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6-13 エンヴァ前哨戦

 台地の上ではジデたちがベイビーエンヴァの群れと戦っていた。

 ベイビーエンヴァを全滅させた後、巣を叩き壊す。

 すると、中央のくぼみからボコボコという音が聞こえてきた。


 バシャア!!

 くぼみから水が噴水のように勢いよく吹き上げる。そして、あふれ出した水が乾いた川に流れ込んだ。


「ああ、すかっとした! これで干ばつのクエストは完了だな!」


「おいおい、ガボン、何言ってんだ。お前ら暴れに来たんだろ。こっからが本番だぜ。見ろよ――」


 そう言って空を指差す。

 悠然と飛ぶ黒い鳥。その姿はだんだん大きくなっていく。


「悪魔の食卓のメインディッシュ――――ダンジョンボスのお出ましだ!!」



 全長5、6mはありそうな巨大な黒鷲が、


「ゲゲゲゲゲゲゲッッッ!!」


 雄叫びとともに地面に降り立った。



 現れたボスをじっと見て名前を確認する。



 名前:エンヴァ

 レベル:97(Uランク ダンジョンボス)



 エンヴァの頭上に3本のHPバーが出現。

 ボス戦の火蓋が切られた。




「ゴワッ!!」


 エンヴァが一声吼えると、エンヴァは大きく息を吸い込んだ。このモーションは――


「炎くるぞ!」


 俺の警告を聞いて、ジデは前方へ飛び出す。ガボンとゴッヘムは散開。俺とアリスは外付けの変更。


「ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


 エンヴァは頭を胸の辺りまで下げ、業火を吹き出した。


 火炎攻撃の角度は90度。距離は30m。

 気になるダメージは――589。大したダメージじゃねえな。ベイビーエンヴァよりは少し威力が高いってとこか。


 この火炎攻撃は弱い。そんなことは分かっている。

 ダンジョンボスといえど、フェイズ1は1ランク下相当の攻撃しかしてこない(出落ちボスは除く)。

 フェイズ1はプレイヤーにとってはサービスタイムといえる。


 それでも、ここで調子に乗って攻めるのは得策ではない。

 フェイズ1は、これから激化する戦闘に対する準備期間なのだ。



「ゲヘッ、さっさと行くぜぇ! ナイトフォーース!」


 ジデがナイトフォースを使用。

 ナイトフォースは攻撃を命中させたときに、ヘイト値を上昇させるスキルだ。

 飛ばれてモーション避けされなければ、エンヴァのヘイトを大きく稼ぐことができる。


 しばらくエンヴァの相手はジデ1人に任せよう。

 俺たちはもっとやるべきことをやる。


「ガボン、ゴッヘム、アリス。作戦タイムだ!」


 ガボンとゴッヘムが俺とアリスの側にやって来た。


「アリス、サンク」


「は、はい! サンクチュアリ!」


 慌ててサンクを張るアリス。まだ動きは固いままだ。

 とはいえ、サンクを張ってしまえば、火炎攻撃のダメージを受けることはない。

 安心して打ち合わせができる。


「まずは状態異常がどれくらい効くのか確認する」


 JAOのボス戦は状態異常ゲーだとよく言われる。ボスに状態異常を仕掛けていかねば勝機はつかめない(ボーナス6以上の高resボス相手は除く)。



 敵にかけることができる状態異常は全部で以下の12種類だ。


 欠損

 毒

 スタン

 麻痺

 暗闇

 睡眠

 封印

 攻撃低下

 防御低下

 命中低下

 回避低下

 速度低下


 スタン、麻痺、暗闇、睡眠、封印は「妨害系」。

 攻撃低下、防御低下、命中低下、回避低下、速度低下は「低下系」と呼ばれている。


 妨害系は低下系よりも効果が強力であり、妨害系に弱いボスはハメ殺しが可能なものもいる。

 戦いを有利に進めるうえで、妨害系の状態異常が効くかどうかは前もって知っておく必要がある。



「それがいいと思います。私のサブ技能は学者です。エンヴァの基礎ステは分かります」


 学者技能の1つ「怪物鑑定」。

 そのスキルを持っているプレイヤーは、Mobの基礎ステータスを読み取ることができるのだ。


「そいつはありがてぇ! で、エンヴァのresはいくらだ?」


「たったボーナス2です」


 各種状態異常耐性がなければ、問題なく状態異常にかかる数値だ。


「よし。アリスは麻痺以外の妨害系をまず試してくれ」


 ボスに麻痺は効かない。そういう仕様なのだ。


「わしらの回復が先じゃろ」


 俺の提案にゴッヘムが抗議する。


「タンクがヘイトを取りきれてない序盤でヒールは御法度だ。ポーション飲め」


「さっき食べすぎたから、ポーションの効果がもう出んのじゃ……」


「俺はポーションなんか飲まねえ主義だから、平常運転だぜ。なんせ、いつでも酒飲んでるからな~。うぃ~」


 ガボンが自慢にならない自慢をする。

 もっとダメだから、それ……。


「分かりました。まずはレイさんがスタンを試してください。それから、睡眠、他の状態異常を試していきます」


「アリス、レイさんに指図すんじゃねえ!」


「ひっ、すみませ……」


「良い判断だ。さすがヒーラーの専門家」


 アリスを褒める。

 俺もその手順でやろうとは思っていたが、本職の意見と一致するのは嬉しい。



「スタンは俺たち3人で試すぞ」


「あんなデカブツ、攻撃が届くかのぅ……」


 スタンさせるには相手の脳天を全力で叩く必要がある。

 しかし、エンヴァみたいな巨大Mob相手だと、普通にやってはこちらの攻撃が届かない。

 巨大Mobをスタンさせるのは難しいのだ。


「バカ、届かせろ」


 そう言って、ガボンたちに取引要請を飛ばして、ジャンプの魔石とヘッドシェイクの魔石を渡す。

 ジャンプで高く跳び、ヘッドシェイクでスタン攻撃のシステムアシストを行う。


