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1-21 我慢のターン

最低ダメージの計算式は難しいので読み飛ばしてもらっても構いません。

 目の前には、40を超えるスパモンキーと10匹くらいのスパゴブリン。

 サルファーギズモが20mくらい後方に1匹いやがる。くそっ、チャクラムがあれば真っ先にやれるのに。無いものは仕方ねえ、まずはスパモンを減らさないと。


 全てのMobが戦闘モードに切り替わる。やつらが最初のワンアクションを取る前に、まず俺がスキルを発動。


「ウォークライ!」


 スキル名を叫ぶと同時に赤いオーラが俺から湧き上がる。


 ウォークライは、周囲の敵をひきつけるスキルだ。

 ウォークライを使うことで、サエラが襲われるのを防ぐ。

 スパモンキーはターゲットが変わりやすい。俺をスルーして大群でサエラに向かうかもしれない。そうなると、サエラを守るのは厳しい。



 最も近くにいたスパモン6匹が怒涛の勢いで迫る。下に構えていた棍をスパモンに合わせて斜めに突き上げた。

 攻撃が1匹のスパモンの足に命中。一撃でスパモンは消滅した。

 隣のスパモンも、その攻撃で消滅。

 だが、左端のスパモンはしゃがんで回避。ちっ、1匹仕留め損ねたか。


 こちらの攻撃のディレイ(硬直)中に、攻撃されなかったスパモンたちが射程距離に入る。

 すぐさま三節棍をひねりモードチェンジ。1本の長い棍から、3つの短い棍へと形を変えて、猿の大群を迎え撃つ。


「来いや!」


「ウキィ~!」


 3匹のスパモンの爪が同時に襲い掛かってきた。

 1匹の攻撃は棍でパリィ(受け流し)、もう1匹は棍でブロック(受け止める)。足元を狙ってきたスパモンは、被弾前に蹴り飛ばして対処。


 すぐさまに棍にモードチェンジ。三節棍をバトンのように振り回す。右に左に大きく回し続ける。

 間断なく繰り出される攻撃に、さすがのスパモンも不用意に追撃を行うことはできない。その隙を縫って攻撃してきたスパモンには、数が少なければカウンター。多ければパリィかブロックで攻撃を防ぐ。



 嵐のような連続攻撃を三節棍でさばき続ける。背丈の低いスパモンをさばくには目線を下にやらねばならない。だが、俺はこまめに顔を上げて周囲を確認し、タイミングを計る。


 10m前方にスパゴブを4体確認。ついに来たか!

 スパゴブたちはギギギと笑ってワンドを掲げる。魔法の詠唱だ。格下Mobとはいえ4体は多い。ダメージも馬鹿にならないだろう。

 スパゴブたちのワンドが光り、


「ギギャァ!」


 ものすごい数の火球と水球が俺めがけて発射された。


 これはスパゴブの魔法、ホーミングバブル。1発の威力こそは小さく速度も遅いが、数が多いうえ誘爆するので回避は難しい。この状況では回避不可能だといえる。



 バァン! バァン! バァン!

 火球と水球が目の前で爆ぜる。俺のHPバーが減少した。

 スパモンの攻撃と合わせて、減少したのは1000程度。俺のMAXHPが4370だから、25%ぐらいか。思ったより減っていない。


 填めている魔石は防御の魔石SS。これ1つでDEFが2300上昇する。

 湧泉洞のMobのATKはほとんど1000以下だ。だから、こいつを1つ填めただけで、サルファーギズモのエネルギーエクスプロージョン以外の攻撃は全て最低ダメージになる。

 防御SSがなかったら、今の攻撃で俺は余裕でオーバーキルされていた。



 JAOでは基本的に、【被ダメ(実際に受けるダメージ)】は【攻撃側のATK-DEF】で計算される。

 この値が、攻撃側のATKの10分の1以下(小数点切り上げ)になった場合、被ダメは攻撃側のATKの10分の1(小数点切り上げ)で処理される。この値を【最低ダメージ】という。


 例えば、敵の攻撃が3200、こちらのDEFが3040だった場合は、

 3200-3040=160≦3200÷10=320(最低ダメージ)

