6-2 転生者
「転生者だと……」
俺は前の世界で交通事故に遭って死亡し、JAOの世界に転生した。これは紛れもない事実だ。
でも、ラノベや漫画じゃあるまいし、普通はありえない。転生は俺だけの特例だと思っていた。
いや、他に転生者がいるなんて考えもしなかった。
「本当なのかよ……?」
「前の世界のことをいくつか質問してみれば、嘘か本当か分かるかと」
「それも、そうだな……。日本の首都は?」
「東京」
「いいくにつくろう」
「鎌倉幕府」
「オリンピックで1位に――」
「金メダル」
「ほ、本物だ。この女は本物の転生者だ…………!!」
驚きのあまり、これ以上言葉が出てこなかった。
それ以上、女転生者は何も言わない。
「話、これで終わり……?」
コプアさんが戸惑っている。
俺はショックを受けて何もしゃべれない。女転生者もクールに黙っているだけだ。サエラはまぶたが閉じかかっている。
その空気に耐えかねたのか、コプアさんが質問する。
「私の名前はコプア。そっちの寝そうな娘がサエラちゃん。あなたは?」
「……すみません。自己紹介がまだでした。私はアリス。漢字で愛莉好」
「漢字の名前って珍しいね」
コプアさんの言う通り、この世界では漢字の名前は珍しい。
JAOは『日本人の、日本人による、日本人のためのVRMMO』。ゲーム中でも漢字が使われている。
ただ、一応中世ヨーロッパ風の世界観なので、NPCの名前に使われることは基本的にない。サエラやコプアさんといった、この世界独自のキャラクターネームもカタカナだ。
しかし、プレイヤー名にはカタカナだけでなく、漢字・ひらがな・アルファベット・数字・記号なども使われていた。
「言っておきますが、アリスはキャラクターネームです。本名じゃありません」
ゲームでは身バレ防止のために、本名は教えないというのがネチケットだった。ゲーム頃の癖が抜けきってねーな、こいつ。俺が言うのもなんだけど。
「ねえねえ、アリスさん。レイ君と同じ世界から来たっていうことは、やっぱり『げえむ』として遊んでいたんですか?」
この世界は明らかにJAOというゲームを基にして創られている。サエラとコプアさんには、俺はゲームとしてこの世界を遊んでいたから仕様やデータに詳しくなったと説明している。
「ええ、まあ」
「じゃあ、レイ君みたいにとーーっても強いんですか?」
サエラの言葉を聞いて、アリスは物憂げにうつむいた。
「別に……」
「アリス、武器を見せてくれ。武器を見りゃ、大体の強さが分かる」
「…………分かりました」
切れ長の目を物憂げに伏せたままアリスは、俺のリクエストを承諾した。
アリスは武器を携帯していなかったので、倉庫BOXから武器を持ってきた。
「とりあえず、よく使っていたウエポンだけですが……」
アリスから取引要請が飛んできた。
取引ウインドウでは相手から渡されるアイテムの性能を確認できる。この機能を利用して、自分の装備などを他人に見せるのだ。
取引ウインドウにずらりと並んでいるアリスの装備を見て、思わず唾をごくりと飲み込む。
「こいつは驚いたなぁ! 全部HU武器じゃねえか!」
当たり前だがHU武器はめちゃくちゃ高い。ゲームの頃でも簡単に手に入るような代物ではない。何度も何度もECを周回し金を貯め、初めて買える逸品だ。
そんなHU武器をたくさん所持しているというのは、相当JAOをやりこんだプレイヤーにしかできない芸当だ。
俺が興奮しているのを見てサエラもアリスにせがんだ。
「ええっ、HU武器がそんなにあるの!? すみません、私にも見せてください」
「分かりました」
「どんなのだろ……。何これぇ! 8本全部ワンドだよ!?」
サエラが驚くのも無理はない。ワンドは全100種類の武器の中でもトップクラスに高価な武器だ。HU武器はHU武器でも、ダガーみたいな安物とは訳が違う。
「しかも、そのうち4本もランクアップしてる!」