 スタン耐性の有無を確認して初めて、エンヴァ攻略の基本戦略を組むことができる。

 如何いかにスタンさせるか。

 それこそが、エンヴァの元ネタ、ロックバード攻略の鍵となっているからだ。



 作戦タイム終了。これよりスタン耐性の有無を確かめる。


「行くぞ」


 俺たちアタッカー3人は火炎攻撃が届かない側面、背面から攻撃を仕掛けることにした。

 火炎の撃ち終わりを狙って、攻撃開始。


「ジャンプ!」


 狙うはエンヴァの脳天。ロングソードを大きく振りかぶる。


「ヘッドシェイク!」


 ズシン!!

 武器越しに伝わる確かな手ごたえ。叩いた場所はエンヴァの頭のど真ん中。きれいに決まった。


「ヘッドシェイク!」

「ヘッドシェイク!」


 ゴッヘムとガボンもヘッドシェイクを使用。

 ヘッドシェイク後の硬直中なので、2人が脳天を叩くことができたかどうかまでは確認できない。


 硬直が解け、すぐに顔を上げる。

 エンヴァの頭上に、スタンの状態異常アイコンは――無い。



 スタンの成功率はstrボーナスで決まる。俺のstrボーナスは9、ゴッヘムとガボンは8だ。スタンになる確率は結構高いと言っていい。

 にもかかわらず、3回連続でスタンに失敗した。

 ここから導かれる結論は――スタン耐性が非常に高いということだ。


 もちろん、それ以外の可能性だってある。運悪くスタンにならなかった。2人が実はスカしていた。

 だが、データが完全に分からない以上、最悪の想定をしておくのが正しいと思う。



 その後、アリスが状態異常をいくつか試した。

 睡眠と封印は効かなかったが、速低、攻低、回低、毒は効いた。




「ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


 相変わらずエンヴァは火炎を手当たり次第吹きまわっている。


「あっちいいいい!」


 逃げ遅れたガボンが悲鳴を上げる。

 HU武器を装備している俺とアリスは1000以下のダメージで済んでいるが、U武器のジデたちはそうもいかない。特にアタッカーであるガボンとゴッヘムは1回の攻撃で3000~5000ぐらいのダメージを受けている。

 楕円形の台地は狭く、エンヴァのポジショニングによっては炎から逃げることは難しい。


「おらぁっ!」


 エンヴァの脚を斬りつける。

 エンヴァのHPバーは既に黄色に変わっている。つまり1フェイズ目のHPの半分以上は削ったということだ。


「なぁ、レイさんよぉ」


 攻撃を終えた俺にジデが話しかけてきた。


「このカラスはフェイズ2になっても、ただ火を吹き続けるだけだと思いますかい?」


 さすがはトップ冒険者。いいところに気がついた。ECエンドコンテンツは初めてでも、こいつらもボス狩りをしているだけのことはある。


「それな……」



 ボスはフェイズが変われば武装が変化する。ときには前のフェイズと全く別の攻撃を仕掛けるボスだっている。

 エンヴァもフェイズ2以降は爪やくちばしで攻撃を仕掛けてくるだろう。


 気になるのはエンヴァのデザインだ。

 赤い目以外は黒一色とはいえ、あの超強敵ロックバードと全く同じグラフィックをしている。

 ロックバードとは別のMob。それは分かっている。

 火炎攻撃なんてロックバードは仕掛けてこなかったし、エンヴァには毒も効いた。ロックバードと違ってスタンは効かない。


 そう自分に言い聞かせても、ゲームでの数々の死闘がどうしても頭によぎる。

 DtHダイヴトゥヘルをかまされて死んだことは何度もある。

 ここは異世界。ゲームであって、ゲームじゃない。絶対に失敗しちゃいけねぇんだ。


 フェイズ2以降はどんなステータスになるかも分からない。

 ATKが高いのか低いのか? HITはどうなる? DOGは? DEFは? WDLウエポンディレイは?

 ステータスだけじゃない。スキルだって分からない。SPストロングポイントも不明だ。



 不明だらけのボスとのバトル。

 脳がジリジリと焼け付き、延髄がビリビリと痺れる。



「いいじゃねえか……!」



 腹はくくった。


「今うだうだ考えたって、仕方ねえ! フェイズ1はこのまま押し切るぞ!」


 フェイズ1はフェイズ2以降の準備期間。それはそうだが、分からないものにあれこれ悩んでも仕方ない。

 ときには、思い切ってどーんと行くのも大事。


「ゲヒッ! さすがはレイさん! そうと決まれば、野郎ども一気にいくぜぇぇぇ!」


 俺たちはフェイズ2に向けて総攻撃を開始した。




「ギャワ゛アアアアア!!」


 俺の攻撃を受けてエンヴァが絶叫する。

 そして、目がくらむほど眩しい水色の光がエンヴァから放たれた。


「フェイズ2、始まるぞ! 気合を入れろ!」


 予測不能の真剣勝負、楽しませてもらうぜ!



 光が収まり、


「ゲゲゲゲゲゲゲッッッ!!」


 エンヴァが激しく鳴いた。

 瞳の色が真紅から深緑に変わる。

 そして、大きく両翼を動かし――そらを舞った。

次回は2月17日の12時頃に更新の予定です。



この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




こちらも読んでいただいたら嬉しいです。


【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~


本作の目次上部にあるJewel&Arms Onlineシリーズという文字をクリックしていただければ、飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n6829gk/

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