5-45 命を守る武器2
「いやぁ~、増えた増えた~」
サイクロプス討伐クエスト報酬のU鎚6本と、サイクロプスのBBドロップで出たU鎚1本。合計7本のU鎚を今回の狩りで得ることができた。
約3か月半ぶり――この世界に来てから初のU鎚の補充か……。嬉しいねぇ。
「レイさんはいいっすね~。俺なんて、せっかく出た耐人SSが、1時間もしない間にパーよ、パー」
フェーリッツが俺にうざ絡みしてくる。
俺は金出して全員分のU鎚を買い取ったんだよ。文句は言わせねえ。
「るせぇ。大体、そう言うお前こそBBドロップ当てたじゃねーか。このクソ幸運チート野郎!」
「そうだ! フェーリッツだけU鎚2本買取とかずるい! アタシたちになんか奢ってよ!」
「この後デートだからマジ無理だしー」
「奢ってくれなきゃ、デートに付いていって『ケチ』だって言いふらしてやる!」
今度はヒナツがフェーリッツにうざ絡みする。
ヒナツもうぜぇからなぁ~。いい気味だ。
「これでいっぱいU武器作れるね」
サエラが目を細めて微笑んだ。
ほんわりとした笑顔に少し癒される。それと同時に、やってやろうという熱い気持ちも湧き上がってきた。
「ここからだな」
「だね~」
俺たちの話を聞いてメマリーもはしゃぎだした。
「わたしも移動工房を応援するよぉ!」
「ありがとう~、メマリーちゃん」
「お前は早くレベルカンストして、俺たちに追いつけ」
「うん! がんばる~」
「そろそろ帰ろうぜ。景気づけにU武器でも作りてぇ!」
俺たちが話をしていると、これまでずっと黙っていた人物が口を開いた。
「待てよ」
流れるような黒髪をなびかせ、真剣な表情で俺を睨んでいる。――ツフユだ。
他のメンバーもおしゃべりをやめて、ツフユの方を向く。
「レイ=サウス、帰る前に1つ聞いておきたい」
「……何だよ?」
「あの日の質問、覚えているよな……」
「ツフユ!」
ヒナツが声を荒げる。せっかくの楽しい雰囲気をぶち壊した姉にムカつくのは無理もねえ話だ。
「もちろん。ケリ――つけねえとな」
ヒナツの制止を振り切り、再びツフユに視線をぐっと向ける。
ツフユとヒナツが大ゲンカをした日、俺たちはツフユから1つの問いを突き付けられた。
ツフユにとっては俺をやり込めるための手段だったのだろうが、そんなことはどうでもいい。
その時、俺は満足のいく答えを示すことができなかった。
けれども、それに答えられなきゃ武器屋として先に進めねえ。
世界一の武器屋になるために、ツフユに道を示す!
あの日のように険しいツフユの顔つき。心臓を直接揺らすような低く重い口調でツフユが問いかける。
「命はたった1つしかない。違うか?」
「そうだ」
これは前提。どの世界でも答えは同じ。ここまでは問題ない。
そして、あの日と同じ問いがツフユから投げかけられる。
「レイ=サウス。あんたの武器は、たった1つしかない命――絶対に守りぬけるのか?」
そんなの答えは決まってる。
「不可能だ」
俺はきっぱりと答えた。
「どんなに良い武器を作っても、人は死ぬときは死ぬ。俺がどれだけたくさん武器を作って広めても、その真理だけは変えられねえ」
俺はこの1か月間、12個フルの武器の普及に努めた。
少しでも良い武器を作ろう。少しでも安全に戦える武器を作ろう。そういう思いで武器を作ってきた。
それでも、人は死ぬときは死ぬ。さっきの戦いでも危ない局面はあった。節分イベントだって、もしどうしようもない下手くそがミスってしまっていたら、不幸な事故は起こっていたかもしれない。
俺の答えにツフユは眉を吊り上げ、まくしたてるようにしゃべり始める。
「あれほど威勢のいいことばかり言っといて、出した結論が『不可能』かよ。だっせぇ。勘違いするんじゃねーぞ。あたしは、あんたの大言壮語なんかにこれっぽっちも期待してないからな。これに懲りたら、できもしないことを2度と口にすんなよ。笑いものになりたくなければな」
勝ち誇ったような目をして俺をあざ笑うツフユ。
嘘だ。この罵詈雑言はツフユの本当の気持ちじゃない。
こいつとも色々あった。もう惑わされない。
「――じゃあ、何もしないのが本当に正しいのか?」
俺の問いに、ツフユの言葉がぴたりと止まった。
「何もしなかったら、何もできねえ。命を落とす狩りがダメだっていうのなら、極論を言えば、タランバでさえも行けやしねえぞ」
タランバというのは底辺御用達のマップだ。Mobの攻撃力が低く、超ビビりの底辺たちでさえも通えることができる。
けれども、タランバにだってアクティブMob(攻撃してくるMob)はたくさんいる。攻撃されても無抵抗でぼーっとしていれば、いつかは死ぬ。
