、キラキラした目を輝かせて俺を見上げた。
「その代わりだ――」
俺の迫力にゴクリと喉を鳴らすアニルたち。
「お前らを一人前の男として扱う。へたれることは許さねえ。分かったな!」
「「「おうーーー!!」」」
アニルたちは拳を掲げ、割れんばかりの大声で返事をした。
――アニルたちの冒険がここから始まる。
次回は5月19日の12時頃に更新の予定です。
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