7-5 霊峰フィルン攻略検討4
アリスが質問してきた。
「ソードステップって、どんなコースなんですか?」
「リアル本格冬山登山って感じのコースだな。キャンプ地からスタートし、切り立った山の稜線を抜け、急斜面を登り、垂直の氷壁を登ったらゴールだ」
もちろんリアル冬山登山よりはずっと簡単なのだが、VRで冬山登山の厳しさが味わえると話題になった。
「冬山登山ということは『静止した滝』みたいなマップですか?」
アリスが言う静止した滝とはECの1つだ。凍りついた滝をひたすら登らなければならない。かなり難しいステージだ。
「道があるようなぬりぃステージと一緒にするんじゃねえ。ソードステップは登山技能があってもまともにルート工作できねえんだぞ」
「「「ええっ~!」」」
全員が一斉に驚くのも無理はない。
登山技能は切り立った崖などを登るサブ技能。
登山技能が通用しない山なんて登れるわけがないと思うのは当然だ。
「そんなぁ……。ソードステップを攻略できないんじゃ、ママは……」
俺の話にメマリーが涙目になっている。
「バカ。ソードステップが攻略できねえなんて、一言も言ってねえよ」
そもそも、グレイシアと戦う場所はソードステップの先にある山頂だ。
ソードステップがクリア不能だったら、グレイシアの話なんてする意味なんてない。
「じゃあ、お兄ちゃん。どうやってソードステップを抜けるの?」
「霊峰フィルンを攻略するには、現地で【シェルパ】ってガイドを雇えばいい。シェルパは冬山登山のスペシャリスト。登山技能は冒険者とは比べものにならねえくらい高ぇ。デカいクレバスや氷の絶壁があっても、すいすいルート工作をしてくれる」
登山技能は数あるサブ技能のうちの1つでしかない。
登山技能前提のマップなんて実装しても大多数のユーザーから不満が出るだけだ。
JAOはたくさんの人が遊ぶゲーム。
登山技能がなくても遊べるように、ちゃんとデザインされている。
「よかったぁ……」
メマリーが胸に手を当て、ほっとしている。
「とはいえ、超難しいステージだということには変わりねえ。気合入れなきゃ死ぬからな!」
「うん!」
メマリーが涙をふいて答えた。
アリスが再び質問。
「レイさん、PTメンバーはどうするんです? 私に、レイさん、メマリーさん、ヒナツさん、サエラさん。EC以上の難易度のダンジョンに5人で挑むんですか?」
「フェーリッツ君じゃないかなー?」
「いや、サエラ。今回フェーリッツはお休みだ」
「そうなんだ。じゃあ、誰なのー?」
「それはまだ分からねえ。マッチングシステムで募集する」
「マッチング……どうしてなの、お兄ちゃん?」
メマリーが疑問に思うのは当然だ。
冒険者の酒場にPTメンバー募集を依頼し、条件に見合う人物が酒場に登録することで、初めて、マッチングが成立する。
つまり、時間がかかるのだ。
一刻を争う今の状況では、のんきすぎるともいえる。
「あと1人のメンバーは、登山技能を持つ冒険者にしてぇ」
ヒナツが質問する。
「えっ! レイ、さっきルート工作は現地のガイドにしてもらうって言ってたじゃん。登山技能はいらないんでしょ?」
「ルート工作はな。だが、登山技能を持つ冒険者は最低1人は欲しい」
「何で?」
「シェルパは冬山のスペシャリスト。水属性攻撃と風属性攻撃は無効だ」
「すごっ! 人間やめてるじゃん」
ヒナツが驚いている。
「だが、シェルパは冒険者じゃねえ。無属性の攻撃にはめっぽう弱ぇ。1~2回殴られただけであの世行きだ」
「それは……アタシたちが守らないとね」
「ソードステップは一本道だ。アイスマンっていう原始人のMobが行く手に立ちふさがっている。馬鹿正直にシェルパを先頭にしていたらシェルパが殴られて死ぬ」
ルート工作は先導している人が行わなければならない。
シェルパがルート工作をすると、素早く進めるがアイスマンには無力だ。
「ということは、アイスマンが現れたときのルート工作要員ということですね」
「その通りだ、アリス。普段のルート工作はシェルパ。アイスマンが現れたときのルート工作は登山技能を持つ冒険者。この2段構えでソードステップを攻略する」
登山技能なしでもソードステップは攻略可能だ。
しかし、難易度はぐっと上がる。
俺たちは命を預かっている。失敗は許されない。
だからこそ、ここは確実にいく。
時間は少しくらいロスしても構わない。
サエラ以外のPTメンバーといったん別れて、冒険者の酒場にマッチングしに行った。
「条件はこんなところだな。登録よろしく」
「かしこまりました」
受付のお姉さんが俺に一礼する。
「メンバー、来るかなぁ……?」
サエラが心配そうに尋ねる。
「条件はかなり緩くしたからなぁ。俺たちの話に飛びついてくれるやつがいるといいんだが……」
俺たちは1秒でも早く出発してぇ。
登山技能持ちならトップ冒険者でも中堅冒険者でもOKにした。
とはいえども、登山技能持ちの冒険者がこの世界にどれだけいるかは分からねえ。
メマリーには悪いが、明日の朝までは待つつもりだ。
俺たちの話を聞いた受付のお姉さんが柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
お姉さんはカウンターから客席に向かって歩き出し、髭面の冒険者の席の前で立ち止まった。
「ズニック様、マッチングが成立いたしました」
ズニックはローストチキンをかじりながらお姉さんに質問する。
「早いな。PTリーダーは誰だ?」
「俺だよ」
俺たちは空いていたズニックのテーブル席に座った。
「レイ=サウスさんか……。これは大物の登場だ……」
ズニックは食べていたローストチキンを皿の上に置いた。
「ズニック、登山技能を持っているんだってな。力を貸してくれ」
節分イベントに参加していたのでズニックのことは知っていたが、サブ技能までは知らなかった。
「場所は?」
「霊峰フィルン。レベル103のダンジョンだ」
「登山家なら誰でも一度はあこがれる最高峰。いいでしょう。俺でよければ、登頂の手伝いをさせてください。よろしくお願いします」
ズニックはごつごつした手を差し出した。
「こちらこそ、よろしく頼むぜ」
「すごいよ、こんなに早く見つかるなんて! 私たち、すっごくラッキーだよ!」
思わぬ展開にサエラが喜んでいる。
長期戦を覚悟していただけに、俺も嬉しい。
「サエラ、他のメンバーに知らせろ! 14時にメテオジャム前集合。霊峰フィルン攻略開始だ!」
次回は4月21日の12時頃に更新の予定です。
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