6-12 だから俺は、ボスを狩る
ご馳走を食べ終えた後、クエスト『海老のアヒージョの入手』も終わらせた。
俺たちの狩りはまだまだ続く。
「うおおおおおっ!」
ガボンがバスタードソードを大きく振り上げ、全力で走る。狙うはインプバトラー。
対するインプバトラーは腰を落とし、迎撃の構えを取っている。
「砕け散れえええっ!」
気合一閃、ガボンはバスタードソードを斜めに振り下ろす。
だが、狙いが甘い。バトラーには命中しなかった。
バスタードソードは長さ、威力という点で非常に優秀な武器だ。
しかし、その分隙はデカい。
攻撃が失敗に終われば、長い硬直を耐えなければならない。
バトラーは弧を描くようにレイピアを振るった。
この軌道はムーンエッジ。WDLが小さく連続使用に向いているスキルだ。
デカラビア(ゴスロリ少女の悪魔)がかけたパワーアップで、レイピアのATKは上昇している。
ムーンエッジを2発、3発もらえば、大ダメージを受けてしまう。
ガボンのHPは既に5割を切っている。
ムーンエッジは致命傷になりかねない。
ムーンエッジがガボンに命中する、そのすんでのところで、
「マジックバリア」
アリスのバリアが間に合った。
エイム、タイミングともに正確。
最初に比べるとアリスも大分落ち着いてきた。
アリスの超硬いバリアの前にはバトラーのへなちょこレイピアでは話にならない。
バリアを割ることもできずに、バトラーはあっさりとやられてしまった。
隣のアリスに声をかける。
「やるじゃねえか」
「ありがとうございます」
アリスはいいプレイができたと思ったのか、したり顔で返事した。
「おい、アリス、ヒールよこせ!」
助けられたというのに礼も言わずに、ガボンが上から目線でアリスに命令する。
「は、はぃ! ヒール!」
アリスは慌ててヒールを飛ばすが、ヒールは明後日の方向に飛んでいった。
「戦闘終わったんだから、面倒くさがらずに支援貰いに戻って来い!」
ガボンがアリスにキレる前に、俺がガボンを一喝する。
アリスはジデたちに何か言われなければ、ちゃんとしたプレイをするようになった。
だが、イチャモンをつけられるとパニックになる。
この点はまだ変わらない。
もう一つ改善されていないことがある。
アリスは前に出て支援をしようとしない。安全な場所から魔法を飛ばすだけだ。
まだアリスは異世界を克服していない。
異世界で求められることを必死でやろうとしているだけだ。
そんなことをしても問題は解決しない。
今のままじゃアリスは自信を取り戻せずに、再び引きこもり生活に逆戻りだ。
異世界でも、JAOでも生き抜く術は変わらない。
それを理解して初めて、アリスは異世界を心の底から楽しむことができる。
俺たちは冒険をしながら、近くのデービー村で受けたクエスト『かんばつの村に再び水を』のクエストも進めていた。
クエストを受けると、クエストラインというものが地面に表示される。それをたどることで、イベントの発生地点に行くことができるのだ。
クエストラインに沿って進むと、干上がった川を発見。
この川が干上がってしまったために村の水が無くなってしまったのだ。
クエストラインは川沿いに伸びている。
原因を調査するべく、クエストラインをつたって歩く。
クエストラインをたどると、数軒の集落に出た。
集落に住む原住民が、川の源泉である泉の上に怪物が住みついたことで水がせき止められたと話してくれた。
どうやら怪物を倒す必要があるようだ。
悪魔の食卓の冒険もそろそろ佳境。楽しみになってきた。
クエストラインは大きな台地に向かって伸びている。
台地の上にある物を見て、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「このタイミングでか……」
台地の上にあるものは巨大な鳥の巣。
それが何を意味するのか。分からないJAOプレイヤーなんていないだろう。
アリスも巣を見上げたまま一歩も動けず、かすれ声で呟いた。
「これって、あれですよね……。ロックバードの巣にそっくりなんですけど……」
ロックバード。
JAOで最も金銭効率が高いとされるダンジョン「ダイヤモンドバレー」に巣食うダンジョンボス。
JAOトップクラスの強敵で、数えきれないほど多くのプレイヤーの命を奪ってきた。サイクロプスみたいな雑魚ダンジョンボスとは全く強さが違う。
「この上にいるのはロックバードじゃねぇよ。もうちょっとマシなやつだろ」
こんな言葉は気休めだ。事実、アリスも分かっている。
「でも、巣があるってことは、ボスはロックバードの色変えですよね。それじゃあ、【DtH】を使ってくるってことじゃないですか!?」
DtHというスキルを持っているからこそ、ロックバードは最強クラスのダンジョンボスの座に今でも君臨している。
「当然そうだろうな。DtHされたら一発であの世行きだ。文字通りな」
DtHはプレイヤーを捕まえたまま飛び上がり、上空から放り投げるスキルだ。
放り投げられたプレイヤーは当然即死。
アリスがハッとした顔になり、大声を上げた。
「ジデさんたちがいない!」
どうやら俺たちが呆然としている間に先に行ってしまったらしい。
行先は――鳥の巣しかないだろう。
アリスが泣きそうな顔で俺に頼み込む。
「お願いです、レイさん! ジデさんたちを止めてください! あの人たちは、私の言うことは聞いてくれません。でも、レイさんの言うことなら聞いてくれる。命を守れるのはレイさんしかいないんです!」
「ダメだ」
俺はアリスの要請をきっぱりと切り捨てた。
それでも、アリスは俺の肩を掴み必死の形相で頼み込む。
「お願いです、止めてください! 即死攻撃を持つボスなんて、ゲームでもないのに戦えません! この世界で死んだら……終わりなんですよ!」
この世界で死んだら終わり。
そんなことは言われなくても分かってる。
いや、1年ずっと安全な場所に引きこもっていたアリスなんかよりもなぁ、生きるか死ぬかの戦いに身を置いている俺のほうがずっと分かってんだ。
それでも、いや、だからこそ、アリスの頼みなんて聞けるわけがねえ。
歩みを止めたら、人生そこで終わりなんだよ!
「あいつらの通り名は『命知らずのジデPT』だ。俺が止めても、あいつらは止まらねえ。それに、俺だって止まるつもりはねえ」
「どうして!?」
「JAOってのは――ボスを狩ってなんぼだろ」
ボスと戦うことは楽しい!
ボスと戦えばレアアイテムをゲットできる!
JAOではみんなそう思って、ボスと戦っている。
アリスも前の世界では絶対にそうだった。そうでなくちゃ、あんな高価な装備や抱き枕なんてゲットできるわけがない。ゲットしようという気持ちすら起こらない。
異世界でも、ボスを楽しみてぇ。これは俺の本能だ。
だから俺は、ボスを狩る。
「行くぞ」
全力で生きる。
昔も今も、その姿勢は変わらねえ。
俺は巣に向かって走り出す。
アリスも黙って俺の後に続いた。
次回は2月13日の16時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n6829gk/




