6-5 お友達から始めましょう大作戦2
今回(6-5)から6-6までは3人称ヒナツ視点で話が進みます。
翌日の朝。
ヒナツは冒険者の酒場でコーラを飲みながら、昨日のことを思い出していた。
アリスという女冒険者とレイの仲を縮める。
それがヒナツに課されたミッション、『お友達から始めましょう大作戦』だ。
ついノリで協力する羽目になった。
(こんなこと、引き受けないほうが賢いよね……)
ヒナツはレイのことが好きだ。
姉であるツフユに逆らえずくすぶっていた自分に、レイは新しい世界を見せてくれた。
どんな酷い逆境にも屈せず、どんどん世界を切り開いていく。
そんなレイの背中が、ヒナツには眩しくて、頼もしくて仕方がないのだ。
レイと接点を持たないアリスが、どうやってレイの魅力に気がついたのかまでは分からない。
けれども、レイのことが好き――その一点だけはきっと自分と変わらないはず。
(でも、これでいい。だってさ――)
ジョッキに入ったコーラをグイッと飲み干す。炭酸のパチパチが喉をシュワーーーッと走り抜けた。
(縁結びを手伝うなんて、最高じゃん!)
今を全力で楽しむ。
そんな自分だから、レイに惹かれた。
ワクワクが止まらない。強い刺激で体が弾けそう。
(さぁ、今日もアタシを楽しませてよ!)
ヒナツがコーラの追加オーダーをしようと思ったとき、酒場の扉が開いた。
1人の女性が入っただけで酒場の空気がガラリと変わる。
流れるようなブロンドの髪に、すらりとした長身。女の自分でも思わず見惚れてしまいそうな美女。こんな人物がむさくるしい酒場に出入りしているとなれば、必ず噂になるはず。
間違いない。この女性がアリスだ。
ゆっくりと歩くアリスに、ヒナツは自分から近付いた。
「初めまして! キミがアリス?」
「はい」
「アタシはヒナ――じゃなかった、ヒハルだよ!」
「えっ……。もしかしてレスターン神宮のヒナツさん……?」
「しっ! アタシは今変装しているから、ヒハルってことにしといて」
「はぁ……」
「ねぇ、どうよ? この完璧な変装」
緋袴という巫のトレードマークを捨てた、この衣装。
ヒナツは自分の正体に気付かれない自信があった。
「普段の姿を知らないから、コメントしようがないです……」
アリスの冷静な指摘にヒナツは固まった。
ヒナツは気を取り直して本題に入る。
「ま、ま、それはいいよ。で、アリスはレイ君のことが気になっちゃってるんだってぇ~」
「いや……だから……」
「隠さなくていいよ~。アリスの気持ち、アタシにはよーーく分かるよ。うんうん」
「それは違うって……」
「ちょっとガサツで乱暴なところもあるけれど、ぐいぐい引っ張っていく俺様系っていうか、そこがキュンとしちゃうんだよね。ただ女の前だけ良いカッコつけの頼りない男と違って、有言実行。そういう男って、いつまでも一緒に人生を歩んでいけそうじゃない?」
「あの……もしもし……」
「いつも自然体だからさ、一緒に居ても気疲れしないし、幻滅しないし。カッコイイだけじゃなくて、楽しいんだよね。レイと居ると……」
「もしかして、レイさんのこと好きなんですか……?」
核心を突いたアリスの指摘が、ヒナツの心臓にクリティカルした。
「な、ななな、なぁにを、おっしゃってらっしゃるのでありまするか~。あ、あたくしのことがレイのことなど、す、す、好きとか嫌いとかそういうことじゃ、ベ、別に嫌いじゃないんだからね!」
「……聞かなかったことにします」
すんでのところでヒナツは救われた。もう手遅れなのかもしれないが。
「と、に、か、く! レイと話がしたかったら、こそこそストーキングなんてしてたってダメ! 行動あるのみ!」
そう言って、ヒナツはおみくじと書かれた細長い箱を取り出した。
「それは……?」
「これは『みくじ筒』! おみくじをここから引いてよ!」
「『引いてよ』って……、ガチャじゃないんですし……」
「チッチッチ……甘いね、甘い。この世は全て運次第。ツイてりゃ、どんな失敗も全部チャラ。幸運を手にした人が、人生上手くいくんだよ!」
「私、ガチャ運、そんなに良くないんですけど……」
「そこは……、引いて運気が上がることもあるから! さぁ、お代を払っておみくじを引こう!」
「しかも有償ガチャ! まぁ、引きますよ……」
しぶしぶアリスはおみくじを引いた。
「大吉ですね」
「やったぁ! これでレイとの仲も一気に進展だよ! おみくじはこれ!」
そう言って、ヒナツはくじを渡す。
「あれ? おみくじの紙って、直接インベントリに送られたんじゃ」
「ギクッ!」
実は、このおみくじはJAOのシステムではない。ヒナツのお手製だ。結果は全て大吉。
「えーっと……、このおみくじはレスターン神宮に伝わるすごいやつだから、普通のおみくじと仕様が違うんだ。そんなことよりも内容を読んでよ」
「はい、読みます。『大吉。願い事――何事も望みのままに叶う。高望みしてもいいが、高い場所には注意。待ち人――マッチングシステムを利用すれば、2人の仲は急接近』……ずいぶん具体的な内容ですね」
それもそのはず、このヒナツお手製おみくじの目的は、アリスにマッチングシステムを利用してもらうためだ。
「だって大吉だよ。それだけ御利益が強いってこと! さあ、早速登録してみよう~」
「マッチングシステムに登録すれば、レイさん以外の人とPTを組まされるかもしれない……」
何か思いつめているのか、アリスの表情がかげる。
「大丈夫、大吉だよ! 神様を信じて気楽にいこうよ!」
サエラとレイが、すぐにマッチングシステムでヒーラーを探す手筈になっている。サエラもちゃんと起きていた。他の横槍は入らない。
困惑するアリスに構うことなく、ヒナツが強引に話を進める。
「レイは冒険が何よりも好きなんだ。いい狩りができたら、絶対アリスのこと見直してくれるから、さあ!」
ヒナツはアリスの手を引っ張り、酒場の奥のマッチングシステムの受付へと連れて行った。
登録を済ませた後、ヒナツがアリスになるべく快活に話しかけた。
「上手くいくといいね!」
「はい!」
ずっと浮かない顔をしていたアリスが、初めて笑った。
それを見て、ヒナツも心からの笑顔になる。
(縁結び、やってよかった!)
後はレイがマッチングシステムを利用して、サエラがPTから抜ければ、『お友達から始めましょう大作戦』は成功だ。
次回は1月20日の12時頃に更新の予定です。
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