思えばこの1か月、たくさんの人と話をした。色々考えた。多くのことを学んだ。武器屋として、ゲーマーとして、人間として、大きく成長できた貴重な経験。
そこから得られた結論はこうだ。
「武器をたくさん作っても死ぬのなら――――、もっとたくさんの武器を作って人を死なさないようにする」
「どういうことだ?」
「人の死をゼロにできる武器なんて無ぇ。でも、1つ1つの狩場やボスに合わせた武器を広めれば、もっと簡単にもっと安全に戦えるようにはなる。そんな武器がたくさん広まれば広まるほど、死はゼロに近づいていく」
JAOは最強武器1本でどうにでもなるヌルゲーじゃねえ。1つの狩場、1体のボスでもそうだが、足りないところをサブウエポンで補う必要がある。
この世界も同じだ。
U武器を数本作ったところで、ほとんどのECは攻略できない。挑戦者は命を落とす。
だが、狩場ごと、ボスごとに特化武器を作って広めれば、大半の冒険者は命を落とすことなく攻略できるようになる。
俺はそんな世界を目指す。
俺の言葉にツフユが反論する。
「世界はな、ものすごいスピードで広がり続けているんだぞ」
「それ以上に、たくさん武器を作ってカバーすりゃいい」
「何本作る気だ。そんなの、移動工房だけじゃ到底無理無理」
「だから、いずれタイランたちにも、ちゃんとしたU・HU武器を作らせる。――必ずな!」
俺の言葉にツフユが目を見開いて驚いた。
「そんなこと……!」
「やるんだよ。そのためにはお前の力も必要だ、ツフユ」
「あたしが……? 何するのさ」
「さあな。これはある男の受け売りなんだが――」
これはJAOのメインプロデューサー伊澤星夜が配信でよく言っていた言葉だ。
「『1人の力じゃどうにもならないことでも、みんなの力を合わせたら――上手くいくんだ、絶対に!』ってな」
伊澤星夜はJAOのメインプロデューサーでもあり、JAOのモーションキャプチャーのモデルでもあり、芸能人でもあり、人気動画配信者でもあり、武術の達人でもあり、元歌舞伎町ナンバーワンホストでもある超人だ。
そんな超人の彼でも1人の力だけでは、JAOというゲームを作ることはできなかった。多くの人が自分の夢を後押ししてくれたからこそ、世界は生まれたのだ。
彼はインタビューや動画でよくそんな話を口にしていた。
この世界に転生するまでは、「まーた、星夜が視聴者をヨイショしているな」ぐらいにしか思っていなかった。
でも最近は、その言葉の意味がだんだん俺にも分かってきた。
タイランを倒すのにツフユが何の役に立つのか、そこまでは分からない。
でも、ツフユが俺の野望を後押ししてくれるのなら、こんなにありがたい話はない。1つ1つの応援が俺の武器になる。
みんなから力をもらえば、タイランなんて屁でもねえ!
「あっ~はっはっはぁ~~。そこでそれはねーよ、レイ=サウス」
突然ツフユが笑い出す。
「何がおかしい?」
「ごめん、悪気はないんだ。お前は知らねーからな。その台詞な、あたしの元彼フィルドのだっせぇ~決め台詞だよ!」
ツフユの言葉にヒナツが続く。
「うんうん。確かによく言ってたね、それ。アタシは嫌いじゃないよ。ださいけど」
ヒナツだけでなく、サエラとフェーリッツもうなずいた。
「あ~言うんじゃなかった! 俺もだせぇって思ってたのによぉ!」
ツフユが逸れてしまった話を戻す。
「命を守る武器、それをタイランたちにも作らせる、か……。――いいよ。あたしも協力してやる。感謝しろよな」
「あとで面倒くさいって思っても、知らねーぞ」
「それが人に頼む態度かよ。まぁいいよ。フィルドの恥ずかしい台詞を言ったから、それでチャラにしてやる」
もう2度と言わねーぞ。
「っていうわけで、ヒナツ後は任せた」
ツフユに任されヒナツのテンションが上がる。
「よぉーし! 移動工房の成功を祈ってぇー、大吉出るまでおみくじ引きまくりだー!」
「それって占いって言えるのかよ」
「面白そうだね~。レイ君、やろうよ」
「お兄ちゃん、わたしもおみくじ引きたいなぁ~」
「レイさんのちょっと大凶見て見たい~」
「てめぇが大凶引けや、フェーリッツ!」
こうして、巨人工房初クリアの打ち上げとして、レスターン神宮でおみくじ引き放題大会が行われたのだった。
次回は12月23日の12時頃に更新の予定です。
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【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~
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