6-16 私はヒーラー3
6-14から6-17までは3人称アリス視点で話が進みます。
アリスはすぐに指示を飛ばす。
「ゴッヘムさん、ガボンさん。まずは逃げ回ってください。反撃は厳禁です。レイさんには絶対に近づかないようにしてください」
「おうよ!」
「こっちじゃあ、カラス!」
ガボンとゴッヘムはエンヴァの注意を引きつけに行った。
2人が逃げ回っている間、アリスは現状を整理する。
エンヴァは飛行しながら爪で攻撃している。
飛行時はDOGが極めて高く、必中エリア以外への攻撃は回避されてしまう。
武器攻撃を必中エリアに当てることは困難。
フェイズ1で見せた火炎の武装時はDOG、ATKが低い。DtHも使用してこない。
武装を爪から火炎に切り替えさせたい。
ヘイトはゴッヘム>ガボン>アリス>ジデの順になっていると考えられる。
タンクであるジデにヘイトを集めなければ、立て直しは厳しい。
「ジデさん、これを使ってください」
「ギ……、ギヘッ!?」
アリスが渡したのは余り物の対悪魔用ワンドとヒールの魔石、ファーストエイドの魔石だ。
「俺様に後衛をしろっていうのかぁ!?」
「いいえ。回復連打と被弾でエンヴァのヘイトを稼いでもらいます」
JAOでは、ヘイトは主に次の行動によって増加する。
・接近
・自身に対する攻撃行動
・与ダメージ量
・被ダメージ量
・回復魔法の使用
・自己バフ、支援、妨害スキルの使用
・ヘイトスキルの効果
エンヴァのDOGが高すぎるため、ジデがエンヴァに攻撃を当てることは非常に厳しい。
下手に当たらない攻撃を繰り返すと、かえってヘイトが下がってしまい逆効果になってしまう。
よって、ダメージを与えてヘイトを稼ぐことはできない。
JAOでも他のゲームと同様、回復魔法を使用するとヘイトが大きく上昇する。
アリスはこの仕様を逆手に取った。
ジデに回復魔法を連打させてヘイトを集めることにしたのだ。
「とはいってもよぉ……こんなDEFじゃ、回復が間に合わずに押し込まれねえかぁ……?」
レイに作ってもらったレイピアのDEFは7980。対して、余り物のワンドのDEFは5680しかない。
レイピアでもDEFが足りていなかったのだ。ジデが不安に思うのも無理はない。
「そこは大丈夫です。タンクを守るのは――本職の仕事ですから」
アリスは胸を張ってそう言った。
「さぁ、行きましょう」
「ギヒ、しっかり頼むぜ!」
ジデとアリスはエンヴァの前に飛び出していった。
「プロボック!」
プロボックは敵を挑発状態にして強制的にタゲをとるスキルだ。
ゴッヘムを追っていたエンヴァが急旋回し、ジデに襲い掛かる。
プロボックの効果は10秒程度。リキャストタイムに突入するまで、ジデはあと3回使用可能だ。
挑発状態の間にジデにタゲを固定させたい。
アリスはジデのすぐ後ろに立ち、指示を出す。
「相手の攻撃を必中エリアで受けてください。受けたらすぐに回復してください」
「ギヒ、わざと受けるのかよぉ!?」
「怖くなりましたか?」
「怖くなんかねぇっっての!」
エンヴァの爪のHITは低く、ジデに渡したワンドのDOGでも回避になるかもしれない。
だが、それでは被弾によるヘイトは稼げない。
ときには敵の攻撃に真正面から立ち向かうことも、JAOのタンクには必要なのだ。
ザシャア!
