6-4 お友達から始めましょう大作戦1
この話は3人称コプアさん視点で話が進みます。
アリスが去った後、コプアさんはレイとサエラをデザートで引きとめた。レイは狩りに行くと言って断ったが、スイーツ好きのサエラは残った。
ここまではコプアさんの計画通り。
「すっごく美味しいよぉ~。コプアさん大好き~」
「こっちこそ、気に入ってもらえて嬉しいよ」
嬉しそうにチョコタルトを頬張るサエラ。
けれども、事態はチョコタルトのように甘くはない。
コプアさんはサエラに忠告する。
「ところで、サエラちゃん。今までみたいに、うかうかしてられないよ」
「何がー?」
「アリスが最後何を言おうとしたか気づいた?」
「全然分からなかったよー」
「アリスはね――『私とお付き合いしてください』って言おうとしてたの」
「ええっ~、どうして分かったの!?」
「女の勘だよ」
アリスは最初「レイ以外には絶対聞かせられない内容」を話そうとしていた。
その後話は流れてしまったが、レイに付きまとった理由を問い詰められると、顔を真っ赤にして逃げてしまった。
これが告白だとしたら説明がつく。
アリスはレイに一目惚れした。告白したいと思ったが、勇気がなくてストーキングしかできなかった。理由を問い詰められて、アリスは勇気を出して自分の気持ちを告白しようとした。
しかし、他の邪魔者が居る場で、シャイなアリスが告白できるわけがない。恥ずかしくなって逃げ出すのは無理もない話だ。
「ねえ、『今までみたいに、うかうかしてられない』ってどういうこと?」
サエラは優れた冒険者ではあるが、こういう恋愛沙汰にはてんで疎い。
「アリスとレイ君がお付き合いするっていうことは、アリスにレイ君が盗られちゃうんだよ。それでもいいの?」
「いいよー」
あまりに無邪気な返答にコプアさんは驚いた。
「何で!?」
「私が好きなレイ君だもん。他の人にも好きになってもらえたら、私も嬉しいんだ~」
(この娘、天使……!!)
コプアさんの胸の中にふつふつと何かが湧きあがる。
「よーーーしっ!!」
コプアさんは決意した。
「レイ君とアリスをくっつけよう!!」
だって、それはそれで面白そうだもの。
コプアさんは協力してくれそうなミーハー女子たちに声をかけた。
さすがに夜だったので、ヒナツ1人しか集まらなかった。
ヒナツはレイの知り合いの巫で、お祭り好きのにぎやかな女子だ。
「コプアさん、誰と誰をくっつけたらいいの!?」
興奮した様子でヒナツがはしゃぐ。
「アリスっていう引きこもり女子と――レイ君だよっ」
「え……。そっかぁー、レイかぁー。冒険と武器のことばかり考えているやつだと思ってたけど、ついに好きな人ができたんだぁー。意外だなぁー」
思わぬ人物の名前が出て驚いたのか、ヒナツは落ち着かない様子だ。
けれどもヒナツは勘違いしている。レイは相変わらずレイのままだ。
コプアさんはヒナツに事情を説明した。
「なるほどー。レイに熱心なファンができたんだぁー。あの男も隅に置けないねー」
「レイ君はかっこいいからねー」
サエラの言葉にヒナツはビクッと反応した。
「そ、そんなことないって! あいつは目つきも悪いし、口も悪いし。全然かっこよくないと思うな、うん!」
「ヒナツちゃん、何かさっきから様子がおかしいんだけど?」
「い、いやぁ……別に何でもないよ、コプアさん」
ヒナツは軽く咳払いをして、話題を変える。
「ところでさ、アリスっていう娘、ものすごい引っ込み思案なんでしょ。上手くアプローチできるのかな?」
「良い指摘だよ、ヒナツちゃん。レイ君は狩りのことしか頭にないし、アリスはシャイすぎる。いきなり告白しても上手くいくわけがない」
「そうそう!」
コプアさんの話にヒナツが大きくうなずく。
「何事にも段階があるの。それは料理でも、経営でも、――そして、恋愛でも。だから、今の目標はこれっ!」
コプアさんが人差し指をぐいっと立てる。
「『お友達から始めましょう』だよ!」
「それくらいならOK!」
ヒナツもできると思ってくれたようだ。
「でもさー、レイと話を合わせるの難しくない? あいつ、冒険のことしか頭にないし」
「大丈夫だよ、ヒナツ。私はレイ君とすぐ仲良くなったよ~」
