6-6 お友達から始めましょう大作戦3
6-5から今回(6-6)までは3人称ヒナツ視点で話が進みます。
アリスの登録が完了した後、彼女にはいったん帰ってもらった。
酒場にはヒナツが1人残って様子を見る。
巫というアイデンティティを捨てた完璧な変装。ばれるはずがない。
10分ぐらいしてレイとサエラが酒場にやってきた。
ヒナツは、受付の様子が分かるテーブル席で待機。
レイとサエラは受付でPTメンバー募集の手続きを始めた。
これが無事に済めば、アリスはレイとPTを組むことができる。
手続きの途中でレイがサエラに話しかけた。
「そういや、狩場決めてねーな」
「そうだったねー」
どうやらサエラは狩場をレイに伝えていなかったようだ。
「サエラ、どこがいい?」
レイに尋ねられ、サエラは「んー」と言ったきり黙ってしまった。
ヒナツは心の中で念じる。
(恋人たちの逢瀬!)
雰囲気の良いマップで2人っきりの時間を過ごせば、口下手なアリスとレイでもきっと仲が進展するはず。
「どこだっけなぁ……? う~ん、思い出せないよ~」
「特に行きたい場所がなかったら、俺が決めるけど」
「あっ、そうだ! 新しいダンジョンだよ」
「新しく実装されたダンジョンか、いいねぇ。『恋人たちの逢瀬』、『悪魔の食卓』どっちがいい?」
「みんなはステキな新マップって言ってたから~」
「じゃあ、悪魔の食卓で」
レイの決定にヒナツは心の中でツッコんだ。
(さすが冒険バカ、センスが超ズレてる! サエラ、何とか言って!)
「ステキな新マップだね~」
こっちも超ズレていた。
(悪魔の食卓かぁ……。明らかにムード悪そうじゃん。でも、アリスとレイが2人っきりになれるなら、この際、もうどこだっていいよ)
そうヒナツが祈っている横を、酒のむわっとする臭いを漂わせ3人の男たちが通り過ぎる。
床板を踏み鳴らし大股で歩く3人を見て、ヒナツは嫌な予感がした。
(ゲッ! あいつらは!)
赤いターバンの巨漢がレイに話しかけた。
「誰かと思えば、レイさんじゃねえかぁ~」
「よぅ、ジデPT。臨時か?」
レイに尋ねられ、金髪刈りあげの悪人面の男が笑って答える。
「ギヒッ! そうそう、ちょっと退屈してたし、ちょっくら臨時にでも行こうかと」
ちりちり頭で長いもみあげの男が、金髪に相槌を打つ。
「最近暴れたりなかったんでね、ボスでもぼこぼこにして、ストレス発散したいんっすわ!」
彼らは通称ジデPT。金髪がジデ、もみあげがガボン、ターバンがゴッヘムだ。
トップ冒険者随一の暴れん坊として知られている。夜中でも酔っ払って路上で歌うわ、人の酒や食べ物を横取りするわ、むしゃくしゃして店の備品を手当たり次第壊すわ、彼らが起こした乱暴狼藉は上げればきりがない。
(サエラだけでもヤバいのに、ジデまで出てきたら、お友達から始めましょう大作戦はどうなっちゃうのさぁ~~!)