内蔵魔石をランクアップさせることで、武器のランクと性能を格段に引き上げることができる。ランクアップ品と未ランクアップ品とじゃ値段は10倍以上違った。
「それだけじゃねえ。星4や星5の超貴重な魔石がいくつも内蔵されてやがる」
レアリティとランクの差は『星』と呼ばれている。正式なJAO用語ではないが、便利なので広く使われている。
魔石などの強さを示すランクと、貴重さを表すレアリティは同じになるとは限らない。
例えば、ガチャを回してUレアリティ獲得の演出があったにも関わらず、当たったのは耐人の魔石Sだったとする。これは不具合でもなんでもない。
耐人の魔石は効果が強力なため、星3の魔石として設定されている。Uレアリティの耐人の魔石のランクは、Uランクよりも3つ下、つまりSランクなのだ。
星4も貴重だが、星5にいたっては課金ガチャでしか入手できない。サエラのピーハイに内蔵されているマインドアイやラグナエンドは星5スキルだ。
もう一度アリスに取引要請を飛ばしてもらって、アリスのワンドを鑑賞する。
「良い武器だ……」
思わず感想が口に出た。
ただ豪華なだけの武器じゃない。1つ1つの内蔵魔石のチョイスに意味がある。このワンドを使って何をしたいのか、どのボスと戦うためなのか、どんな状況を想定しているのか。全てレシピから伝わってくる。考えに考え抜かれた逸品だ。
これだけ見事なコレクションなんだ。使い手であるアリスも、きっと超一流のヒーラーに違いねぇ。
コプアさんがアリスに質問する。
「アリスはこの世界に来たばかり?」
「いえ。去年の4月の終わりに」
「へぇー、レイ君よりも早く来てたのね。意外」
俺もコプアさんと同じ感想だ。
アリスがここに来て数日から1週間程度しか経っていないのだろう。そう予想を立てていたが外れてしまった。
サエラがアリスに笑いかける。
「それじゃあ、この世界ではレイ君の先輩だねー」
「……あ、いや……まぁ……はい……」
なぜだか分からないが、アリスは目に見えて動揺し始めた。
「狩場で見たことないけど、ソロだったの?」
サエラの質問にアリスはさらに動揺する。目はそわそわと泳ぎ、口元はひくひくと動いている。
「え……あっと……えー……ソロだといえばソロ……」
「どういうことなのー?」
「す、すみません……。つまり……狩りせずに、ずっとホームで引きこもっていました……」
……どういうことだ?
あの高級ワンドは、狩りに行かないまったり勢が持てるような代物ではない。バリバリ狩りをするプレイヤーの装備。――いやそんな生温いもんじゃねえ。あれはボス厨(ボス狩りをメインにする廃人プレイヤー)の業物だ。
そんなプレイヤーが狩りすら行かずに引きこもるなんて、全く考えられねえ。何か理由があるのか……。
「なぁ、何で引きこもってたんだ?」
「そ、それは…………」
俺の質問に、アリスは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「質問を変える。こっちには答えてもらうぞ。どうして俺につきまとった?」
「そ…………その…………」
怯えていたアリスの顔が急に赤くなる。
「わ……私と…………お…………」
顔が真っ赤になったところで、アリスは立ち上がり叫ぶ。
「やっぱり言えないぃぃぃ~~!!」
そして、逃げ出すようにフォーリーブズを飛び出した。
「ストーカーの正体も分かったし、これでお開きだな」
「うん。分かったー」
「俺、そろそろ帰るわ」
そう言って俺は席を立った。
「サエラちゃん、余ったデザートあるから食べてかない? レイく――」
「俺はパス」
こうして俺はフォーリーブズを後にした。
次回は1月10日の10時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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