6-1 ストーカー
前回は評価をいただきました。ありがとうございます。
移動工房も新章突入。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。
『………………』
背中に視線を感じる。
……またかよ。これで何度目だぁ。気味悪ぃなぁ。
謎の視線を無視し、そのまま歩き続ける。
「ふぅ、疲れたぁ~」
一緒に歩くサエラが小さなあくびをする。
「昔じゃ考えられない忙しさだねー」
「だな。今週は巨人工房に通い詰めだったからな。カキ養殖も相変わらず盛況だし」
「お腹ぺこぺこ~、今日は何食べよ~」
今日の仕事を終えた俺とサエラは雑談しながら夜の通りを歩く。3月になったとはいえ、18時前になると陽は完全に沈む。家々に明かりがともる時間だ。
『………………』
相変わらず、へばりつくような視線。
ぴったり俺の後を付いて来やがる。ああ、もううぜぇ!
「出てこいや!」
ぐるりと後ろを振り返る。
数人の通行人が黙って歩いているだけだ。特に怪しい人影はない。
「どうしたの?」
「別に」
前を向き直り歩き出した。
『………………』
正体不明の視線を浴び続けながら、俺たちはフォーリーブズに向かった。
食後のコーヒーを飲んでいる時に、サエラが質問してきた。
「そういえばレイ君、どうしてさっきキョロキョロしてたの?」
「サエラ、お前は街を歩いていて、何か感じなかったか?」
「最近あったかいよねー。歩いていたら寝ちゃいそうだったよー」
何も感じていないらしい。頭の中まで春で何より。
「昨日からだけどよぅ、街を歩いていると、誰かに見られている気がしてな」
俺の言葉に反応して、コプアさんが台所から飛んできた。
コプアさんはフォーリーブズのオーナーだ。料理は上手いし、俺たちに協力してくれる。おせっかい焼きでミーハーなのが玉に傷だ。
「それって、レイ君のファンだよ! ストーカーだよ!」
「レイ君、ファンができたんだー。すごーい」
「サエラちゃん、ライバル出現だよ。がんばって!」
「何だかよく分からないけど、がんばるー」
なぜか楽しそうな2人。他人事だと思って呑気なやつらだ。何だか分からないのは、俺の台詞だっつーの。
「一応捕まえようとはしたんだが、勘がいいのか、全然尻尾を出しやがらねえ」
恐らく裏通りや物陰にサッと隠れるのが上手いのだろう。俺が振り返った時には、ストーカーは完全に姿をくらましている。
「隠れるのが上手いんだ。あっ、もしかしてフェーリッツ君かも!」
「……男か。つまんない」
コプアさんの目は死んだ魚のようになってしまった。なんだよ、その反応。
「フェーリッツじゃないだろ。俺をストーキングする意味がねえ。真面目な話、俺はタイラン商会のスパイだと思う」
「うわぁ……。それはご愁傷様。私みたいになる前に、早く何とかしないとね」
コプアさんはタイラン商会にスパイを送り込まれ、悪質な営業妨害を受けたことがある。その気持ち悪さ、脅威は人よりもよく分かっているだろう。
「そこで、サエラ、コプアさん。協力してくれ」
「どうすればいいの?」
「それはな……」
フォーリーブズを出て俺たちは帰路につく。途中まではサエラと一緒だ。
『………………』
やっぱりまだ居た。スパイを無視して俺たちは歩く。
「ようやく休みか。なぁ、明日の昼にでも、どっか遊びに行かねえか?」
『いいよー。どこに行くのー?』
「その時の気分で決める」
『そっか。私、そろそろ行くね』
「お疲れ」
交差点に着いた。サエラとはここで別れる。
サエラは手を振って前に駆け出す――その直後、
「捕まえたーー」
後方でサエラの声が上がった。
「でかした!」
声がした場所まで急いで駆け寄る。俺とさっきまで歩いていた「サエラ」もUターンしてやってくる。