ヒナツは叫びたいのを我慢して、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
レイがジデたちに話しかける。
「ボスをぼこぼこかぁ、いいねぇ。お前らのそういう姿勢、俺は嫌いじゃないぜ」
「ギヒヒッ! 俺たちを嫌いじゃないって、レイさん、あんたマジ物好きだぜぇ~」
「かもな。だけどお前ら、そんな調子で臨時PT組めんのかよ?」
レイに言われてゴッヘムが困った顔をする。
「わしらは嫌われとるからのぅ。酒場で登録してもさっぱり組めんときもある」
突然ガボンが大声で叫ぶ。
「俺は今すぐ暴れてぇんだよ! ボスをぶち殺させろぉぉぉ!」
レイが耳を塞いでジデたちに命令する。
「お前ら、こいつを止めろ!」
「黙れ、ボケェ!」
ガボンの口にゴッヘムが酒瓶を突っ込むと、酒場に平穏が戻った。ガボンが激しくむせているが、誰も気にしない。
その様子を見たジデがレイに提案する。
「そうだ、レイさん。俺たちと一緒に遊びに行きやせんか?」
ジデに誘われてレイがニヤリと笑う。
「へぇ……俺を遊びに誘うのか? さすが『命知らずのジデPT』って言われてるだけあるな。――で、どこに行く?」
「ヒヒヒッ、元冒険禁止区域『テロス洞穴』とかどうっすかぁ……?」
レイの額にピキピキと青筋が入る。
「はぁ!? テロス洞穴ってSSダンジョンじゃねーか! そんな雑魚ダンジョンの雑魚ボス倒しても、全然暴れたりねーんだよ!」
雷を落としたようなレイの剣幕に、暴れん坊のジデたちがすっかり縮み上がる。
「覚えとけ! 俺が遊びに行くっつったら、最低でも97・98・99レベルのダンジョンボスの撃破だ。これより低レベルな場所なんて、遊びにもならねーんだよ!」
(さすが、レイ。相変わらずカッコイイー。ジデじゃ、ビビって諦めるかな)
「ゲヒヒヒッッ! いいっすねぇ~。一緒に高レベルダンジョンボスをぶっ殺しましょうや」
ジデたちはかえってやる気になってしまった。
(ま、マジでヤバい……。あとちょっとで成功だったのに、どうしてこうなった!?)
ヒナツは焦った。事態はどんどん悪くなっていく。
この3匹のお邪魔虫を追い出せるのは、もうサエラしかいない。
しかし、このタイミングで、
「私、用事があったの思い出した。バイバイー」
サエラはあっという間に走り去ってしまった。こんな時だけ金色の閃光だ。
思いがけないサエラの行動にヒナツが頭を抱える。
(アリスとマッチングする前にPT抜けてどうするのさ~~!!)
確かに、PTから抜ける段取りにはなっていたが、それはアリスとマッチングが決まった後だ。
サエラが抜けたことで、もうレイをコントロールできなくなってしまった。
「レイ様、マッチングの記載はどうなさいますか?」
受付嬢がレイに聞いてきた。
「うぃ~。待つの面倒くせ~よ~。うぃ~」
「もう4人もいるんじゃ。マッチングせずに出発せんか」
「ギヒ。それがいい」
ジデPTは全員、マッチングせずに出発するつもりらしい。
(こ、こいつら……)
マッチングしないのは最悪だ。
ムードもへったくれもないジデPTがレイたちに同行するとしても、アリスとレイが一緒に狩りをしないよりは、まだましといえる。
移動工房の休みは1週間に1日。これを逃せば、次のチャンスは1週間後だ。
今日のうちになんとかアリスとレイの仲を進めたい。
「まぁ、待てよ」
諭すようなレイの声。
「高intのヒーラーがいなきゃ、高レベルのダンジョンボスはさすがに厳しい」
「じゃあ、このまま登録して待つんすか?」
「いや。そこにいるじゃねーか……」
レイがヒナツの顔をジト目で見る。
「そっすね……」
他の3人もヒナツに視線を向けた。
(あれ…………? もしかして、アタシのこと、分かってる?)
