6-17 私はヒーラー4
6-14から今回(6-17)までは3人称アリス視点で話が進みます。
アリスはガボンとゴッヘムの元に駆け寄った。
「支援開始します。支援後、すぐにエンヴァを追い回してください」
2人に話をしながら、アリスの指はスキルウインドウを操作し続ける。
「俺たちの攻撃は当たんねーだろ」
「いいんです、当たらないほうが」
アリスは指示の意図を説明したかったが、時間はない。
アリスは指を止めることなく、2人に支援をかける。
「何がしてぇ――」
「ぎひゃあああああ!!」
ガボンの言葉にかぶさって、ジデの悲鳴が聞こえてきた。
「支援なんかやめろ! ジデを助けに行け!」
ガボンがアリスの胸倉を掴んで叫んだ。
彼らは仲間。心配するのも無理はない。
アリスは不安定な体勢のまま、それでも指を動かす。
「私が背中を預けているのは、ジデさんだけじゃありません」
「あぁん!?」
「ガボンさん、ゴッヘムさん。あなたたちにも預けています」
ガボンは掴んでいたアリスの服を放した。
アリスがスキルウインドウをタップ。最後の支援が完了した。
「ジデさんを助けに行ってください!」
「おうよ! 俺たちに任せろおおお!」
ガボンは意気揚々と飛び出していった。
「わしらの力見せてやるわい!」
ゴッヘムもガボンに続いた。
数十秒後。
相変わらずガボンやゴッヘムの攻撃は当たっていない。
しかし2人は、アリスがかけたバフ「エアフロート」の効果で空中を走り回り、エンヴァに迫る。
「こっちじゃあ、カラス!」
エンヴァの真上から、ゴッヘムのバトルアックスが脳天目がけて振り下ろされる。脳天は必中エリアだ。
「ガガガッ!」
エンヴァは空中で半回転し、攻撃を回避。
「ぶち殺す!!」
真横からガボンが走り寄って来る。
ガボンたちには速度を上げるバフ「ヘイスト」もかかっている。
エンヴァ程ではないが、2人のスピードもなかなか速い。
「ガア゛ッ!」
エンヴァはうっとおしそうに鳴くと、アクティブスキル「ドリフト」でガボンの攻撃から逃れた。
「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
積極的に攻める2人に苛立っているのか、エンヴァは当り散らすようにわめく。
「やった! ガボンさんとゴッヘムさんが仕事をしてくれた」
エンヴァを追い回す2人を見て、アリスはパンと手を叩いた。
2人に支援をかけ攻撃に行かせたのには意味がある。
エアフロートとヘイストのおかげで彼らの動きは格段に良くなった。
ガボンとゴッヘムの攻撃を嫌がって、エンヴァは回避行動をとるようになった。
回避行動をとるようになったせいで、エンヴァはジデへの攻撃に専念できなくなった。
次第にエンヴァとジデの距離が離れていく。
そうなると――、
「ヘイスト」
アリスの支援がジデに命中。
前半あれほどアリスを苦しめていたTDSはもう起こらない。
支援を飛ばせれば、タンクはより強化されていく。
タンクが強化されれば、アリスがジデを回復するペースも緩まる。
より安全に、より安定して戦うことができるようになる。
「当たれ、このクソカラス!」
ゴッヘムの攻撃はまたしてもスカ。
だが、それでいい。
2人のATKは高すぎる。下手に攻撃が命中してしまうと、彼らにヘイトが向いてしまうのだ。
彼らにヘイトが向いたとしても、もちろんアリスはフォローするのだが。
(そろそろ全員のヘイトが上がっている頃かな)
アリスはエンヴァのヘイトコントロールを行っている。
ジデには被弾と回復でヘイトを稼がせる。ゴッヘムとガボンには追い回させることでヘイトを稼がせる。自分は回復や支援によってヘイトを稼ぐ。
全員が緩やかにヘイトを稼いでいるため、ヘイト値のトップはジデのままだ。
全員のヘイト値を上昇させることは、本来ならば悪手。
だが、アリスには考えがある。
(よし、行こう)
アリスはジデの側に戻った。近くにはガボンとゴッヘムもいる。
頃合いだ。
「ブラインド!」
漆黒の魔法弾がエンヴァの額に命中。エンヴァは暗闇になった。
「ゲゲゲゲゲゲゲッッッ!!」
エンヴァの目の色が深緑から真紅に変わり、地面に降り立った。
そして――
「ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
エンヴァは頭を胸の辺りまで下げ、再び業火を吹き出した。
「「火炎攻撃に戻った!!」」
喜ぶガボンとゴッヘム。
火炎攻撃はフェイズ1でもやってきた。特に脅威ではない。
「アリスさん、もしかして火炎攻撃を誘導したんですかぃ?」
ジデの質問にアリスが答える。
「はい。戦局をコントロールするのもヒーラーの仕事ですから」
JAOのMobは、ヘイト値が高いプレイヤーが複数いると範囲攻撃を使用することが多い。
アリスはこの性質を利用した。
全員のヘイト値を押し上げることによって、エンヴァが火炎攻撃をするように誘導したのだ。
最後の暗闇はダメ押しの一手。
「ギヒッ! さっすが一流のプレイヤーだな!」
「わ、私なんかまだまだ……」
素直なジデの褒め言葉にアリスは恥ずかしくなった。
(さっきまで、緊張してパニックを起こしていたヘタレプレイヤーなのに……)
「ゲェャッヒャアアッ! 火炎攻撃なんか、楽勝だぜぇぇぇ!」
ジデがワンドからレイピアに持ち替える。反撃開始だ。
十数分後。
レイがタンク用のエペを製造し合流した。
エペのおかげで、タゲはジデがしっかり固定。
レイがアタックに再度参加したことにより、フェイズ2は問題なくクリアできた。
次回は3月3日の12時頃に更新の予定です。
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