「さすがサエラパイセン。説得力ありまくり」
「それはサエラちゃんが特殊だからだって。ヒナツちゃんの心配は的を射ていると思うな」
「うーん、じゃあどうしようかな。コプアさん、何か良い案ない?」
肩をすくめたヒナツを見て、コプアさんはにっこりと微笑んだ。
「レイ君が冒険のことしか頭にないのなら、2人一緒に冒険させればいいじゃない♪」
「お、どうやって!?」
ヒナツが食いついてきた。ヒナツは面白いことが大好きだ。最初はなぜかノリが悪かったが、もういつものテンションになっている。
「まず、サエラちゃんがレイ君を狩りに誘うの。サエラちゃんが、本格的なダンジョンに行きたいって言って、レイ君にマッチングシステムを利用させる」
マッチングシステムとは、Lv・ステータス・所持武器・攻略対象マップ・その他条件を登録することで、自動的に臨時PTを見繕ってくれるシステムである。
「アリスには先にマッチングシステムに登録してもらっておくの」
「なるほどー。そうすれば、レイとアリスが同じPTになるね。で、サエラにPTから抜けてもらえば、レイとアリスの2人っきりで狩りに行けるって算段かぁ」
「ヒナツちゃん、正解!」
「ヒナツ、すごーい」
「イエイ! アタシって天才☆」
コプアさんは話を続ける。
「狩り中なら、レイもアリスとたくさん話すでしょ」
「私もレイ君とは狩り中にいっぱいおしゃべりしてるよー」
コプアさんの言うことにサエラがうなずく。
「いくら人見知りが激しいアリスでも会話をすれば、だんだんレイ君に慣れていく。レイ君に慣れれば、自分の想いを伝えやすくなる。気難しいレイ君だって、アリスを仲間だと認めれば、いつか心を開いてくれるんじゃないかな」
「コプアさんの言う通りだと思うなー」
「サエラちゃんも、こういう感じで、レイ君の心のガードを開いていったもんね」
「えへへ~」
「なるほどー。さすがサエラパイセン。アタシも勉強になった!」
両腕をぐっと引き、ヒナツは気合を入れた。
コプアさんがヒナツとサエラに質問する。
「どうせなら2人の距離が近づきそうな場所がいいねー。何かおすすめの場所ない?」
「ふわぁ~、無い~……」
そろそろサエラは眠そうだ。
「と言われてもね~。う~ん……」
ヒナツはポニーテールの先端を弄っていたが、
「そうだ! いい場所があるよ!」
ポンと手を打った。
「どこどこ?」
「この間の神託で行けるようになったダンジョン――『恋人たちの逢瀬』なんてどう!?」
ヒナツの提案を聞いて、コプアさんのテンションがマックスに。
「きゃー! 何てステキなマップなの! 名前だけでもラブラブだよ! さすがレスターン神宮の巫!」
「縁結びはアタシにまっかせてよ☆」
コプアさんにおだれられ、ヒナツはポーズをバシッと決めた。
コプアさんが最後に締める。
「『お友達から始めましょう大作戦』は明日決行です」
「くぅ~、今から緊張してきたぁ~」
ヒナツが両腕をぶんぶん振り回す
「私は仕事があるから行けない。ヒナツちゃんとサエラちゃんの2人が頑張るんだよ」
「アリスの手引きはアタシがやる」
ヒナツがサムズアップする。
「おー」
間延びした声で、なぜかサエラが拳をゆっくり突き上げた。
その様子を見て心配になったコプアさんがサエラに声をかける。
「……サエラちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよー。起きてるよー。ステキな新マップで狩りをするんだよねー」
一応サエラの眼は空いていた。半分は閉じているが。
「ちゃんと聞いていたみたいだね。サエラちゃんにはレイ君の手引きをお願いね」
「分かったぁ…………zz……zzz……」
ついにまぶたが完全に閉じてしまったサエラを見て、不安げにコプアさんがヒナツに尋ねる。
「やっぱり、この娘大丈夫かな……? どう思う……?」
「大丈夫でしょー。途中まではずっと会話に参加していたし、狩場も分かっているみたいだし」
「そ、そうだね……」
一抹の不安を抱えながら、作戦会議はお開きになった。
次回は1月17日の9時頃に更新の予定です。
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