「ストーカーを捕まえたよー」
サエラが見知らぬ女の腕を掴んでいた。ストーカー女は抵抗もせずに不思議な顔をして俺たちを見つめている。
「さっきまでサエラさんと一緒にいたのに。どうして……?」
「私の変装、様になってたでしょ」
そう言って、カツラを取る女性。コプアさんだ。
JAOはゲーム。設定をいじれば、服装や髪型を変更するくらい造作もない話。
「でも、サエラさんとレイさんの2人でお話してましたよね。あれは一体……?」
「答えはこれだよ」
『答えはこれだよ』
サエラと虚空から同時に聞こえる声。
「お前が聞いていた声は、俺と歩いていたコプアさんの声じゃねえ。サエラとのPT通話をスピーカーモードにして流していたんだよ」
サエラには俺のはるか後ろを歩いてもらい、ストーカーを見張らせていた。
だが、行きにいたはずのサエラが帰りにいないと怪しまれる。偽サエラだけじゃ不自然だと俺は考えた。
そこで、PT通話でサエラと話をすることで、ストーカーの警戒心を緩めたのだ。
「仕様を活かして私の虚をつく作戦。さすがです」
女ストーカーはグラサンをさっと外した。
金髪碧眼の長身。9等身はありそうな、バランスのとれたプロモーション。女子であってもファンがつきそうな程の端正な顔立ち。まさに絶世の美女だ。
コプアさんが女ストーカーを見るなり、頭を押さえてふらついた。
「かっ……かっこいい……」
どうやら女子好きのコプアさんはノックアウトされたようだ。まぁ、無理もねえか。
「さてと――あんたにはたっぷり話を聞かせてもらおうじゃねーか。ストーカーさん、いやスパイさんよぅ」
俺の言葉に、長いブロンドの髪をかきあげ不敵に笑った。
「望むところですよ」
あれ? スパイだから話しちゃダメなんじゃねーの?
一抹の疑問が浮かんだが、とりあえずフォーリーブズに戻ることにした。
フォーリーブズに着くまでの道中、女スパイは逃げようとすることも、抵抗することもなかった。
テーブルに座る美女。コプアさんがジト目で俺を見る。
「こんな美人さんにストーカーされるなんて……。レイ君、代わって」
「タイラン商会にまたパクられんぞ」
どんな美人でも相手はスパイ。見た目に惑わされてはいけねえ。
「そうだよね。タイラン商会の手先だもんね……」
コプアさんの言葉を女が否定する。
「私はタイラン商会の手先ではありません」
口だけなら何とでも言える。俺は女を追及することにした。
「証拠」
「な……無い……」
「そんな嘘が通用すると思ったか、まぬけ!」
「う、嘘じゃない……」
「じゃあ、どうしてレイ君をストーカーしてたの?」
サエラが女に質問する。
「レイ君のこと、好きだったとか!」
興奮して叫ぶコプアさん。
「大切な話をしようと思っていたんです。でも、なかなか話す勇気がなくて……」
「大切なお話ぃーー!!」
コプアさんのテンションがさらに上昇する。
「話があるんなら、今話せ」
俺に詰め寄られ、弱った顔をする女。
「レイさん以外は席を外してほしい。絶対に聞かせられない内容だから……」
「絶対に聞かせられない内容ぉーーー!!」
コプアさんが再び叫ぶ。さっきよりうるせぇ。
「これ以上騒いだら、ここから追い出すぞ」
「私のお店なのに……」
「とにかく、俺に言いたい事があるなら、今ここで話せ。できなきゃ、お前の話は聞かねえ」
追い込まれて、女は観念した表情を浮かべる。数秒黙っていたが、唇をキリっと結び話し始めた。
「レイさん、あなた――――」
「何だ?」
「転生者ですよね? ――私と同じ」
次回は1月6日の12時頃に更新の予定です。
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