5-47 立派な巫
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「――っていうわけで、これが移動工房レンタルサービスの新プランだ」
俺の説明が終わっても、3人の冒険者は黙って考えている。彼らは移動工房の常連だ。
「この話、どう思う……ガンザス」
盗賊風の冒険者が、3人のリーダー、ガンザスの顔を横目で見る。
「僕たちはレベル85以上のダンジョンに挑んだことはない。それらを飛び越してレベル98のダンジョンを攻略する。僕たちのキャリアを考えれば、無謀な挑戦。僕としては……」
ガンザスは腕組みを解き、顔を柔らかくほころばせた。
「それでも、ぜひ行きたいね。『巨人工房』に」
今回、移動工房レンタルサービスに新プラン『巨人工房攻略コース』を加えた。サイクロプスを倒し、得たU鎚を移動工房が買い取るというプランだ。
「本当に俺たちで狩れるんすか?」
半信半疑といった様子でイケメン冒険者が俺に質問する。
「心配すんな。サイクロプスの行動パターンは全て調べ尽くした。行動パターンが分かれば、あんなやつ楽勝よ」
巨人工房攻略を新プランにするにあたって、サイクロプスのデータは徹底的に調べ上げた。楽勝で狩ることもできないようじゃ、レンタルサービスにふさわしくない。
こちらがHU武器を装備した状態で行動するか、サイクロプスの3フェイズ目のHPバーの3分の2を下回るか。それらがトリガーとなり、サイクロプスは鍛冶を始める。
HPを削られたサイクロプスが鍛冶を始めたタイミングで、火力極振りの武器に持ち替えてひたすら攻撃すれば、あっさり狩れることが分かった。そうやって倒せばHU武器すら不要。
「でも本当にいいんですか? 全員分の鎚を買い取るなんて。買取額がものすごい額になりますよ」
巨人工房攻略コースは、これまでのコースのような経験値稼ぎ目的ではなく、金稼ぎ目的のレンタルサービスだ。利用者に儲けてもらわなければいけない。
とはいっても、冒険者が現金を得るには、クエスト報酬などのU鎚を冒険者から俺が買い取らなければならない。俺の支出が前提だ。
「俺の心配をしてくれてありがとよぅ、ガンザス。でも、いいんだよ、これで……」
この世界にUランク以上の武器をもっと広めたい。
これは異世界転生初日から抱いていた俺の願いだ。けれども、低レベルすぎるこの世界では到底叶わぬ夢物語だった。
U武器を製造するにはU鎚やU金敷が必要になる。それらはECである巨人工房をクリアしなければ入手不可能。
だが、巨人工房をクリアすることができるようになれば、この世界でもU鎚やU金敷の産出がいずれ始まる。少なくとも、U武器が作れなくなるという事態は起こらない
俺の夢はまだ道の途中。だが、それに向かって一歩踏み出すことができた。嬉しくないわけがねえ。
「そうですか。ところでレイさん、早速これから巨人工房に行くことはできませんか。SS武器をレイさんから買ったおかげで、なにぶん僕たちも金欠ですからね」
「せっかくの申し出で悪ぃんだが、俺たちは15時から用事があってね。明日の朝なら予約が空いてるから、その枠でどうだ?」
「ええ、それは構いませんが……」
ガンザスが困った顔をしている。
「どうした?」
「もう15時過ぎていますよ」
「なぁにぃ!」
時計アプリを確認。現在の時刻――15時3分。
「サエラ、起きろ!」
「おはよ~、レイ君~」
「遅刻だ、急ぐぞ!」
「うわぁ~、ほんとだぁ~」
寝ぼけまなこだったサエラも飛び起きた。
「ガンザス、すまねぇ。悪ぃけど、もう行くわ。明日の朝一の枠で予約受け付けたぜ」
「よろしくお願いしますよ」
巨人工房のコースの予約だけ受け付けて、俺とサエラは慌てて酒場を後にした。
向かった先はレスターン神宮。
走りながらサエラが話しかけてきた。
「ツフユさんの言う大事な発表って何かなぁ?」
5日前ツフユからメッセージが届いた。大事な発表をするから神託の発表に来てほしい、という内容だ。
「『聞いてのお楽しみ』だとさ」
そう言うくらいだから悪い話じゃないだろう。とはいえ、油断はできない。MMORPGではユーザーにとって不利益なパッチが当たるのは日常茶飯事だからだ。前回のSP/WPとかな。
拝殿に到着。時間は15時11分。完全に遅刻だ。
「ツフユさんはまだみたいだねー」
観客以外は誰もいない。神託の発表はまだだった。セーフ。
「もしかしてツフユのことだから発表をサボったのかもな」
「かも――あっ、そろそろ始まるみたいだねー」
雅な音楽が流れてきた。観客たちもしんと静まり返る。
奥から一人の巫女が出てきた。
白衣の上から紋付の白いカーディガンを羽織り、これぞ巫女装束といわんばかりの朱い袴をはいている。ぱっちりと開いた朱い目から感じる、燃えるような情熱。
――ヒナツだ。
本来ならば神託の発表は、ゴッドメッセンジャーと交信できるツフユの仕事。怠惰の極みであるツフユだが、これだけは頑としてヒナツに譲ろうとはしなかった。
プライドを守ることすら面倒くさくなったツフユが自分の仕事をついにサボったのか、それとも――。
ヒナツは舞台中央で足を止め、短い祈祷を行う。深くお辞儀をした後、観客の方を向き、いきなり宣言する。
「今回からはこの私――ヒナツも神託の儀を執り行います!」
俺たちだけでなく、観客もどよめいた。
それもそのはず。神託を授かり発表することができるのは、神託の蒼巫女ツフユだけ。神槍の朱巫女ヒナツにその資格はなかった。
そんな俺たちの動揺を無視して、ヒナツはさらに言葉を続ける。
「神様は私に声を聞かせて下さったのです。そして、こう仰いました」
『人々を引っ張っていきなさい。世界を守っていきなさい。――それが神託を授かる貴方の使命』
この世界を守りたいと願うゴッドメッセンジャーの言葉を伝えるのが、巫の使命。ツフユはそう言った。その言葉に間違いはないだろう。
けれども、守ろうとするだけでは何も変わらない。人々を引っ張って変えることも時には必要なのだ。
神はヒナツの強い意志をちゃんと見ていてくれたのかもしれない。いや、ひょっとしたら、ヒナツの強い意志が神を引っ張ったのかもしれねえなぁ。
「これからは神託を授かる者として、人々を引っ張り、世界を守っていくことに全身全霊で邁進いたします!」
再び深く頭を下げるヒナツ。頭がお腹につきそうなほどの深いお辞儀。
それを見て俺は手を叩く。俺の拍手を皮切りに割れんばかりの拍手が沸き起こる。
隣にいたサエラが話しかけてきた。
「ヒナツ、よかったねぇ~~」
「ああ。あいつならツフユ以上の良い巫女になるだろうな」
「ツフユさんはどう思っ……ゴメン、何でもない」
「あいつが喜んでいないわけねーよ」
「だね」
朱巫女は頭を上げると、感謝の言葉を口にする。
「ありがとうございます!」
姉の後を追うだけの半人前はもういない。
今人々の前に立っているのは、神からも認められた立派な巫だ。
5章のストーリーはここで終了です。
次回は12月30日の12時頃に更新の予定です。
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