「ってわけで、ヒナツ、俺たちと狩りに来い」
なるべく正体を隠すつもりだったが仕方ない。
ヒナツは観念して自分の正体を話すことにした。
「いかにも――アタシはレスターン神宮権宮司、ヒナツ。アタシのアイデンティティを捨てさった変装。それを見破ったレイ=サウス、褒めてつかわそう」
「そういう面倒くせー反応がありそうだから、声かけなかったのによぉ」
「アタシの完璧な変装、どうやって見破った?」
「どうしてって言われてもよぉ……。巫女服着てるじゃねえか、なぁ?」
「ヒヒ、みんな気づいているよ」
レイの言葉にジデたちまで、うなずいた。
ヒナツは黄色の袴をはいている。違うところはそれだけだ。
「緋袴の朱色は巫の証! それ以外の袴をはいている巫なんて、巫じゃない!」
ドヤ顔で言い切るヒナツにレイがぼそりと呟く。
「その言葉、神託の蒼巫女さんにも言ってやったらどうだ」
「そういうわけで、アタシの正体見破った記念おみくじだよ!」
ヒナツは、みくじ筒を取り出しテーブルにドンと置いた。
「ソシャゲの意味不明なガチャ以上に、意味不明なやつキタ」
「今ならタダ!」
おみくじを引かせようと、ヒナツがレイにぐいっと迫る。
「顔近ぇ、顔近ぇ!」
「今ならタダ!!」
「わーったよ、引きゃぁいいんだろ、引きゃ」
そう言って、レイはおみくじを引く。おみくじ棒には大吉と書かれていた。
「おみくじはこれ!」
ヒナツは紙くじをレイに渡す。
「何も書かれてねーんだけど……」
「あっ、間違えて余った紙、渡しちゃった。本物はこれ! 『大吉。願い事――何事も望みのままに叶う。高望みしてもいいが、高い場所には注意。待ち人――マッチングシステムを利用すれば、2人の仲は急接近』」
「ヒヒッ、2人の仲ってなんすかね?」
「知るか。でも、まぁ、マッチングシステムで募集をかけよう」
「ありがとう、レイ! これでレイの恋愛運急上昇間違いなし!」
はしゃぎまくるヒナツを無視して、ジデがレイに質問する。
「後衛ならヒナツを連れて行けばいいんじゃ?」
「こんなうぜぇやつを連れて行って、狩りになると思うか?」
「「「確かに」」」
レイたちがマッチングシステムの登録を済ませた後、ヒナツにアリスからメッセージが届いた。
アリス『他の人が3人もいるんですけど』
アリス(どうしようのスタンプ)
アリス(「帰りたい…」と肩を落とすスタンプ)
ヒナツ『大丈夫。後衛の動きをしっかりしていれば、誰も文句は言わないよ』
アリス『上手く支援できる自信がありません』
ヒナツ『細かいダメージを受けてもヒールしない。不安だったらバリア。大きなダメージを受けたらすかさずヒール。これさえ守れば大丈夫』
アリス『ありがとうございます。でも不安で』
そういえば、アリスは他人と組むのを嫌がっていた。
横槍が入った以上、お友達から始めましょう大作戦を延期しても別に構わない。
それでもヒナツは直感的に、ここで引いたらアリスはダメになると感じた。
レイは常に前を向いている人だ。レイの側に居たいと思うのなら、嫌でも前を向かなければいけない。
1語1語心を込めて、ヒナツはメッセージを送る。
ヒナツ『誰に何を言われるかなんて関係ない。大丈夫。今日の運勢は大吉だよ。何事も望みのままに叶うってね!』
ヒナツ(おみくじのスクリーンショット)
アリス『当たっていればいいんですが』
ヒナツ『おみくじは当たるか、当たらないかじゃないよ。神様からのアドバイスを活せるか、活かせないかだよ』
アリス『活かせるか、活かせないか……』
ヒナツ『そうだよ。神様からのチャンスはそこらに転がってる。アタシはレイと一緒に前を向き続けることで、神様からのチャンスを活かせた』
自分もレイのおかげで前を向くことができた。
今度はアリスの番だ。
ヒナツ『さぁ、レイが待ってるよ!』
そうメッセージを送って、ヒナツはメッセージウインドウを切った。
数分後。
ブロンドの髪をなびかせ、長身の美女が酒場を颯爽と歩く。
「マッチングシステムで募集された方ですか?」
レイたちのPTに1人の女性が声をかけた。
それを聞いて、ヒナツは喜びのあまり声を上げる。
「アリス!」
アリスは逃げずにやって来た。
それでこそ、応援の甲斐がある。それでこそ、自分のライバル。
次回は1月24日の15時頃に更新の予定です。
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