エンヴァの爪がジデを斬り裂いた。ダメージは――14042。
2人の予想を遥かに超えるダメージ。上振れしたのだ。
「ギィヒャアアアアア!!」
猛烈なダメージにジデが絶叫する。
ジデの残りHPは208しかない。
「ヒール!」
HPは5806しか回復しなかった。
もうジデのヒールでは間に合わない。
次の攻撃をもらえば――死ぬ。
「そぉ~~んな攻撃ぃ~~、きぃぃかねえええええ!」
ジデがいつもより甲高い奇声を上げてエンヴァを挑発する。ジデは一歩も動かない。
そんなジデの背中にワンドの先を当てたまま、アリスは魔法使用のタイミングをじっと待つ。
「ガッ! ガッ!」
ジデが2回目のヒールを撃つ前に、再び怪鳥の爪がジデに襲い掛かる。
ジデの背中からは振動を感じない。
(ヒーラーを信じてくれているんだ。その想い、必ず応えます)
「ダメージディレイ!」
エンヴァの攻撃が入った。
ダメージエフェクトは発生したが、ジデのHPバーは変動しなかった。
「ヒール!」
ジデがHPを回復。回復エフェクトは発生したが、ジデのHPバーは今回も変動しなかった。
「ガッ! ガッ!」
エンヴァの攻撃を受けても、ジデのHPバーはまたしても変動しなかった。
「ヒール!」
「ヒール!」
ジデとアリスが連続でヒールを使用。
このタイミングでHPバーが初めて動いた。
ジデの現在HPは14250。満タンだ。
ダメージディレイには、ダメージによるHP減少を3秒遅らせる効果がある。
そして、そのHP減少までの3秒間は、効果が未発生のダメージと、その間に受けた回復効果とが相殺されるのだ。
アリスはこの2つの仕様を活用して、エンヴァのヘイトをジデに集め、回復魔法の無駄な使用を抑えることができた。
アリスが回復魔法をむやみに使ってしまうと、ヘイトがジデに集まる前にアリスのヘイトが上がってしまう。
ダメージディレイによってアリスは回復魔法の使用タイミングを遅らせた。
結果、アリスへのヘイトが上がる前に、ジデはエンヴァのヘイトをきっちり稼ぐことができたのだ。
ダメージディレイをジデにかけておけば、アリスのヒールによる回復量とジデのヒールによる回復量を合算して計算できる。
つまり、ジデのヒールによる回復分、アリスはヒールの使用を抑えることができたのだ。
「ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!」
エンヴァがカッティングを使用した。カッティングは通常攻撃よりもダメージが大きい。
だが、アリスのヒールと相殺されてしまえば特に危険ではない。
アリスがヒールを撃とうとしたとき、ジデがとんでもないことを言った。
「耐風外したぜ。次の攻撃でヘイトを大きく稼いでやる」
エンヴァの爪攻撃は風属性。外付けの耐風の魔石を外せば、被ダメは大きく上がってしまう。
(勝手なこと言わないで~。でも、それくらいのリクエストに応えられないようじゃ、ヒーラー失格だよ)
アリスはワンドを別のワンドに変更し、慣れた手つきで外付魔石を填める。
「ヒートオブハート」
ヒートオブハートとは、最大HPを上昇させると同時に回復を行うスキルだ。
レアリティは星5、ラグナエンドと同じ。異世界ではお目にかかれない激レアスキル。廃人プレイヤーであるアリスは当然のごとく使用する。
「ゲヒャッ! 最大HPがめちゃくちゃ上がったぜぇ!」
ジデが驚いている間、アリスは冷静に辺りを観察する。
レイは金属塊を叩いている。さっき見た時は剣を叩いていたというのに。
どうやら、1度目の製造は失敗に終わったようだ。
当分の間は自分たちだけでエンヴァと戦わなければならない。
ガボンとゴッヘムは少し離れた所に待機している。彼らへのヘイトは大分下がったはずだ。
さっきのカッティングのダメージが発生。わずかにHPが減っただけだ。回復量の大きいヒトハを使ったかいはあった。
次にスキルウインドウを確認。
ファーストエイド、サークルヒールの弾数は残っているとはいえ、ヒールの弾数は1だ。
後1回ヒールを使えば、90秒ヒールは使用不可となる。
(耐風無しの攻撃をしのげば、戦局は安定する。そろそろ頃合いか……)
アリスは次なる一手を繰り出すことした。
「ギャッギャッギャッ! そんなもんかよぉぉぉ!」
ジデが耐風無しでエンヴァの攻撃をもらった。ダメージは14860。少し下振れしたのだろう。それほどダメージは大きくない。
「ヒール」
これでジデのHPは全快する。
アリスはワンドを交換し外付魔石を填めると、ジデに指示を飛ばした。
「あと1回耐風無しで受けてください。私はここから離れます――」
「ギヒヒヒヒヒィ! みゃ~かせてくれぃ、アリスさん!」
ジデは自分に背中を預けてくれた。
今度はアリスがジデに背中を預ける番だ。
次回は2月27日の19時頃に更新の予定です。
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