 つまり、被ダメは320となる。


 ちなみにプレイヤーの攻撃には最低ダメージはない。ほんとクソ仕様だ。



 前方を確認すると、さらにスパゴブ6匹が魔法の射程距離まで近づいてきているのが見えた。魔法を撃ってくるのも時間の問題だ。

 ここは我慢のターンだ。スパゴブの猛攻をなんとしてもしのがないと。そのためには一瞬の時間が欲しい。


 まずは大きくバックステップ。スパモンたちから少しだけ距離をとった。獲物を逃すまいとスパモンは猛スピードで追撃。

 バックステップしながら装備ウインドウを呼び出してタップ。ハイディングの魔石を外し、新しい魔石に付け替える。

 スパモンが追いつき爪を立てた、その瞬間。


「インデュアペイン!」


 インデュアペインは、敵の攻撃によるディレイやノックバックを一定時間無効化するスキルだ。

 ノックバックというのは、ダメージを受けた時に体がのけぞることだ。


 これほどの乱戦だと正確な動きが要求される。たったワンミスでも死ぬ。俺のステータス上ノックバックが発生しにくいとはいえども、こんな極限状況では、わずかなノックバックでも発生しないに限る。

 とはいえ、スパモンだけならインデュアペインを無理やり打つ必要はない。だが……。



 左手でインベントリを操作し、回復のポーションを取り出し、急いで飲み始める。


「グギャギャァ!」


 スパゴブたちが一斉にホーミングバブルを発射。さっきの攻撃よりもずっと多い火球と水球。


 バババン! バババン! バァン! バァン!

 おびただしい数の火球と水球が爆発。誘爆に次ぐ誘爆で爆風もすさまじい。


 だが、俺は立っていた。大地に根を下ろした大木のように身動き一つせずに立っていた。


 これこそが、インデュアペインの真骨頂だ。もしインデュアペインを打っていなかったら、爆風でノックバックが発生し、ポーションを落としていた可能性もある。

 ポーションは飲みきらなければ効果は発生しない。Mobの攻撃でポーションを落としているようでは、モンハウを制するのは難しい。



 スパゴブの火魔法で炎が吹き上がり、水魔法でシャワーのように水しぶきが上がる。そのせいで視界が悪い。

 右手に三節棍を短く持ち、勘を頼りにスパモンの攻撃をブロック。左手でポーションの瓶を握りしめながら、ポーションを飲み続ける。


 スパゴブの魔法で一気に残りHPが5割を切ってHPバーが黄色になる。HPバーはそのまま減り続け3割を切った。だが、ポーションの効果ですぐに全快。



 まだしばらくはホーミングバブルの嵐が続くはずだ。安心なんかしていられない。

 今は我慢のターンだ。耐えることを考えろ。


 三節棍を振り回しながら周囲を走り回る。走り回りながらだと狙いはつけにくいので、あまりスパモンを減らせないが、それは相手も同じこと。

 鞭のようにしなる攻撃に追い立てられ、いったんスパモンたちは俺の周囲から距離を取った。その距離約3m。

 よしっ、これなら時間が稼げる。再び回復のポーションを取り出した。


 その隙にスパモンがまたすぐ距離を詰め攻撃を開始する。その数8。うっとおしい、早くこいつらを蹴散らしてぇ!

 ――焦るな。ここは踏ん張りどころだ。今はただポーションを飲み続けることだけを考えろ。



 ポーションを飲み続けてホーミングバブルの嵐を凌ぐこと6回。炎と水のエフェクトがついにおさまった。

 スパゴブたちは俺から10m以内に近づくこともなく、ぼうっとこちらを見ているだけだ。



 JAOではスキルを無制限に使い続けることはできない。

 スキルは使用回数が決まっている。その回数に達するまでは自由にそのスキルを使うことができる。

 ところが、使用回数を使い切ると、一定時間そのスキルを使用できなくなる。この時間をリキャストタイムという。

 例えば、ホーミングバブルは3回まで使用できる。使用するタイミングは自由なので、連続して撃ってもいいし、間隔を空けて撃ってもいい。

 だが、3回使うとリキャストタイムが経過するまで使用不可となる。150秒ホーミングバブルを撃つことはできなくなってしまう。



 スパゴブリンは、ホーミングバブルの他にマジックアタックという魔法も撃つ。今は何もしてこないことから考えて、ホーミングバブルもマジックアタックも、残存使用可能回数、いわゆる「弾数」が0だといえる。


 ピンチでどうしようもなかったから耐えていたわけじゃない。俺は、はなっからスパゴブの無力化を狙っていたんだ。

 そして、その戦略は上手くいった。約30秒の間スパゴブは何もできねえ!



 前を見て状況を確認。残りはスパモンが30弱とスパゴブ12だな。

 それとサルファーギズモ1が10m後方まで来ている。こいつはスパモンたちよりも強い。戦闘になれば危険だ。速攻で倒すなり、無力化するなりしないとヤバい。



 我慢のターンは終わった。ここからは反撃のターンだ!

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